第20話 弱点
※前回のあらすじ
霧沢直也にチャンスをもらった上柳高澄は、親友のため、大切な人のため、格上の相手である森下瞬に挑ことを決意する。
そして、約二年ぶりにかつての親友同士が激突した。
それは、いつかの日の放課後。
西の空は燃えるような赤焼けに染まっているが、所々に濃い藍色が押し寄せてきていた。昼間の陽気も吹き飛んでいて冷たさも感じる。もうすぐ午後六時になろうとしていた。
上柳高澄は訓練施設の合成樹脂の地面に大の字になり、荒い呼吸を落ち着かせながら、
「……くそ、また今日も当てられなかった」
「そう焦るなよ。大分動きは良くなってきてるんだからさ」
満身創痍の上柳に対し、霧沢直也は訓練中も含めてずっと涼しい顔のままだった。
純粋なスタミナには自信があったのだが、こうして地力の違いを見せつけられると少しへこんでしまう。効率よく体を使っている霧沢に対し、まだまだ動きが洗練されていないという事だろう。
スポーツ飲料を口に含んだ霧沢は、真剣な表情になって、
「質問だ。天狗舞い……というより闘術には弱点があるんだけど、なにか分かるか?」
「……弱、点?」
自分が使う方式だ。そんなもの考えるまでもない。
「……氣の量が有限なことだろ? 闘術は氣がなくなったら発動できないんだから」
「正解。戦闘開始時には氣が全く溜まってないし、隙を見つけて溜められたとしても戦闘中に使い過ぎたら再度溜める必要が出てくる。他の方式が実質的に界力術の使用制限がないのに対して、闘術に課せられた氣という制限は余りにも大きなデメリットなんだ」
取り敢えずの対策として、戦闘前に氣を満タンまで溜めておけばいいと思うかもしれないが、そうもいかない。模擬戦では試合前に氣を溜める行為は明確なルール違反に当たるからだ。
上柳はひんやりとした合成樹脂の地面から体を起こしながら、
「敵さんは氣を溜める時間なんか待ってくれない。氣を溜める前か、氣が切れた瞬間を狙えって教わるんだろ? 闘術使いと戦う時の定石として」
「ああ。分かりやすい隙だからな」
闘術使いの戦い方は基本的に二つ。
ガンガン氣を消費するような大技を使って、その分すぐに氣を溜め続けるスタイル。
なるべく氣の消費を抑えつつ、一度の必殺技で確実に相手を仕留めるスタイル。
前者は実力の高い界術師が好む戦法だ。闘術だけに与えられた高速移動術式や高火力の近接攻撃といった怒濤の攻めは他の界術師からすれば脅威。案外攻め続けるだけで勝ててしまうことだってある。
氣を溜める速度や量は実力に依存する。圧倒的な破壊力で相手を攻め続けられることは分かりやすく強い。闘術使いのプロ界術師もほとんどがこのスタイルを採用している。
「でもその点で言えば天狗舞いは優秀なんだ。高速移動そのものが闘術だからな、氣の消費が少なくて燃費がいい。おまけに闘術最大の利点である速度で相手を翻弄できる。自分より実力の高い相手とでも十分に戦えるんだ」
上柳高澄や『格上殺し』風間良彦のような実力の低い界術師は氣を溜める速度も量も少ない。いくら天狗舞いが燃費の良い術式とは言え、そこに胡座を掻いていればすぐにガス欠になる。地面に落ちた鳥がどのような末路を辿るかは言うまでもない。
「だけど、それこそが天狗舞いの弱点でもある」
立ち上がった上柳は地面に落ちたブレザーを羽織りながら、
「移動を術式化したせいで決定力に欠ける。剣とか槍とか分かりやすい武器もなければ、今津稜護の『要塞鎧』のような必殺技もないんだからな」
「その辺り、風間良彦はどうしてたんだ?」
「一つは界力武装だよ。ほら、これこれ」
そう言って、赤い手袋型の界力武装を嵌めてみせた。
「これ自体は別に強力じゃない。表面を硬化して強度を上げるのと、籠手みたいな防御シールドが張れる。呪言術式とか界術陣みたいな放出系の界力術に対抗するための機能だな」
