あとがき
一章ずつの方はお久しぶり。一気読みの方は初めまして。
どうも、夢科緋辻です!
祝! 第五章完結!
今回はいつもよりも早く皆様に本編をお届けできたのではないかと思っています。サラリーマンしながら約158,000文字の物語のプロット作成・執筆・推敲を5ヶ月で完成させるというのは、なかなかの執筆速度ではないでしょうか? 間違いなく自己新記録です。
肝心の内容についても、間違いなく傑作と呼べる物ができました。今年で執筆を初めて10年目に入るのですが、その年月に恥じない作品になったと自負しております。
さて皆さん、第5章『トゥルー・ブレイズ編』は如何でしたでしょうか?
『真の輝き』という事で、今回は遠江真輝が主人公の物語です。"Blaze"という単語からは多くの方が"炎"を連想すると思います。ですが、"閃光"や"強い輝き"という意味も込められていて、界力術で炎を操る真輝にはピッタリだと思って採用しました。
第4章の後書きでお伝えした通り、霧沢直也と同じく非常に思い入れの強いキャラクターになります。第1章の後書きで「理由があってヒロインさせる事ができなかった」と書きましたが、実は今作のような事情を抱えていた訳です。
今回のテーマは、誰かを信じるという事。
他人を信じる事が怖くて損得勘定でバランスを取りつつも、友人の一言をキッカケにして誰かを信じてみようと思い始めた遠江真輝と、他人を信じる事が弱さだと断言する藍葉深園を対比する形で物語を進行してきました。個人的には非常に綺麗に纏まったと自負しております。
ところで、『人間関係は損得勘定である』という考え方ですが、実は私自身の考え方になります。こう考えるようになったのは、高校一年生に経験した苦い失敗がキッカケだと記憶しています。詳しくは書けない、書きたくない(別の小説で物語にするかも?)のですが、盛大に失敗しました。その対処療法が損得勘定理論という訳です。
相手にとって得だと思ってもらえるなら一緒に居てもらえるし、損になると判断されれば仲間外れにされる。自分本位ではなく、他人本位な生き方ですね。当時の私が相当に痛い性格をしていた事が分かります。いやー、本当によくあの底辺から持ち直したものです。
ですが大学時代、この話を飲み会で友人にすると「寂しい事を言うなよ、だった俺達は損得勘定で繋がって一緒に酒を飲んでいるのか?」と言われて、少しだけ考え方が変わりました。為人を知るまでは損得勘定であると主張したいですが、ある程度まで親密になれば損得勘定ではなくなるのだろうと思い直したのです。真輝が考え方を変えようと思い至ったのは、私自身の経験が反映されているような気がします。ただ大切なのは、親密になる場合があるのならば、険悪になる場合もあるとい事です。そうなった場合、またもや損得勘定で相手との関係を測る段階に逆戻りですね。
社会人になってからは、損得勘定を超えた繋がりこそ、真に信頼できる相手だと考えるようになりました。
営業マンとして様々な問題に直面し、色々な人間と関わってきましたが、本当の意味で信頼できる(信頼されている)関係というのは稀です。利益や損害なんて関係なく、コイツの為なら力を貸してやりたい。そんな風に思える人に出会えた私は幸せ者なのかもしれません。真輝が直也への恋心を認めたのも、損得勘定を無視して自分を助けてくれた想いに心を打たれたからですし、やはり社会人になった私の変化が反映されていますね。
ブラック・ストームの中で最も私に近いキャラクターは誰かと問われれば、遠江真輝と即答するでしょう。考え方や行動原理がそのまま私ですし、執筆していても非常に書きやすかったのを覚えています。
物語の最後で真輝が恋心を認める展開も、個人的には非常に気に入っています。人を信じる事を突き詰めていって、その相手が異性ならば、きっと恋に落ちると思う訳です。今回のテーマにふさわしい結末ではないでしょうか?
