表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

真稀的短編小説

幻惑の月

作者: 矢枝真稀

ふと思いついたストーリーを短編にしてみました。

幻惑を映す月・・・。儚い世界を照らし、闇夜を彩る。幻惑に囚われた俺は、夜ごと家を抜け出し、月光をその身に浴びる・・・。



「ふぅ・・・」



照り付ける太陽とは違い、月の光は優しい・・・。ため息は、安堵の証だ。

そんな折、俺は廃墟となったビルの屋上にいた。別に気分が優れないとか、家族・友人・知人と折り合いが悪い訳でも無い。ほぼ無意識に、気が付けばこの場所に居たのだ。



「満月だなぁ・・・」



独り言に、返事が返って来る筈など無い・・・。



「綺麗だよね・・・」



何故だか、宙を漂う筈の独り言に、返事が返って来た。



「誰?」



問いかけた言葉は、屋上の貯水槽で拾われた。



「あなたこそ、誰?」

「さぁ。強いて言えば、月に誘われた孤独な男って奴かな?」



おどけたように発した言葉を、また拾う−−−



「なら、私も月に誘われた、孤独な女・・・かな?」



雲に隠れて見えない姿。彼女もまた、同じようにおどけて答える。



「名前は、聞かないよ。どうしてここにいるの?」



今度は彼女が問い掛ける。


「わかんない。キミは?」

「私も、わかんない」



似ているのか?彼女と俺は・・・



「似てるかな?キミと私」

「さぁ?」



心を見透かしたように、彼女は再び問いかけた。無論わかる訳でも無く、たった二文字の返事。その時−−−



「「あ・・・」」



隠れた月は、雲の横からゆっくり顔を出し、俺達を照らした・・・。

銀色の長い髪、紅い瞳。月明かりに照らされて、青白く肌が浮かび上がる。



「幻?」

「かもね・・・」



完全に雲から抜け出した月が、明々と彼女を照らした。顔半分を銀髪で隠し、月明かりを背負った俺の影が、貯水槽の柱に伸びた。



「キミの顔が見えない」

「見たって得などないさ」

「キミには、私の姿が見えるでしょ?」

「見えるさ。キミは月を背負っていない」

「不公平!」



ハッキリ映る表情が、抗議の色を浮かべている。



「ちょっと待ってて」



立ち上がり、足を進める。向かう先は、貯水槽−−−。



「よっ・・・と」



梯子を昇り、このビルで1番高い場所・・・貯水槽にたどり着く。



「今度は、キミが月を背負って見えない」

「月にお互い、向かい合うと良いんだよ!」



おそらく笑顔なのだろうが、影は思ったより暗く、その表情が読み取れない。見えざる表情のまま、彼女は俺の手を取り、並んで月に向かい合う・・・。



「これで、お互いの顔が見えるでしょ?」

「公平に?」

「公平に!」



おっきくて、まんまるな月・・・。手を伸ばせば届きそうな−−−。



「綺麗だ・・・」

「そうだね」



自然と口にした言葉は、月を言ったのか、それとも月明かりに照らされた彼女の姿を言ったのか−−−



「もう、こんな時間・・・」

「本当だ」



腕時計は、日付を変える二分前・・・。



「帰らないの?」

「もう少しだけ。キミは?」

「私も、もう少しだけ・・・」



もう少し・・・その時間は、とても長く感じ、とても短く感じた。

どれくらい月を眺めていたのだろうか、先に腰を上げたのは彼女のほうだった。


「もう一度、会えるかな?」

「先の事なんて、わかんない」



投げ掛けられた言葉に、先の見えない答えを返す。



「冷たいね・・・」

「未来なんて、わからないものさ」

「それを言われると・・・」

「俺は未来に期待しない。ただ・・・」

「ただ?」

「俺はキミの名前も知らないけど、キミを忘れる事は無いと思う」

「その感情は、次に会う時に聞きたい」

「それは約束?」

「かもね。でも、私達はまた出会うよ」



根拠無い言葉だが、その紅い瞳は自信に溢れていた。何も言わない俺から離れ、階段ヘ続くドアに手をかけた彼女は、振り返って小さく笑う・・・。



「私達は、また出会う・・・」



残された、俺一人。満月がいつの間に頭上まで昇っていた。さっきまでいた彼女の幻影を月に映し、耳に残るは、都会の喧騒−−−













目が覚めると、見慣れた天井。着替えを済ませ、学校ヘ−−−



「転校生が、来るらしい」

「マジ?この季節に?」



今は7月。夏休みを控え、毎日が、つまらぬ授業の睡眠薬。友人の言葉も、所詮は噂と聞き流す。



ガラガラーッ



始業5分前に担任が教室ヘ入る。また今日も、つまらぬ授業と格闘だ。



「突然だが、今日からこのクラスに新しいクラスメイトが来る。みんな仲良くしろよ!」



あながち、噂もたまには当たるらしい。クラス中が、ザワザワしだした。



「失礼します・・・」



聞き慣れた声・・・しかもつい最近聞いたような−−−


「「あ・・・」」



銀色・・・いや、プラチナブロンドだろう。白い肌はそのままに、紅い瞳も変わらない。



