012 / 優しい決意
《中等部三年生 十月》
※ 前回のあらすじ
角宮恭介が率いる『アイオライト』は不良生徒の集団『ブロンズ』の説得に成功し、三大勢力の第二位『シルバー』も仲間にするために進軍を始めた。
対話を拒み、宣戦布告までしてきた『シルバー』との戦争が幕を開ける。
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第一校区の投棄地区、三大勢力の第二位『シルバー』。彼らが本拠地として占拠しているのは巨大な倉庫跡だった。
主戦場となったのは、大型トラックが通行するために作られた広い道路だ。中央に白い点線が引かれ、両端には一段高い歩道がある。森の中を倉庫の正門へ伸びる一本道で、『アイオライト』と『シルバー』の生徒が正面から激突した。何年間も舗装されずに乾燥した大地のようにボコボコになったアスファルトに無数の足音と怒号が響き渡る。
黒く歪な形状の銃型界力武装『アクディートAMs03-6』を持った御代僚も、迫り来る『シルバー』の生徒に対抗すべく愛銃を両手で構えていた。
「何というか……何というか! 全体的に想像と違ぇんだが!!」
目の前で高等部の制服を着た生徒がベコベコにへこんだ金属バットを振りかぶる。身体強化を発動しているのだろう。緑色の界力光を空気に滲ませ、薪を割るように上段から勢い良く振り下ろした。
同じく身体強化を発動した御代は、一本に括った長い髪を振り乱して距離を取り、大振りな一撃を躱す。
「金属バットとか鉄パイプとか使ってんじゃねぇよ! もっと何かあるだろ、こう炎が飛び出たり地面が盛り上がったり!! 俺は界術師なんだぞ、これじゃあ本土のヤンキーと変わらねぇだろうが! 頼むから夢を壊さないでくれっ!!」
「うるせぇっ!! 界力術が使えるなら使ってるよ中坊がっ!!」
両眼を真っ赤に血走らせた高等部の生徒が再び金属バットを持ち上げた。
身体強化を使っているため威力はありそうだが、如何せん動きに洗練さがない。剣術に秀でていなければ、界力術と併用している訳でもない。これでは何度やっても実力が一色上のアキラに届くことはないだろう。
「(解ってはいた……十分に予想はしていたんだ! 戦闘訓練なんかロクに受けた事のねぇ連中が集まったらこうなるってことは! でもこれじゃあ泥臭い裏路地の喧嘩と同じだ、全然スマートじゃねぇッ!!)」
苛立ちを込めるようにグリップにあるボタンを操作して『威力』を上昇。大振りの後で隙だらけの顔面を狙って愛銃の引き金を絞る。
「R.I.P.――テメェは落第だ、中等部からやり直してこい!!」
外付けHDDを幾つも組み合わせたような銃身に黄色いラインが走った。それはまるで黒い雨雲を引き裂く稲妻。針のように鋭い光が銃口の前で球のように収束する。反動で銃口が上向くと同時に、螺旋状に空気を穿つ界力弾が一条の光となって放たれた。眉間を撃ち抜かれた高等部の男子生徒は為す術なく仰向けに吹っ飛んでいく。
「(このままじゃ埒が開かねぇな)」
広めの道路とは言え、周囲を森に囲まれた一本道で四十人近いの不良生徒が入り乱れているのだ。感覚としては初詣の境内のような混み具合。現実はシューティングゲームのように都合良く同士討ちが起らない仕様にはなっていないため、気を抜けば仲間の攻撃によって倒されかねない。
「(角宮先輩は、先か)」
草薙二郎と共にかなり先行しており、すでに守衛の詰所がある倉庫の正門付近まで到達していた。途中で何人もの『シルバー』の不良生徒から攻撃を受けるが、軽くあしらうだけで見向きもしない。
「(俺達に戦わせることで『アイオライト』に戦う力がある事を示しつつ、リーダーである自分は無抵抗で対話の意志を示す……こんな感じか? この戦力差を見る限り、ショージュンの言う通り角宮先輩が本気を出せば一瞬で終わってるな)」