余談ですが、第28話『夜空を渡って』の最後の台詞ですが、あれは遠江真輝というキャラクターを思い付いた瞬間からずっと頭にあった物でした。(「何でもないわよ、ばーかっ」です)つまり、文章にするまでに六年以上経過している事になります。書き終わった瞬間「ああ、遂にここまで辿り着けたんだ」という感慨で胸が詰まりました。本当に、本当に、執筆を続けてきて良かったです。
第3章で片羽翔子に「傍で支えてくれる人がいないなら、胸を締め付ける淋しさを打ち消す事はできないんだから」と言わせた時から、第5章の展開をぼんやりと考えて始めていたような気がします。元々、ブラック・ストームを考え始めた時に頭に浮かんでいたのは、第1章、第2章、第5章でした。完全なる思い付きで書いた第3章と第4章ですが、随所に第5章の伏線を張る事ができましたし、今となっては逆に書かなければどうなっていたのかとぞっとします。
そう思う最たる要因が、霧沢直也の初恋ですね。
第4章で桜小路絢萌を登場させて、真輝と似ていると気付かせたからこそ、直也の行動理由を違和感なく読者に伝える事ができました。今回は真輝に読者の感情を移入させるために、敢えて直也の行動は描写しておりません。「うわ、何か知らないけど直也が助けに来てくれた!?」と真輝同様に驚いてもらえれば幸いです。この演出を成立させる為には、直也が真輝の為に自分の犠牲を厭わずに行動するだけの理由が必要だった訳ですね。
また直也で言えば、第27話『伝えたかった答え』の台詞はかなり思い入れがあります。
「二人なら! 一人じゃなくて誰かと一緒なら、どんな最悪な未来だとしても変えられる!! 階段の終着点は変えられないとしても、別の誰かと新しい階段を作る事ができるんだよっ!!」
この言葉は、本来なら絢萌にこそ伝えたい物でした。『二人なら』とは、直也と絢萌の事を意味しています。
第4章の『026 最後の一段』において、絢萌は絶体絶命の状況から直也だけを逃がす為、肉体の限界を無視して憑依を発動し、八咫烏の界術師を圧倒します。そして、死を予感しながらこう言うのです。
「ここが、私の階段の終着点みたい……やっぱり、未来を変える事はできなかったね」
直也の言葉は、この絢萌の言葉に対する反論になっている訳ですね。
ラクニルに来て多くの仲間を得て、沢山の経験をしたからこそ辿り着けた結論です。『虎の院』時代の直也では決して口にできなかった言葉。一体、どんな気持ちで叫んでいるのでしょうか? 想像するだけで胸が苦しくなります。実は第4章を書いている段階からこの展開は考えていました。真輝が主人公の物語ではあるのですが、直也の過去にも一区切り付けさせたのは我ながら見事な手腕だと思っています。
今回、直也が真輝を助けた理由には、少なからず「初恋の相手である絢萌に似ているから」という想いが込められています。第28話の最後で「困っている相手が真輝だから」と言っていますが、これは本当に言葉通りの意味なんです。勿論、真輝に対しても好意を抱いているのは間違いないですが、現時点では絢萌という初恋相手の影響が大きいのも事実です。
きっといつか、真輝もこの事実に気付く事でしょう。直也も自分の気持ちと向き合う瞬間が訪れるかもしれません。何よりも変化球を投げられるようになった白詰氷華もいます。(氷華の変化は完全にプロットを無視した物でした)これから人間模様がどうなっていくのか楽しみです。
何よりも忘れてはいけないのが、影の立役者である片羽翔子の存在です。
危険を顧みずに自宅を提供しただけではなく、精神面でも真輝を支えてくれました。まあでも、第21話『あの日の涙』で暴走を始めた時はどうなるかと思いましたよ。真輝を励ます的な内容はプロット段階から存在しましたが、まさかあんな事になるとは……でも、書いていてとても楽しかったからOKです! 何ならまたやりたい! 第1章の頃からは想像できないほど良いキャラに育ってくれました。……この子、本当にどこまで行くんでしょうね?
部屋の整理整頓ができないとか、凄まじい集中力で作曲をするとか、何故か料理で失敗してしまうとか、感覚的に物事を捉えてしまう翔子らしい個性かなと思っています。反対に理屈で物事を考える真輝は料理が得意だったり、整理整頓ができたり、芸術関連はサッパリだったりと、いい感じで対比ができたのではないでしょうか? この二人の組み合わせは個人的に好きなんですよね……まあ、だからこそ翔子が暴走したんでしょうけど。
更に今作の注目ポイントと言えば、呪言術式を使った真輝の戦闘シーンです。
第1章で森下瞬が使った時は、カタカナでルビを振っていました。ただそれだとダサいなーと思って、アルファベットで表記してみました。訓練をサボっていた森下は発音が片言だからカタカナ表記で、戦闘訓練を受けた真輝は流暢に発音できるからアルファベット表記にした……という後付けの設定もあったりします。(第1章で白詰氷華と戦った敵はどうなるんだというツッコミが聞こえてきますが、そこには目を瞑っていただきたく)
原典詠唱について物凄く頑張りました。……本当に、頑張りました。