「なるべく氣の消費を抑えて飛び回り、隙を突いて界力武装による一撃をぶつける……こんな感じの戦い方になるってことか」
「ああ。もう一つは超至近距離での高速戦闘。天狗舞いを使いこなせば大抵の動きはできる。方向転換、急制動、急旋回。それだけじゃない、空中で思うように姿勢が制御できれば人間には不可能な角度からの蹴りだって放てるし、弾丸の隙間を跳び上がって躱すこともできるぞ」
「アクション映画のCGとかワイヤーアクションみたいなものだな。宙に浮いて回転蹴りをしたり、バク宙して相手の攻撃を躱したり」
「そんな感じだ」
超至近距離での高速戦闘において奇想天外な動きというのは脅威となる。想定外の一撃に対して即座に対応できる界術師はそうはいない。ましてや全ての界術師が普段から肉弾戦を専門的に訓練している訳ではないのだ。
天狗舞いを完璧にコントロールできれば十分な必殺技にできる——そう、十分にコントロールできれば。
「けど、俺はそこまで精密な操作ができる訳じゃない。ようやく緩急を付けて飛び回れるようになってきたばかりなんだ。空中で姿勢制御なんて満足にできないよ」
「地上とは想定される体の動かし方が全く違うからな。理屈よりも慣れ、こればっかりは時間が必要になるか」
「そう、結局俺にできるのは高速移動で相手の意識を乱してからの一撃離脱。基本的にこれだけだ。超至近距離での高速戦闘はまだ厳しい」
「生徒相手ならそれで十分なはずだ。重たいやつを一発でも入れられれば勝負も付く。それに火力を補うための界力武装なんだ。どうすれば決定的な一撃を入れられるか考えて戦闘を組み立てればいい」
風間良彦のピンチを何度も救ってきた手袋型の界力武装。これで一撃を食らわせれば実力の格上の相手にでも勝てるだろう。
忘れ物を確認してから、二人は訓練施設を後にした。
「どうだ、ちょっとは自信が付いたか? きっとリーグ戦の合同トライアウトだって合格できるさ」
「そうかもな……ただ、」
「ただ?」
「やっぱり自分よりも実力の高い相手と戦うのは怖い」
中等部まで分家関係者だったため何度も模擬戦を経験してきた。だが、相手となるのは基本的に自分よりも実力の高い生徒ばかり。
何度も、何度も、何度も……上柳高澄は負け続けた。
脳裏に植え付けられた敗北の記憶。
どれだけ自分を奮い立たせても完璧に消えてはくれない。
「戦っている途中で気付いちまうんだ……ああ、こいつには勝てないんだって。最高速度が違うマシンでレースをするようなものだよ。最後の直線に入った時に距離が開いていたらどうしようもないだろ? 実力の差ってのはそれくらい残酷なんだ」
「だったら、なんでまだ戦おうとするんだ? 逃げ出してしまえば楽になるのに」
「何度も考えたよ……だけど、それだけはどうしてもできなかった。だって俺の憧れた人はさ、どんだけ理不尽な状況に立たされても絶対に諦めなかったから。実力の差なんて関係ないって言わんばかりに格上の相手に立ち向かっていく。格好良かったんだよ、その姿が」
子どもの頃、テレビで中継を見ながら興奮した。こんなにも人の心を動かせる人間がいるのかと驚愕した。
「この憧れだけはどうしても捨てられなかった。俺もそうなりたいって思っちまったんだ。だからこうして今も戦い続けてるんだよ。この気持ちは、瞬に対しても同じだった」
「森下?」
「ああ。俺にとって瞬は目標だった。だっていつも一緒に遊んでるような友達が他の誰よりも強かったんだぞ。誇らしかったよ、あいつの友達としてな。だから憧れたんだ、俺もこいつみたいに強くなりたいって。そうすればプロ界術師にだってなれるって思った」