こんな場所で不良生徒を相手に戦っていても仕方がない。
身体強化を発動した御代は、助走を付けて一気に跳び上がった。移動系の身体強化を専門的に鍛えた事で習得した長距離跳躍。黄色い燐光を迸らせた長身が、入り乱れる集団の頭上を飛び越える。周囲に生えた木立を利用して更に距離を稼ぎ、正門前に着地する。
「(あれがシルバーのリーダーか?)」
敷地の中央にて真剣な顔で捲し立てるオールバックの角宮に対して、線の細い優男が食って掛かっている。両者共に凄まじい剣幕で言葉の応酬を繰り返していた。どうやらすでに説得段階に入っているようだ。
正門を通って敷地に入ると、辺りで呆然と座り込んだシルバーの不良生徒が目に入った。角宮に襲い掛かって軽くあしらわれた連中だろう。だが、彼らの瞳には明るい光が浮かんでいる。それはまるで、圧倒的な力を目の当たりにして絶望したのではなく、この先どのような変化が起きるのか期待しているような――
ヒュンッ!! と。
何やら硬い物体が眼前の空気を切り裂く音が鼓膜を震わせた。
「(銀色の、鎖——ッ⁉︎)」
辛うじて反応した御代が慌てて身体強化を発動して跳び退いた。連続して振り下ろされた銀の鎖が地面に叩きつけられ、アスファルトの破片を盛大に撒き散らす。
「返してよ……ウチの居場所を!」
憤怒の形相で睨み付けているのは、十メートル離れた位置にいる鎖の主だった。
社交的な印象を受ける女子生徒だ。
女性にしては高身長で、クセ毛なのか短めの茶髪は軽くウェーブしている。意図的に中等部の冬服を着崩しているが、垢抜けた容姿のおかげか違和感がない。普段は優しげであろう目許も、今ばかりは射殺さんばかりの強い瞋恚に彩られていた。
すでに何戦も終えているのか、中等部の制服は土埃で汚れている。フラフラとした覚束ない足取り。疲労で息は上がっているが、触れれば切れそうな程に鋭い威圧感が御代の危機感を掻き立てた。
「あなた達の正義なんか知らないし、理想なんか興味がない。でも、例えそれがどれだけ正しくても、ウチの居場所を奪っても良い理由になんかならない! ウチの、みんなの、大切なものを土足で踏み荒らす権利なんかないんだっ!!」
感情のままに叫んだ女子生徒が、ジャラリと両腕から銀の鎖を垂らした。足下で蜷局を巻く二本の鎖。女子生徒の界力に反応しているのか、淡く橙色の光を帯びている。
「(界力武装……あれは汎用品の『柄付き銀鎖』か?)」
汎用品とは決められた設計図に従って量産された廉価品である。使用者の要望に合わせて作成され、唯一の性能を発揮する固有武装とは違い、機能や強度を犠牲にすることで生産性と汎用性を高めたタイプの界力武装だ。
きらり、と秋の陽射しを鎖の先端に垂れる重りが鈍く反射する。両手で強く柄付き銀鎖を握り直したクセ毛の女子生徒が、姿勢を低くして構えを取った。途端、噴き出すように両手足から橙色の界力光が迸る。よく見れば制服の裾から両手の甲へと刺青のような刻印が浮かび上がっていた。
「(身体刻印だと!? こいつ素人じゃねぇぞ!)」
始まりの八家の一つである歳森家が生み出した方式『刻印術式』。方式内の共通技術には世界を構成する三つの次元の中央――『現実次元』の面に術式を投影するという大原則を無視した上位技術が存在している。
自身の肉体に投影する身体刻印と、自身が『面』と定義した空間そのものに投影する空間刻印。難易度が非常に高いため習得できるかは個人の能力に依存するが、少なくともラクニルに通う一般生徒が手にできるような技術ではない。
「(あいつは本家か分家関係者の化け物だって言うのか!? ふざけんな、どうしてそんな規格外が投棄地区で不良生徒をやっている! 路地裏の喧嘩に本職のボクサーが出てくるようなモンだぞ!!)」
