逆襲無双
魔法を使えて大喜びのリリアはその後嬉しそうに火魔法を暴走させながらヘトヘトになるまで練習していた。そのあと俺は、彼女たちに俺が知っている魔法理論を教えた。
「あ、ありえない。全てが常識外れのことばかりだわ。魔方陣が補助扱いなんて……つまり私とルナフレアは魔力が多すぎるが故に魔法が上手く使えなかったってこと?」
「そういうことだ。予想が的中してよかったよ」
「クオン、あなた何者なの?」
「何者って普通の人だけど……」
「まあ……いいわ。あなたには二度も助けてもらった。感謝してもしきれないわ! 絶対にこの恩は返すから」
「気にしなくていい。これも何かの縁だ」
リリアにそういうと、彼女は少し照れたような顔をしていた。
「なるほど……恩を売って、美少女を落とす、と……メモメモ」
「お前は何メモしてんだよ!?」
いつのまにかルナフレアはメモ帳にペンを走らせていた。
「クオンの行動からいろいろなことを学ぶ……!」
彼女は志高そうにドヤ顔をしているが、努力の方向性を間違っているとしか思えない。
そんなこんなで俺の長い一日は終わった。
リリアたちに魔法を教えた俺は、そのまま学生に用意された寮に帰って一夜を明かした。
そして次の日、再び学校で退屈な授業を聞くことになる。
俺はこんなものを聞くために学校に来たわけじゃない。酒の手掛かりを探すために来たんだ。とりあえずクラスの連中にいろいろと尋ねていきたいところなんだが、貴族のやつらは同じZクラスといえど仲良くする気はあまりないらしい。話しかけても無視しやがる。
どうしようか、そう考えていると模擬訓練とやらの時間がやってきた。これは自クラスの生徒同士で実戦形式の魔法での戦いを行うというものだ。それだけならよかったのだが、授業の終わりごろにクラスごとに三名選ばれて、他クラスの生徒とも訓練を行う。
当然だが、格上クラスに毎回ボコボコにされる我がクラスメイト達はこの授業が嫌いらしい。
これはチャンスだと俺は考えた。ここで俺が他クラスに勝利すれば、クラスから多少の信頼は得られるだろうから情報集めがしやすくなる。授業を見てる様子ではなぜかこの学校の魔法は大したことがない。これなら弱い俺でも倒せるはずだ。
それに何より、俺にヤジを飛ばしまくってたやつらをぶっ飛ばせるいい機会だ……!
おっと余りの嬉しさによだれが出てきやがった……! 我慢しろ俺。
「それではZクラスとAクラスは代表者をそれぞれ三名出してください」
授業の終わりが近くになり、ようやく待ちに待った時間が来た。勿論俺のクラスからは誰も出ようとはしない。思った通りだ。
俺は声を挙げた。
「俺が出るよ。あとリリアとルナフレアもな」
俺がそういうとクラスからは疑問の声が上がる。
「ルナフレアさんはともかく、魔法の基礎も知らねえ野郎が出てどうするんだ? それに魔法が使えないレオンハートまで」
そんな感じで言われるが、結局やつらは自分たちが出ようとはしないので俺は訓練に参加することに成功した。
リリアとルナフレアが俺に言われて近くに寄ってきたが、二人の表情は真逆そのものだ。ルナフレアはワクワクにあふれているような表情をしているが、リリアは不安そうだ。
「ね、ねえクオン。Aクラスの奴らなんかに勝てるわけないよ」
「ふふ、それはどうかな。まあやってみればわかるさ。お前も散々馬鹿にされたんだろ? これは復讐するチャンスだぜ」
そうこう言っているうちに相手側の最初の一人が出てきた。
こっちを見てにやにや笑ってやがる。頭の悪そうな顔しやがって、腹立つな。
「よし、リリア。お前が先鋒だ。行ってこい」
「ええ……? でも私まだ魔法をコントロール出来てないの。まっすぐ飛ばせないわ」
「それなら考えがある。いいか――」
俺はリリアに耳打ちをして、秘策を教えた。
「わ、わかった。やってみる」
おびえながらもリリアは相手と対峙した。
「誰かと思えば落ちこぼれZクラスでも更に落ちこぼれの魔無しかぁ。はあ相手にもならないよ。5秒で終わらせてやる」
相手は余裕ありげにそう言った。
「あんまいじめてやるなよ!」
「顔だけはいいんだから傷つけるなよ! 顔だけはな!」
「あいつ可愛いからって生意気なんだよ」
Aクラスからはそんな罵声が聞こえてくる。
リリアが黙ってこぶしを固く握りしめたのが見えた。俺が知る由もないが、リリアはいつもこうやって馬鹿にされてきたのだろう。
だがもう我慢する必要はない。
「試合始め!」
教師がそういうと、相手は魔方陣を描き始めた。
想定通りだ。絶対に『基本』とやらに忠実なお前らはそうしてくれると思ってたぜ。
リリアはそのまま走って相手の近くまで踏み込んだ。
