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真稀的短編小説

幻惑の月

作者: 矢枝真稀
掲載日:2008/05/15

ふと思いついたストーリーを短編にしてみました。

幻惑を映す月・・・。儚い世界を照らし、闇夜を彩る。幻惑に囚われた俺は、夜ごと家を抜け出し、月光をその身に浴びる・・・。



「ふぅ・・・」



照り付ける太陽とは違い、月の光は優しい・・・。ため息は、安堵の証だ。

そんな折、俺は廃墟となったビルの屋上にいた。別に気分が優れないとか、家族・友人・知人と折り合いが悪い訳でも無い。ほぼ無意識に、気が付けばこの場所に居たのだ。



「満月だなぁ・・・」



独り言に、返事が返って来る筈など無い・・・。



「綺麗だよね・・・」



何故だか、宙を漂う筈の独り言に、返事が返って来た。



「誰?」



問いかけた言葉は、屋上の貯水槽で拾われた。



「あなたこそ、誰?」

「さぁ。強いて言えば、月に誘われた孤独な男って奴かな?」



おどけたように発した言葉を、また拾う−−−



「なら、私も月に誘われた、孤独な女・・・かな?」



雲に隠れて見えない姿。彼女もまた、同じようにおどけて答える。



「名前は、聞かないよ。どうしてここにいるの?」



今度は彼女が問い掛ける。


「わかんない。キミは?」

「私も、わかんない」



似ているのか?彼女と俺は・・・



「似てるかな?キミと私」

「さぁ?」



心を見透かしたように、彼女は再び問いかけた。無論わかる訳でも無く、たった二文字の返事。その時−−−



「「あ・・・」」



隠れた月は、雲の横からゆっくり顔を出し、俺達を照らした・・・。

銀色の長い髪、紅い瞳。月明かりに照らされて、青白く肌が浮かび上がる。



「幻?」

「かもね・・・」



完全に雲から抜け出した月が、明々と彼女を照らした。顔半分を銀髪で隠し、月明かりを背負った俺の影が、貯水槽の柱に伸びた。



「キミの顔が見えない」

「見たって得などないさ」

「キミには、私の姿が見えるでしょ?」

「見えるさ。キミは月を背負っていない」

「不公平!」



ハッキリ映る表情が、抗議の色を浮かべている。



「ちょっと待ってて」



立ち上がり、足を進める。向かう先は、貯水槽−−−。



「よっ・・・と」



梯子を昇り、このビルで1番高い場所・・・貯水槽にたどり着く。



「今度は、キミが月を背負って見えない」

「月にお互い、向かい合うと良いんだよ!」



おそらく笑顔なのだろうが、影は思ったより暗く、その表情が読み取れない。見えざる表情のまま、彼女は俺の手を取り、並んで月に向かい合う・・・。



「これで、お互いの顔が見えるでしょ?」

「公平に?」

「公平に!」



おっきくて、まんまるな月・・・。手を伸ばせば届きそうな−−−。



「綺麗だ・・・」

「そうだね」



自然と口にした言葉は、月を言ったのか、それとも月明かりに照らされた彼女の姿を言ったのか−−−



「もう、こんな時間・・・」

「本当だ」



腕時計は、日付を変える二分前・・・。



「帰らないの?」

「もう少しだけ。キミは?」

「私も、もう少しだけ・・・」



もう少し・・・その時間は、とても長く感じ、とても短く感じた。

どれくらい月を眺めていたのだろうか、先に腰を上げたのは彼女のほうだった。


「もう一度、会えるかな?」

「先の事なんて、わかんない」



投げ掛けられた言葉に、先の見えない答えを返す。



「冷たいね・・・」

「未来なんて、わからないものさ」

「それを言われると・・・」

「俺は未来に期待しない。ただ・・・」

「ただ?」

「俺はキミの名前も知らないけど、キミを忘れる事は無いと思う」

「その感情は、次に会う時に聞きたい」

「それは約束?」

「かもね。でも、私達はまた出会うよ」



根拠無い言葉だが、その紅い瞳は自信に溢れていた。何も言わない俺から離れ、階段ヘ続くドアに手をかけた彼女は、振り返って小さく笑う・・・。



「私達は、また出会う・・・」



残された、俺一人。満月がいつの間に頭上まで昇っていた。さっきまでいた彼女の幻影を月に映し、耳に残るは、都会の喧騒−−−













目が覚めると、見慣れた天井。着替えを済ませ、学校ヘ−−−



「転校生が、来るらしい」

「マジ?この季節に?」



今は7月。夏休みを控え、毎日が、つまらぬ授業の睡眠薬。友人の言葉も、所詮は噂と聞き流す。



ガラガラーッ



始業5分前に担任が教室ヘ入る。また今日も、つまらぬ授業と格闘だ。



「突然だが、今日からこのクラスに新しいクラスメイトが来る。みんな仲良くしろよ!」



あながち、噂もたまには当たるらしい。クラス中が、ザワザワしだした。



「失礼します・・・」



聞き慣れた声・・・しかもつい最近聞いたような−−−


「「あ・・・」」



銀色・・・いや、プラチナブロンドだろう。白い肌はそのままに、紅い瞳も変わらない。