突然の事実に動けなくなった御代に対し、クセ毛の女子生徒は固く握った拳を振りかぶる。途端、地面に垂れていた鎖が勢い良く跳ね上がった。オートリールで釣り糸を巻き取るように女子生徒の拳に鎖が巻き付いていき、鋼鉄の拳鍔を形作った。
だんっっ!! と。
姿勢を低くしたクセ毛の女子生徒が、橙色の残像と共に一瞬で視界から消える。
「な……っ!?」
目にも留まらぬ超加速。
気付いた時には、すぐ真横に女子生徒の姿があった。鎖の巻き付いた拳が横腹に炸裂する。内臓を揺さぶるような一撃。迫り上げる吐き気に苦しむ間もなく御代の体がボコボコのアスファルトを転がった。
「――っ!?」
仰向けで咳き込んでいると、今度は一本の銀色が景色に入り込んだ。界力武装の補正を受け、人体では出し得ない速度で宙を駆ける銀の鞭が、遠心力に彩られて斬撃のように振り落とされる。
一瞬にして喉が干上がった。
危機感によって真っ赤に染まる視界。無様にもアスファルトの上を転がって直撃を避ける事で精一杯だった。銀の一閃が鼻先を掠めて地面を粉砕。礫となった破片が爆発したように跳び散り、周囲に破壊の嵐を巻き起こす。
よろめきながらも立ち上がった御代は苦しそうに眉間に皺を寄せた。
実力も戦闘技術も向こうの方が上。界力武装も汎用品だと侮っていたが、身体刻印と組み合わせられると凶悪な兵器に変わる。御代の能力では戦力差を覆せそうにもない。
「(……追撃が来ない? 向こうも限界って感じか?)」
クセ毛の女子生徒は大きく肩で息をしており、今にも倒れそうな程に憔悴していた。頭が痛むのかきゅっと片方の瞼を閉じて額を抑えている。界力術を発動する時に使う脳の器官『界力下垂体』の酷使による頭痛だろう。熱に侵された患者のように荒い呼吸を繰り返していた。
「ウチは、倒れない……こんな理不尽になんか負けないっ!!」
それでも、鋭い眼差しだけは死んでいなかった。絶対に倒れないという強靱な意志が燃料となって、消えかけた瞳の炎に薪を焚べる。
「ここだけはウチが守るって決めたんだ! みんなのためにも、絶対に!! やっと見つけた居場所なんだから! これ以上なにも失いたくないっ!!」
気力だけで持ち直し、銀の鎖に橙色の界力を流し込んだ。まるで電化製品がコードを機械内に収納するように、スルスルと女子生徒の手元に鎖が引き戻されていく。
「出て行ってよ……ここはウチの居場所なんだ! だから壊すなあああああっ!!」
腹の底から咆吼を迸らせ、フラフラの足取りでクセ毛の女子生徒は走り出す。身体強化すら発動できないほど弱っているが、それでも近づかれたら対応できなくなる。御代は右手でアクディートを構えて引き金に指を掛――
ヒュンッ!! と空気を切り裂く音。
界力武装の補正を受けた鎖の先端の重りが一直線に飛翔してくる。気付いた時には遅かった。まるで蛇が獲物の動きを封じるように、グルグルとアクディートを持つ右腕に巻き付いていく。
「しま――っ!!」
腕を引こうとしても動かせない。慌てて引き金を絞るが、黄色い閃光は見当違いの方向に飛んでいくだけ。真っ直ぐこちらに走って来るクセ毛の女子生徒を捉えることはできない。
クセ毛の女生徒が銀の鎖を持ったまま、硬く拳を握って右手を振りかぶった。
途端、アスファルトに垂れていた銀の鎖が女子生徒の拳に巻き付き始める。オートリールで釣り糸を巻き取るように何重にも表面を覆っていき、少女の小さな拳を凶悪な鋼鉄の塊へと変貌させていく。
「っ!!」
御代は足下に転がっていたアスファルトの破片を蹴り上げた。先ほど女生徒が破壊した時に生まれた黒い礫である。
女生徒の拳へ巻き付いていく銀色の鎖に、アスファルトの破片が吸い込まれていき――
ギャジャガリギャリガリッ!! と高速で回転する歯車に異物が嵌まったような不快な金属音が炸裂した。