相手は思わぬ彼女の行動に驚いていたが、魔方陣を描いてないから魔法が来るとは思っていないのか物理攻撃を避けるために片手で防御の構えをとった。
「魔法が使えないからって肉弾戦か? 甘い! 俺の火魔法ですぐに消し炭にしてやるよ!」
相手の生徒がそう言ったとき、すでにリリアの準備は完了していた。
彼女の右の手のひらは相手に向けられ、ゼロ距離でのファイアーボールが――さく裂した。
「ぎゃあああああああ!!!!!」
基本魔法とは思えないほどのリリアの魔法の威力。
相手は体中に火傷を負いながら、その場に倒れた。
「ざまあみろ!!! 私のことをいつも馬鹿にしやがって! くそくそくそ! 私はもう、人の心を踏みにじるお前らなんかに負けない!!!! ばーか!!……うう」
倒れた生徒をみたリリアは、そう叫んで怒りながら泣いていた。
今までため込んでいたものが一気に噴き出したのだろう。
すぐに相手の生徒は回復魔法を受けるために保健室へと連れていかれた。
周りは静寂に包まれていた。リリアは泣きながら俺たちのほうへと戻ってきたので、
「よくやった。最高の気分だ」
俺がそういうと、彼女は少しだけ笑って抱き着いてきた。
「やったよぅクオン! 私今、救われてる……!」
俺の胸元でそういう彼女。
その後落ち着くまでそうさせていた。次の試合はルナフレアだったが、彼女は張り切りすぎていた。
「敵倒す! 相手がごめんなさいと私の足元にひざまずくまで、完膚なきまでに倒すのよ……! ふふふ」
ドコォ! ガラガラ……。
「――あ」
ルナフレアは張り切りすぎて試合前に準備運動のつもりで殴った演習場の壁が崩壊した。それを見た相手選手は戦意喪失し、降参したのだった。
それにしてもさっきのルナフレアの発言。あいつがなぜ騎士団の面接に落ち続けているのかがわかった気がしたぜ……。まあ俺も人のこと言えないが。
というわけで俺の番だ。俺の相手はAクラスでもトップクラスの成績らしいが、楽しませてくれるんだろうか。
「ちっ、貴族のプライドが無い奴らが。格を落としたな」
相手はそう呟いた。
「基本すらも知らない庶民のゴミ! 俺が貴族の凄さを教えてやるよ!」
「くっくっく。悪口を言われれば言われるほどお前を倒した時のことを考えて楽しくなる」
「笑わせるな!」
トップクラスの実力はやはり違うのだろうか。そう思って始まった試合だったが、やはりそれは退屈と断ずるに些かの躊躇もいらない酷いものだった。
「大地にめぐる地脈よ、その生命の――ぶっ!?」
相手が長ったらしい詠唱を唱えている間に顔面を蹴り飛ばした。身体強化は使っていないが、ずいぶんと飛んだな。
相手はよろよろと立ち上がった。
「え、詠唱中にこうげきするなんて卑怯だぞ!」
「お前は死ぬ間際でも卑怯かどうかを気にしてるのか? のんきな奴だな」
「く。くそおおお!」
我を忘れて走ってきた相手の足元に、俺は土魔法で木を生やしてひっかけさせた。まんまと木に足元をとられた奴は、間抜けな声を出しながらその場に転がる。
俺は転がっているやつを見下ろした。
「ほら、これで終わりか?」
「う、うう……」
奴はうつぶせになって動かない。
どうやら終わりみたいだな。そう思って俺が気絶させようと手刀を叩きこもうとした瞬間、やつは急に起き上がる。奴の寝そべっていた地面には魔方陣が描かれていた。なるほどこそこそ書いてたってことか。やるじゃないか。
「お前がのんびりしている間に魔方陣を描き終えたぞ! 死ね、【フレアウィング】!」
奴のはなった炎の熱風が俺を襲う。
だがそれは俺には届いていなかった。俺は身体を守るようにして水の盾、【ウォーターシールド】を発動させていたのだ。熱風はすべてそれで遮った。
「う、うそだ……」
「くくく、さあどうやって痛めつけてやろうか」
「ひ、ひい! 許してください! 助けてください。助け――」
相手は恐怖のあまり、口から泡を吹いて気絶していた。
精神すら弱いとは。どうしようもない奴だ。
俺は怒りもどこかへといってしまったので、自分のクラスがいる方へと戻った。
すると、
「す、すごかった! クオン君もリリアさんも!」
「あ、ああ。お前らすげーよ!」
「どうやったんだよさっきの!」
クラスメイト達が手のひら返して俺たちに感心していた。
全く単純なやつらだな……そう思ったが、このほうが都合がいいので黙っておこう。
俺はそう思い、笑みを浮かべた。
ミルトン・バルバラ:その後クオンに負け庶民に命乞いしたという事で、Aクラスで酷い目にあう。
作者のやる気はブクマと評価で上がります!
続きが読みたいと思われたら是非よろしくお願いします!