「森イリアです。よろしくお願いします!!」



淡々と挨拶を済ませ、俺の前の席に座る彼女。辺りからは、好奇の視線が集中していた。







ホームルームも終わり、好奇心に負けた女子達が彼女の元に駆け寄る。



「よろしく」だの

「わからない事があったら聞いてね!」だの。ごく当たり前な言葉が交錯し、彼女も笑顔で対応していた。












これといった言葉も交わさず、睡眠作用を含んだ授業も終わりを迎え、今は放課後。気が付いた時、辺りにクラスメイトは居なかった。



「おはよう」



頭上から降って来た声は、新しいクラスメイトのもの。



「どれくらい眠ってた?」

「2時間くらいかな」

「その間、キミは何してた?」

「寝顔を見てた」

「物好き・・・」

「よく言われる」



時計は午後の6時過ぎ。慌てるわけでも無く、机に下がるカバンを手に取る。



「ねぇ」

「何?」

「やっぱり出会ったでしょ!」



さも当たり前のように言ってのける彼女。



「私の勘は、よく当たるの!」



これもまた、当然とばかりに言ってのける。



「帰る」

「ねぇ」

「何?」



立ち上がった俺を呼び止め、動かず座ったままの彼女に視線を落とす。



「私はキミの名前を知らない」

「カバンに書いてある」



カバンに付けられたストラップには、しっかり『刈羽』と名前が書いてある。



「キミの口から聞きたい」

「刈羽。刈羽龍一郎かりば・りゅういちろう

「よろしく、刈羽くん」



差し出された左手・・・。



「何?」

「握手」

「あぁ・・・」



納得して、握手を交わす。


「刈羽くんの手、冷たいね」

「昔からさ」

「手が冷たい人は、心が暖かいのよ」

「迷信さ」

「かもね。なら、予言するわ」

「予言?」



コクリと首を縦に振り、彼女は俺にこう言った。



「刈羽くんは、今日もあのビルヘ来るわ」

「馬鹿馬鹿しい。俺が意地悪して、来ないかもしれないじゃないか」



フフッと笑い、彼女は言葉を付け加えた。



「必ず来るわ。私にはわかる!」

「根拠は?」

「女の勘よ」



これ以上付き合いきれず、俺は彼女を教室に残し、自宅ヘ帰った。










何故だ・・・よくわからない。カーテンから覗く月明かりが、俺の眠りを妨げる。


「予言か・・・」



時計は11時を過ぎたくらい。眠る事が出来ず、俺はしばし考えた。



「行ってみるか・・・」



服を着替え、寝静まった両親を起こさないように静かに家を出る。












「やっぱり来たね」



ドアを開け、月明かり差し込む屋上に着いた俺の頭上に降ってきた声。



「ね、私の予言は当たるでしょ?」

「否定はしないよ」



精一杯の反論も、この現実には敵わない。



「刈羽くんの言う通り、わざと来ない方法だってあったはず。どうして来たの?」

「それを俺に言わせたい?」

「勿論!」



俺は貯水槽に昇り、彼女の隣に座る。



「好きになったから・・・かな?」

「疑問は要らない」

「惚れたから」

「引力よ・・・」

「え?」



不可思議な答えが返って来た。



「刈羽くんは、月が好き?」

「好きだけど」

「私も同じ。月が好き・・・」

「それは答え?」

「最後まで聞いて」



霞のかかった朧月。満月が少し欠けていたけど、充分明るい。



「月の光に誘われたのは、刈羽くんだけじゃない。私もそう。月の引力が私たちを引き合わせた」

「単なる偶然じゃないの?」

「偶然なら、こんな事は話さない。私も、刈羽くんが好き・・・一目惚れよ」

「じゃあ・・・」

「月が私たちを引き合わせた。ロマンチックでしょ!?」



霞みが消えた。さっきより明るい月光が、彼女の肌を照らす。



「森さん・・・」

「イリアって呼んで」

「イリア・・・」

「何?」

「キス、してもいい?」

「それは黙ってするものよ・・・」



言いながら、彼女の唇が俺の唇に触れていた。



「大胆」

「月のせいよ・・・」

「月のせい、ね・・・」



微笑みを浮かべ、紅い瞳は俺を捉えて離さない。



「龍の番よ」

「では・・・」



紅い瞳は瞼の奥・・・。距離が無くなるその瞬間、俺は彼女に囁いた・・・。










「月夜の同士に口づけを・・・」

たまに、夜遅く家に帰る途中、ふと空を見上げる時がありました。まんまるの月や、三日月。不思議だなぁって思うのは、浮かび上がる月の光に暑さを感じない事。でも月って、地球にはなくてはならないもの・・・関係ないかもしれないけど、そんな意味を込めて書いた作品です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] こんばんは。突然読ませてもらいました。 最初の方の幻想的な書き方には惹かれました。また「予言」なんかも、男の気持ちを考えるとありそうで良い感じだと思います。 出会いから惚れるのが若干唐突…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