その途端。
鋼鉄の拳鍔が帯びていた橙色の界力光がぱっと弾け飛ぶ。術式の補助を失い、ただの鉄の連なりになった鎖が重力を思い出したようにスルスルと地面へ滑り落ちていった。
「うそ、どうして……?」
女子生徒が動揺して動きを止めた隙を御代は見逃さない。
アクディートを自由な左手に持ち替えて、鎖が絡み付いている右手を思いっきり引いてやる。クセ毛の女子生徒は体勢を崩してこちらへ引き寄せられた。足を縺れさせても転倒しないように踏ん張ってみせるが――
「R.I.P.――抵抗しないでくれ、これ以上はもう戦いたくねぇんだ」
――眉間に銃口を突き付けられてしまえば、どうする事もできなかった。驚愕に両目を見開き、ゆっくりと唇を動かす。
「なんで、鎖が……?」
「汎用品の弱みだよ、生産性を高めたせいで術式が雑なんだ。複雑な術式だとレベルの低い職人が刻印できねぇからな、致命的な弱点がそのまま残っちまってる。異物が混入した程度の小さい変化に術式が対応できねぇクソ仕様さ。悪いが、界術師としてアンタに負けたとしても、職人としてその粗悪品に負けることだけはできねぇんだよ」
はっ、とした顔になったクセ毛の女生徒が俯き気味に唇を噛んだ。
「で、まだやるか? 構えているのは左手だが、この距離なら外さねぇぞ」
「……どうして、こんな事をするの?」
胸の奥から絞り出されたのは、濡れた声だった。
「ウチ達はただ、楽しく過ごせれば良かった。ここでみんなで笑い合って、嬉しさを共有して……それだけで満足してた――なのに! 底辺に堕ちたウチ達にはたったそれっぽっちの幸せすら受け取る権利がないって言うの!! やっとの想いでこの地獄の中から光を見つけ出せたって言うのにっ!! 不良生徒になったとしても、有り触れた居場所を手に入れる事くらいは許されているはずでしょ!」
「その居場所が、誰かの犠牲の上に成り立っていたとしてもか?」
「……え?」
「風紀委員会へのエサの献上。この居場所を維持するために、すでに何人もの生徒が理不尽の餌食になっているはずだ」
「嘘、でしょ……?」
クセ毛の女生徒の顔が蒼白に染まる。見開かれた両眼に浮かぶ瞳は、大海原に落ちた月影のように揺れていた。
「だって、リーダーはそんな事をウチに言ってない……」
「不思議に思わなかったのか? 学校に棄てられたはずの場所なのに電気が通って水道が生きている事を。それだけじゃねぇぞ、立入禁止区域の投棄地区で活動してても学校が全く干渉する気配をみせねぇ。何か裏があるに決まってんだろ、俺達の行動を黙認することで利益を得てるクソ野郎共の影がちらついてくるはずだ」
「待ってよ……その話ってあくまで噂なんでしょ? 風紀委員会にエサを献上するなんて現実的じゃないことを、先輩達はウチらが笑ってる裏でやってるって言うの……? じゃあ、少し前から急に来なくなった先輩って、もしかして風紀委員会に……?」
両眼を伏せたクセ毛の女子生徒がギリッと歯軋りした。緩くウェーブした前髪で目許に深い陰翳が落ちる。下瞼から溢れ出したのは、心を引き裂くような痛みに耐えられずに漏れ出してきた感情の奔流だった。
「おかしいよ……ウチ達はただみんなで集まって、楽しく笑えればそれだけで良かったのに。どうして、そんな当たり前の事すらできないの……? 誰かの犠牲がないと成り立たない幸せなんて、そんなの絶他に間違ってる……っ!」
がくり、とアスファルトに両膝を付く。同時に御代の右腕に巻き付いていた鎖も解けていった。
項垂れて嗚咽を漏らす女子生徒を見て、御代の胸中に業火のように熱い感情が去来する。
「やっぱり狂ってるよ、今の投棄地区は……っ!」
きっと、シルバーという居場所は尊い善意によって成り立っていたのだ。