思い出を懐かしむように、上柳の口調が優しいものになる。
「だから放っておけないのかもしれない。苦しんでいるなら助けたい。悩んでいるなら救いたい。できることなら壊れちまった繋がりを直したい」
「森下はそんなことを望んでいないかもしれないけど」
「かもしれないな……だったら、変えるしかないよ」
立ち止まって、顔を引き締めた。
「俺は森下瞬を救い出したいんだ。だって、あいつは俺の――」
× × ×
上柳高澄は約十メートルの距離を開けて、森下瞬と対峙する。
審判となる教師の号令の直後、まずは呼吸法による氣の充填を行った。ここからはスピード勝負だ。始めの内に森下瞬の妨害を掻い潜って少しでも多くの氣を溜めなければ、ただでさえ薄い望みが潰えることになりかねない。
しかし森下はまったく動かない。不敵な笑みを唇の端に浮かべて、余裕そうな表情でこちらをじっと見ている。
「タカ、氣を溜めてるんだろ? ハンデだ、好きなだけ溜めさせてやる」
「……いいのかよ、そんな余裕ぶっこいちまっても」
「お前と俺の間にはそれくらいの差があるってことだよ。それに圧倒的に叩きのめさないとタカは諦めないだろ? もう反抗したくないって思えるぐらいボコボコにしてやらねえとな」
嘲笑混じりに言う森下の言葉に従うのも癪だったが、大人しく氣を充填させた。
実力の二色差。
本来、これはもう勝負にならないほどの地力の差である。
プロ野球の投手に対し、草野球経験者が一打席勝負を挑むようなもの。
実力の差によって顕著に現れるのが界力術の威力や規模の違いだ。実力とはそのまま界力下垂体の能力差と言い換えられる。一度に扱える界力の処理量の多い方が有利であることは言うまでもない。
森下瞬の実力は赤色。
すでに界術師としては一人前以上の出力を誇っており、その高火力の界力術の直撃を受ければ一気に戦闘不能に陥る可能性がある。
実力が同じであれば界力術での防御や身体強化で守ることができるが、上柳の実力は黄色。二色差もあれば防御の術もあまり意味を為さないだろう。
「(瞬の界力術を受けたらダメだ。全部躱し切らないと)」
天狗舞いは高速移動に特化した術式だ。相手の界力術を躱すことには長けている。格上の相手でも戦えることは『格上殺し』風間良彦が証明済みである。
だが、上柳はある懸念材料を取り除けていなかった。
実力の二色差とは別の、もう一つの要素。
敗因ともなりかねない『それ』への対策は用意できていないままだ。
「(速攻で決めるしかない。瞬の野郎が『それ』に気付く前に!!)」
氣の充填は終わった。
膝を折って力を溜めた上柳の体から黄色の界力光が溢れ出す。
「いくぜ、瞬!」
「来いよザコが。まあ次の瞬間まで立っていられたらだけどな」
森下の顔に獰猛な色が広がる。
両目を見開いた途端、高速で動いた唇から加工されたような声が飛び出した。
【―――――、発動!!】
ボォッンッッ!! と。
充満したガスに引火したように、上柳の周囲の空気が勢いよく破裂した。
呪言術式。
始まりの八家の一つである海藤家が生み出した方式。
精神内にある保管領域に記憶した『キース文字』を、構築領域で単語へと組み替える。それを正しい文法に則って発音することで界力次元へ投影。発音した文章で指し示した世界の記憶を界力術として現実次元で発動する。
「――少しはやるようになったじゃん、タカ」
思いっきり真上へと跳び上がった上柳を見上げて、森下は感心したように言った。
「(やっぱりこう来やがった!)」
森下の初手は予想していた通り。今まで何度も戦ってきているのだ。相手の性格や使う術式の系統からある程度は予想が立つ。
次は、こちらが攻勢に出る番。
自由落下をしていた上柳が天狗舞いを発動する。