ラテン語を元に作ったオリジナルの単語を、ドイツ語的な並びで文章化して、動詞や名詞を英語的に変化させた独自の言語です。多分、改めて考えても同じ文章にはならないでしょう。呪言術式を使うキャラが少ないのは、執筆するのが面倒だからという理由に他なりません。個人的には好きなんですけどね、呪言術式。原典詠唱はやっぱり格好良いですし。
戦闘シーンについては毎回気合いを入れていますが、今回は上手くシーソーゲームが書けたのではないでしょうか? 敵の裏を掻く戦法や、読者を飽きさせない展開、界力術という設定の工夫した使い方、そのどれもが過去作を上回る出来になりました。
個人的には藍葉深園が根性で引き分けに持ち込む最後の展開も気に入っています。想いの強さで世界の記憶から力を引き出せるという演出を使える辺り、界力術という設定の底の深さを感じました。本当に儀式術式は書いていて楽しい方式です。『炎臣の鍛冶』にはまだ別の側面があったります。それについては、また次の機会にお見せする事になるでしょう。
藍葉深園について言えば、最初から再利用する気で生み出した敵キャラでした。実はすでに再登場の予定も決まっていたりします。病気の弟がいるとか、葛藤を抱えながら戦っているとか、普通の少女に近い感性を残している点とか、全て『完全に悪とは憎めない存在』にする為の演出です。
個人的な最大の萌えポイントは、第2話『小悪魔みたいな少女』で学生交流会に潜入する為にカラオケで興味のないアイドルソングの練習をしている所です。
この子、きっと根は真面目なんですよね。「なんで私がこんな事しなくちゃいけないのかな!」とか思いながらも、振り付けまで完璧に仕上げてくる辺りにプロ根性を感じます。悪ぶっている裏で、実は気を揉んでいたり、はわはわと狼狽している場面を想像すると可愛さが増してきます。次に登場する時は更に可愛くするつもりなので期待して待っていてください!
また今作の裏テーマとして、ラクニルの『裏側』を描くという物がありました。
今までよく分からなかった『リスト』の内情や、一桁や圏外といった階級に、統括議会や飼い主といった大人達。深園の目線からだけなので全てを描写できた訳ではないですが、少しは空気感が伝わっているでしょうか?
ラクニルの『裏側』にだけ深く踏み込んだ物語とかも書いてみたいですね。とある魔術の禁書目録でいう所の暗部編でしょうか? 一般生徒が『リスト』に入る経緯や、違法改造された界力武装など、まだまだ使い切っていない設定は残っています。どこまで話をエグくするかはまだ決めかねていますが、世界観を深くする意味でも挑戦してみたいですね。
色々と問題を抱えながらも着実に準備が進んでいく天星祭。界力活性剤を発端とした柊グループの暗躍と内部分裂。物語の核心に触れつつある聖霊の力や擬神体質、白い界力光に『楽園』という単語の数々。これからも物語は加速を続けていきますので、引き続き応援を宜しくお願いします!
さて、では次に今後の展開を発表します。
次に取り掛かる作品はブラック・ストームではなく、出版社の新人賞に応募する為の完全新作となります。メソロジア関連以外の作品を書くのは本当に久しぶりで、世界観や設定をゼロから考えました。学生時代に投稿したのが最後になるので、出版社に投稿するのは実に六年振りになります。……もうそんなに経ったんですね。
投稿サイトで小説を公開するようになってから、読者を意識して文章を書くようになりました。嬉しい感想を貰えたり、厳しい意見を貰ったりもしましたが、その全てが自分の力になっている事を実感しています。つい先日、設定や世界観を考え終わってプロットを完成させましたが、現時点でもかなりの手応えを感じております。自分の腕を試す意味でも、全力で立ち向かいたいと思います!
予定では年内に執筆が終わって、2021年2月中に推敲まで終わらせるつもりです。
ブラック・ストームの次の物語も決まっています。
今回活躍できなかった白詰陽華を主人公にした短編を一本書こうと思っています。(きっと短編です)詳しい内容については未定ですが、2021年6月くらいには投稿を開始できるくらいのスピード感で考えています。投稿間隔が開いてしまい大変申し訳ありませんが、首を長くして待っていてください! 次回予告については、プロットが完成したタイミングで投稿する予定です。
では、最後に謝辞を。
毎回、蛇足でしかない後書きを最後まで読んでくださって本当にありがとうございます! ……今回、かなり文字数が多いですね。
感想やポイント、星やブックマークといった読者からの反応は、本当に私の励みになります。もし、少しでもメソロジアという物語に興味が湧きましたら、評価や感想をいただけると嬉しいです。ランキングに載りたいとか有名になりたいとかではなく、作家とは読者の反応がなければ物語が書けなくなる生き物なのです。私に限らず、好きな作品があれば是非評価をしてあげてください!
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さあ、今回はこの辺りで。
第6章の後書きでお会いできる事を心から願っております。
もしブラック・ストームが日常系なら、ラスボスは片羽翔子だと思います
2020年8月31日
夢科 緋辻