幼馴染みとお義姉ちゃん~夕飯時の対決!~
風邪をひいた。
油断したからではなくて、元々季節の変わり目に弱いから秋口と春先にはよく体調を崩しやすいんだ。
え、体調管理がなってない? みんなそんなもんだろう?
仕方なく近くの診療所で診てもらい、薬を片手に帰宅した。
「ただいま」
「「おかえり!」」
二人分の元気な声に迎えられる。あれ、二人分?
家に上がって居間に入ると、台所には女の子が二人いた。
「ともくん、今おかゆ作っているところなの。もう少し待っててね♪」
ひとりは俺の義理の姉に当たる美枝姉さん。三年前に親父が再婚したときの相手である文枝義母さんの連れ子だ。
「智弘の好きな蟹雑炊作ってるから」
そしてもうひとりは隣に住んでいる幼馴染みの恭子。口数は少ないが押しが強い。
そんな二人が、同時に夕飯を作ってくれていた。最早見慣れつつある光景だ。
「あれぇ? 恭子ちゃん、お出汁入れないの?」
「塩と卵で充分。智弘の好みはよく知っている」
一見すると二人で仲良くご飯を作ってくれているように見えるけど、実際の関係は微妙なのはさすがに気付いている。その原因が俺であることも。
せめて弱っているときくらいは仲良くしてほしいんだけど、無理なんだろうなぁ。
「できたー!」
「完成」
居間のソファで横になっていると、二人がほぼ同時に声を上げる。それを俺はぼんやりと聞いていた。
「ともくん、できたよ!」
「こっちに持って来ようか?」
二人が俺を迎えに来てくれる。こうやって弱っているときに優しくされると、嬉しいよなぁ。
「お尻触りたい」
いかん、あまりにもぼけすぎて本音が漏れてしまった。二人のお尻ばっかり見ていたのがまずかったか!
「できたての雑炊を直接口に流し込まれたい?」
「ごめんなさい」
恭子が凍てつく視線を向けてきたので、いつものように間髪入れずに謝った。ご飯抜きは勘弁してください。
「いいよ♪ あ、パンツ脱ごっか?」
「え?」
それに対して美枝姉さんは気軽に応じてくる。しまった、この人こういう人だった!
「ちょ、待って。いいから、脱がなくていいから!」
出しにくい声を必死に絞りながら、スカートに手をかけた美枝姉さんを止める。
「美枝さんには常識と羞恥心というものがないの?」
「だって、ともくんが触りたいって言ったんだもん。恭子ちゃんはともくんに触ってほしくないの?」
注意しようとして逆に切り替えされた恭子は、一瞬遅れて顔を真っ赤にした。おお、珍しいものを見たぞ。
「くっ、智弘にできたての雑炊を流し込む」
「俺、完全なとばっちりじゃねぇか!」
台所へと向かう恭子の背に、俺は痛むのどを震わせて抗議した。
「そもそも智弘が馬鹿なことを言ったのが原因。罪を認めて罰を受けるべき」
「えー、ともくんがかわいそうだよぅ。ちゃんと食べさせてあげないと」
同時におかゆと雑炊を持ってきた二人が言い合いをしながら戻ってくる。本当に流し込むなんてことはしないよね?
二人が持ってきたおかゆと雑炊は、ひとつが半人前くらいの量だった。ひとつずつを見ると少ないけど合わせると一人前になる。こういうところは何故か協力しているんだよなぁ。
「今から蟹雑炊を流し込む。智弘、口を開けて」
さっきの発言を受けてこの言葉だけを見ると物騒だが、実際はれんげですくった蟹雑炊を俺の口に寄せてくれている。どうもさっきの罰を踏襲する形にしたいらしい。
本当は自分ひとりで食べられるんだけど、一度こうだと決めると頑なになる恭子だから、俺は諦めて素直に口を開いた。
「はふ、あふ!」
うおっ、ほんとに熱い!
少量だったので口の中で転がしながら冷ます。それを見ている恭子は何故か勝ち誇った様子だった。
「もう少し冷めてからの方がいいなぁ」
「罰だから」
「えー」
まぁ食べられるんだからいいんだけど。
「はーい、それじゃ次は私だね!」
今度は横合いから美枝姉さんが寄ってくる。そして手にしたれんげを俺に差し出す、のかと思いきや、なんと自分の口に中身を入れた。
しかし、驚いている俺に対して美枝姉さんは更に寄ってくる。もう顔が目と鼻の先だぞ?!
「ちょっ、姉さん顔が近い」
「んー、口うちゅし~」
のけぞって避けようとする俺に更に迫ってくる美枝姉さん。
「何やってんのー!」
それを見た恭子が、すぱーんと美枝姉さんの後頭部をはたいた。けどそれは、美枝姉さんの顔を俺に押しつけることになってしまう。
「んぐっ?!」
「んー」
急に迫ってきた美枝姉さんの顔を避けられなかった俺の口へ、姉さんの口がくっつくと同時におかゆが中に入ってきた。そして思わず飲み込んでしまう。
「けほっ、飲んじまった」
「おいしかった~?」
満面の笑みで聞いてくる美枝姉さんに対して、俺は赤面しながら視線をそらした。さすがにこんなことは初めてだぞ。どうすりゃいいんだ。
そのとき、何気なく恭子の方へと視線を向けると、目を全開にしてこちらに視線を向けていた。
「智弘、私も口移しで雑炊を流し込むわよ」
「いや待って、普通にれんげで……」
「私じゃ駄目だっていうの?!」
「そうじゃねぇ! 飯くらい普通に食わせてくれ! ていうか、一口ずつ口移しすんのか?!」
声を上げたせいでのどが痛くなってきたが、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
そして俺の言葉を聞いた恭子は再び顔を真っ赤にした。あ、今度は耳まで赤い。
「お姉ちゃんはそのつもりだよ~♪」
「なら私も!」
「待って、そこ張り合うところじゃないから!」
俺の看病をしてくれるつもりなら、まずは風邪を治すところに気を配ってくれ!
結局、冷めたおかゆと雑炊を再び温め直すほど揉めたあげく、お互い交互にれんげで食べさせてくれるということで決着はついた。
尚、俺の病状はちょっとだけ悪化したのはいうまでもない。
病気のときくらい、ゆっくりさせてくれ。 頼むから!