両方の足裏からジェットエンジンのように界力を放出した上柳が、黄色い閃光となって訓練場を飛び回る。狭い部屋の中を跳ね回るスーパーボールのように森下を立体的に囲い込んでいく。
檻。
実力が黄色ながら数々の伝説を残したプロ界術師——風間良彦が得意とした技。対応不可能な速度で対象の周囲を飛び回り、死角から一気に懐に潜り込む。
【―――――、発動!!】
森下の唇が高速で動き、加工されたような音声が術式を界力次元に投影する。
ヒュンッ!! と。
カミソリの刃のように薄く鋭利な空気の刃が放出された。
闇雲に放った訳ではない。
飛び回る上柳に必ず命中する確信して撃ち出した界力術だ。高速で飛び回りながらも勝利を確信した森下の表情をはっきりと視界に捉えていた。
だが、空気の刃は当たらない。
飛び回る上柳のすぐ隣を通過していく。
「ッ!?」
驚愕に染まる森下の顔を見て内心でガッツポーズをした。
いつもはここで界力術を受けてしまう。
天狗舞いは高速で動き回る術式。そのせいで術者の思考を入れる余地が少ない。知らず知らずの内に癖やパターンが出てしまうため、何度も戦っている内にほぼ完璧に移動先が予想されていたのだ。
高速で回転するスロットの絵柄をタイミングで揃えるように。
リズムを掴みさえすれば、どれだけ高速で飛び回ろうが攻撃を当てることはできた——そう、今までは。
「(いけるぞ! 瞬のタイミングを外せてる!!)」
型の習得。
考える余地が少ないのなら、前もって決めておいて使い分ければいい。霧沢直也のアドバイスがぴったりと嵌まったのだ。
連続して空気の刃を放つ森下の顔に困惑と焦燥が浮かんでいく。動きをパターン化したことで相手の表情を見る程の余裕が生まれていた。必死な形相で口を動かしているのがよく見える。
隙を見つけた。
一際強く足裏から放出し、黄色い矢となって一直線に落下する。
狙うべきは森下瞬の背後。
左足裏から床へと界力を噴出して急制動。それを軸足とし、慣性に従うように残った運動エネルギーの全てを右足へと集約して蹴りを放つ。
ドゴォッ!! と砂袋をバットで殴ったような鈍い音が炸裂した。
上柳の横薙ぎの蹴りを脇腹に受けた森下の体がくの字になって吹っ飛ぶ。勢い余った上柳が着地に失敗して尻餅を付く頃には、森下は数メートル先の床で転がっていた。
「いいぞタカ殿!! そのまま攻めるのだ!!」
見物している陣馬梶太から野次が飛ぶ。それを呼び水に歓声が次々と沸き上がった。
「……痛ってぇな。クソ、タカの分際でさあ!!」
フラフラと起き上がった森下の顔が憤怒の色に塗り潰される。眦を吊り上げるように見開らかれる両目。冷静さを欠いているのか真っ赤に血走っていた。
通用する。
自分の界力術は、格上の相手である森下瞬に。
「(このまま押し切る!!)」
天狗舞いを発動。再び黄色い界力光を残して訓練場を飛び回る。俯き気味に立ち尽くす森下からの反撃はない。いやできないのだろう。
本当に勝利に必要なのは、圧倒的な速さ。
格上殺しと呼ばれた風間良彦の言葉だ。
ここはもう、上柳高澄の舞台。
対等に戦うためには『速度』という面で同じ次元にいる必要がある。
じわり、と森下の体から赤い界力光が漏れ出すのを視認した。呪言術式を使うつもりだろう。
だが構わない。
たっぷり意識を掻き乱した後、上柳は一際強く界力を放出して森下の背後へと接近する。
【―――――、発動!!】
森下の口が高速で動いて加工されたような声が流れ出す。今までと同じく当たらない——はずだった。
「――ッ!?」
ドボォッッ!! と目の前で爆発するように空気が炸裂した。
直撃はしなかった。少しずれた座標で爆発した余波に巻き込まれたような感じか。それでもバランスが崩れることには代わりない。
驚愕に顔をしかめた上柳の体が錐揉み状に落下していく。