風紀委員会との関係維持や投棄地区の真実を、上層部の限られた生徒だけで隠してきた。自分達の居場所を成立させるための薄汚れた仕組みが表に出れば、心の底から笑顔を浮かべられなくなると気付いていたから。
「誰かの幸せを守るために自分を犠牲にする……そこまでして、シルバーは居場所を維持してきたんだ。どうしようもねぇ理不尽に押し潰されながらも、深い絶望の中でも、必死に希望を探して、一人でも多くの仲間と笑おうとしてきたんだ――それなのにっ!」
大量の弾丸が飛び交う戦場で、足下に咲いた一輪の花を守るような行為かもしれない。事情を知らない人からすれば、何の意味もない無駄な行動のように思えるのかもしれない。それでも、シルバーは全力で抗ってきたのだ。限られた選択肢の中でも、最も強く輝く未来を手に入れるために。
「アンタ達は何も間違っちゃいねぇよ、誰が何と言おうと俺が保証してやる」
「……え?」
「だってそうだろ? 全員がシルバーのために立ち上がれる、同じ方を向いて前に進んでいける。そんな連中が、本物の居場所が間違っているはずがねぇんだよ! アンタの想いを聞いて確信したよ、俺達は一緒に手を取り合って戦っていけるはずだ」
「なにを、言ってるの? だって、あなた達ってシルバーを支配するために……」
うおおおおおおおっ! と天地を揺るがすような歓声が上がったのはその時だった。
見てみると、角宮恭介とシルバーのリーダーである優男が力強い握手を交していた。さっきまで倉庫の正門付近で座り込んでいたシルバーの生徒も一緒に歓喜の雄叫びを上げている。
「なにが、起きてるの……?」
「角宮先輩……俺達のリーダーの説得が成功したみたいだな。良かった、これで俺達は仲間になれる」
信じられないと言わんばかりに、女子生徒が驚愕に打ち震えていた。
「(そうか、シルバーの連中はアイオライトに一方的な支配をされると勘違いしていたのか。他の誰の手も借りず、今まで必死に守ってきた居場所を壊されると思って……だから宣戦布告までして戦ったんだ)」
表情を引き締めた御代は片膝を突いて、呆然と固まった女子生徒の両目を覗き込んだ。
「俺達はシルバーを乗っ取りにきたんじゃねぇ。一緒に投棄地区を変革する仲間を探しにきたんだ」
「……仲間?」
「そうだ。三大勢力を全員仲間にして、風紀委員会の支配を断ち切って、投棄地区から理不尽を駆逐する。そんでもって、全員が笑顔になって、偽らない自分を出せるような空間を創り出すんだ――どんな相手にも臆面なく自慢できるような本物の居場所を!」
「……そんな、ことが」
できるの? と濡れた眼差しで女子生徒が問い掛けてくる。
優しげな目許からつーっと涙が一粒だけ流れ出した。あどけない顔立ちには期待と不安の色が交互に浮かび上がっている。縋るように御代を見詰める少女は、陽射しに晒された淡雪が如く儚く脆く見えた。
「できる、俺達が手を取り合えば。実際にブロンズだってシルバーだって変われたんだ、後はアンタが決断するだけだよ」
昂揚する気分を言葉に乗せ、御代は女子生徒に手を差し出した。
「だから立ち上がってくれよ、投棄地区を変えるため俺達に手を貸してくれ」
「……っ」
顔を上げた少女の瞳に浮かぶのは明るい希望の光。涙は止まっていた。瞼に残っていた悲しみと後悔を手の甲で拭い去り、クセ毛の少女は決然とした表情で問い掛ける。
「あなたは、何者なの?」
「俺? 俺は……、」
一瞬だけ言葉に詰まる――が、すぐにふっと頬を緩め、右手に嵌めた青いリストバンドに触れた。
「俺はアイオライトの御代僚だ」
「ウチは『シルバー』の敷本小春。よろしくね、アキラ」
敷本小春が御代僚の手を取って立ち上がる。
少女の顔には陽だまりのように暖かい笑みが咲いていた。
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