「森イリアです。よろしくお願いします!!」



淡々と挨拶を済ませ、俺の前の席に座る彼女。辺りからは、好奇の視線が集中していた。







ホームルームも終わり、好奇心に負けた女子達が彼女の元に駆け寄る。



「よろしく」だの

「わからない事があったら聞いてね!」だの。ごく当たり前な言葉が交錯し、彼女も笑顔で対応していた。












これといった言葉も交わさず、睡眠作用を含んだ授業も終わりを迎え、今は放課後。気が付いた時、辺りにクラスメイトは居なかった。



「おはよう」



頭上から降って来た声は、新しいクラスメイトのもの。



「どれくらい眠ってた?」

「2時間くらいかな」

「その間、キミは何してた?」

「寝顔を見てた」

「物好き・・・」

「よく言われる」



時計は午後の6時過ぎ。慌てるわけでも無く、机に下がるカバンを手に取る。



「ねぇ」

「何?」

「やっぱり出会ったでしょ!」



さも当たり前のように言ってのける彼女。



「私の勘は、よく当たるの!」



これもまた、当然とばかりに言ってのける。



「帰る」

「ねぇ」

「何?」



立ち上がった俺を呼び止め、動かず座ったままの彼女に視線を落とす。



「私はキミの名前を知らない」

「カバンに書いてある」



カバンに付けられたストラップには、しっかり『刈羽』と名前が書いてある。



「キミの口から聞きたい」

「刈羽。刈羽龍一郎(かりば・りゅういちろう)」

「よろしく、刈羽くん」



差し出された左手・・・。



「何?」

「握手」

「あぁ・・・」



納得して、握手を交わす。


「刈羽くんの手、冷たいね」

「昔からさ」

「手が冷たい人は、心が暖かいのよ」

「迷信さ」

「かもね。なら、予言するわ」

「予言?」



コクリと首を縦に振り、彼女は俺にこう言った。



「刈羽くんは、今日もあのビルヘ来るわ」

「馬鹿馬鹿しい。俺が意地悪して、来ないかもしれないじゃないか」



フフッと笑い、彼女は言葉を付け加えた。



「必ず来るわ。私にはわかる!」

「根拠は?」

「女の勘よ」



これ以上付き合いきれず、俺は彼女を教室に残し、自宅ヘ帰った。










何故だ・・・よくわからない。カーテンから覗く月明かりが、俺の眠りを妨げる。


「予言か・・・」



時計は11時を過ぎたくらい。眠る事が出来ず、俺はしばし考えた。



「行ってみるか・・・」



服を着替え、寝静まった両親を起こさないように静かに家を出る。












「やっぱり来たね」



ドアを開け、月明かり差し込む屋上に着いた俺の頭上に降ってきた声。



「ね、私の予言は当たるでしょ?」

「否定はしないよ」



精一杯の反論も、この現実には敵わない。



「刈羽くんの言う通り、わざと来ない方法だってあったはず。どうして来たの?」

「それを俺に言わせたい?」

「勿論!」



俺は貯水槽に昇り、彼女の隣に座る。



「好きになったから・・・かな?」

「疑問は要らない」

「惚れたから」

「引力よ・・・」

「え?」



不可思議な答えが返って来た。



「刈羽くんは、月が好き?」

「好きだけど」

「私も同じ。月が好き・・・」

「それは答え?」

「最後まで聞いて」



霞のかかった朧月。満月が少し欠けていたけど、充分明るい。



「月の光に誘われたのは、刈羽くんだけじゃない。私もそう。月の引力が私たちを引き合わせた」

「単なる偶然じゃないの?」

「偶然なら、こんな事は話さない。私も、刈羽くんが好き・・・一目惚れよ」

「じゃあ・・・」

「月が私たちを引き合わせた。ロマンチックでしょ!?」



霞みが消えた。さっきより明るい月光が、彼女の肌を照らす。



「森さん・・・」

「イリアって呼んで」

「イリア・・・」

「何?」

「キス、してもいい?」

「それは黙ってするものよ・・・」



言いながら、彼女の唇が俺の唇に触れていた。



「大胆」

「月のせいよ・・・」

「月のせい、ね・・・」



微笑みを浮かべ、紅い瞳は俺を捉えて離さない。



「龍の番よ」

「では・・・」



紅い瞳は瞼の奥・・・。距離が無くなるその瞬間、俺は彼女に囁いた・・・。










「月夜の同士に口づけを・・・」

たまに、夜遅く家に帰る途中、ふと空を見上げる時がありました。まんまるの月や、三日月。不思議だなぁって思うのは、浮かび上がる月の光に暑さを感じない事。でも月って、地球にはなくてはならないもの・・・関係ないかもしれないけど、そんな意味を込めて書いた作品です。

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― 新着の感想 ―
[一言] こんばんは。突然読ませてもらいました。 最初の方の幻想的な書き方には惹かれました。また「予言」なんかも、男の気持ちを考えるとありそうで良い感じだと思います。 出会いから惚れるのが若干唐突…
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