「(当たっただと!? 型を読まれたのか!?)」
動揺しつつも宙で体を回転させて体勢を安定させた。床に落ちる前に天狗舞いを発動して、森下から距離を取るように後退する。
連続して天狗舞いを使い過ぎた。そろそろ氣を充填させる必要がある。離れた位置に着地して呼吸法による氣の充填を――
「そうだよな、お前ならそうするよなあ!!」
勝ち誇ったような叫びと同時に、森下の全身から赤い界力光が迸る。
闘術発動後には必ず硬直に襲われる。
術式による補助があるとは言え、英雄の絶技をその身で再現するのだ。当然、それ相応の反動に見舞われる。
「(——まずっ!?)」
着地した瞬間に天狗舞いの効力が切れる。纏わりつく脱力感。重力が鎖となって全身に巻き付いた。折れそうになる膝を必死に堪える。
【―――――、発動!!】
森下の呪言術式が放たれる。カミソリのように薄く鋭い空気の刃が一直線に飛翔してきた。
天狗舞いでの回避はできない。身体強化を使っても間に合わない。咄嗟に体内に残っている氣を両腕に集めた。
氣法・衝放波。
体内の氣を純粋な衝撃として放つ技。
氣法——歩法と同じく氣を消費して発動する技術だ。闘術使いなら誰でも使えるが、習得できるかは個人の技量に依存する。上柳高澄は『衝放波』だけを習得していた。
両腕を正面へと突き出し、空気の刃に対して氣の塊をぶつける——だが。
「……があッ!?」
実力の二色差が牙を剥く。
押し負けたのは上柳だった。
衝撃を殺し切れなかった上柳の体が後ろに吹っ飛び、盛大に訓練場の床を転がる。
ダメージは大きくない。空気の刃と言っても相手を切断するような威力ではないのだ。両腕にかなりの痺れが残っているが、天狗舞いを使う上で大きな障害にはならないだろう。
だが、問題が一つ。
「(くそ、氣の残量が……っ!)」
氣法は多量の氣を消費してしまう。実力が低くて多くの氣を溜め込むことができない上柳からすれば氣法や歩法はなるべく使いたくない。本当に最後の手段だったのだ。
「随分と辛そうだなタカ。最初の威勢はどうしたよ?」
「……全然、まだまだ余裕だよ」
にやにやと唇を裂くように笑う森下に対し、上柳は必死に気丈を装う。
状況は悪い。
実力の二色差もじわじわと戦況に影響を与え始めた。正面から術式をぶつけ合えば間違いなく上柳が押し負ける。
付け加えれば、氣を精製し続ければ界力下垂体は摩耗していく。何よりも氣の原料である生命力は有限だ。隙さえ見つければ際限なく精製できる訳ではなかった。
界術師は精神内の『構築領域』で組み立てた術式を生命力に込め、それを放出することで界力次元に投影する。生命力には次元の壁を超えて、界力次元の界力に影響を及ぼすという性質があるからだ。
この一連の流れを成立させるために利用するのが界力下垂体。生命力の操作、界力次元と精神の接続、これら界力術の発動に必要な動作全てを、眉間の奥にある脳の器官で行なっているのだ。
「(さっきの瞬の反撃……あれは、もしかして)」
背後から奇襲を仕掛けようとした上柳に対して、余波ではあるが界力術を当ててみせた。上柳を狙ったというよりは、行動を先読みしたような反撃だった。
森下瞬は気付いたのではないか。
天狗舞いという闘術が、範囲攻撃に極端に弱いということに。
「(可能性はある。でも、だとしたらまずいぞ)」
そこにあったはずの勝ち目が、どんどん薄れていくような感覚。額に浮き出した汗が鼻梁を通って床に落ちていった。
「そもそも間違いだったんだよ、タカに正面から戦いを挑むってのがさ」
森下の三白眼に、ぎらつく殺意が滲んだ。
「こっから先は実力勝負と行こうぜ。なあ、まだ勝ち筋は残ってるかい?」
毎週月、木、土の18時に最新話を更新します!




