たまにはこんな隕石も
「んーー...ふぁぁあ...はふぅ......おはようございます夢さん...」
「おはよ、相変わらず酒臭い朝をありがとう」
昨日の夜は皆して飲みすぎてどうやって家に帰ったか誰も覚えていない。
ハーフウルフはお酒に強いのか、メルカだけ二日酔いがなかった。
だからといって口臭が軽減したりするわけでも何でもなく、ただただ酒臭いわけで
「うぅ...気持ち悪いし頭痛いです...」
「夢大丈夫？私やるよ...」
「姉さんはベッドで休んでてよ今水入れてくるから...」
見ての通りメルカ以外全員がダウンしている。肝心の二日酔いしないメルカは朝が極端に苦手だ。吸血鬼かよってぐらい。
「メルカも水いるか...って」
「すぴーすぴー...そんなに飲めませんよぉ...」
寝てるんかい。珍しく早起きだと思ったのに...
夢の中でもお酒を飲んでるハーフウルフの幸せそうな顔を見て思い出した。今日はこの前の臨時報酬で手に入ったお金があるから買い物に行く予定になっている。
クエストも休み休みしなくてはいくら四人で暮らすためにお金がかかるとはいえ
体を壊してしまう
「はい、水」
「ありがとうございます夢様...」
「ありがと...」
こんな調子で異世界生活大丈夫なのだろうか...
不安しかない。
毎日クエストと酒場を行き来するだけの日々、
魔王もいないしもう少し刺激的なことでも起きれば楽しいのかもしれない...
悩んでても仕方ないし少し外の空気でも吸おう、
そう思って窓を開けた。窓を開けたんだ。
「うわああああああああああああああああ」
見たことある気がするな、この状況。
親方！空から女の子が！っていうやつ
あ、思い出したプロローグの白い部屋の姉さんだ
「受け止めてくださああああああい！！！」
「！？」
ドシンッ！
強烈な一撃は二日酔いの俺には重すぎる。
確かに衝撃は強かったが、不思議とお腹の上の重さはさほどない
「なんの音ぉ？...」
「大丈夫ですか！なにが起きたので、すか？」
姉さんとリリアさんが見に来たっぽい
俺の上には何かわさわさしたサムシングがあって前が見えない
「助け...て、」
「何で空からお前が降ってくるんだ！？」
「あの変な部屋からザオ〇ルかけてあげますよ、ドヤァ...とか言ってたじゃない」
「ま、まぁ待ってくださいよ、ドヤァ...は言ってませんし、魔王軍の事については申し訳ありませんでした...こちらの情報違いらしくて」
さすがに反省しているのか、長い髪で顔が全く見えないが項垂れている。空から落ちてきた？のはいつかの美幼女だった。
「実は、向こうの世界の時間が止まってなくてですね、日本のあなた方が死んでしまったというかなんというか...」
死んだ？
向こうの世界の俺達は死んだ？あらま、なんてこったい
理解できずに脳がフリーズする。
姉さんが美幼女に尋ねる
「んー...私達が死んだのはなんとか理解できそうなんだけど、それってわざわざここに来ないと伝えられないことなの？ほら、あなた魔法使えるじゃない？なにか訳ありなの？」
明らかに何のことかさっぱりわからない様子のメルカとリリアさんを置いて話が進む。
「あのですね、更に私より上の神様、上司に怒られたというか、夢と姫みたいに飛ばされたというか...私も来たくて来た訳では無いという感じで...色々とあなた達を飛ばした後に問題が発生したというか、」
「つまり要約すると？」
「怒られて異世界に飛ばされました助けてください」
「これからどうするの？」
メルカとリリアが美幼女に興味を抱いているが少し置いといて。
「上司の話だとお前も一緒に冒険しろと、」
「まじで？」
「まじです」
まさかの急展開。魔王がいない今、特にすることも無いはずなのに。
「でも、魔王はもう封印されてるし目的なんて...」
「目的はあるのです」
俺の言葉を遮るように話し始める
「実は魔王は封印されていません、」
「え？」
あまりの唐突さに驚きを隠せない
「勇者達は確かに魔王軍及び魔王を壊滅状態まで追い込んだのですが、あと少しのところで勇者は魔王に買収されました。数多くの財宝と、人知を超えた力と、美女たちに惹かれ、勇者は魔王の封印をしたということにしておくということを魔王と約束し、実際は封印なんてされてません」
この展開ドラ〇エみt、ゲフンゲフン...
なんというか、もっと壮大な理由を考えてた俺達は、どっと力が抜けた。
「勇者がクズだっただけか...色々考えた俺が馬鹿だったよ...」
メルカが目をキラキラさせて神様に尋ねる。
「あの、神様お名前を聞いても？」
「そうだ、名前聞いてない」
「グランシアです。グランシア・イル・ネルシアです」
二日酔いと激突と勇者のクズ話で疲れきっていた俺達は、クエストなんて行ける気がしなかったため
(もとより行く気なんてなかったが)
予定通り買い物に行こうと満場一致で決まった。
この街にはバザールと呼ばれるところがある。東西南北に十字に伸びていて、近隣の街や、かなり遠くの街から来る人も多く、連日賑わっている。
こんな大所帯で固まって動いても邪魔なので俺とメルカとグランシア、姉さんとリリアの2組にわかれて行動することになった。
姉さんは俺と一緒に入りたくない店があるらしく珍しく俺とは別行動するらしい、
「何だかんだ言ってギルドと酒場以外の場所をじっくり見たことないなー、全然ここについてわからないし、メルカ頼むよ？」
「安心してください！このバザールについてはそれなりに知ってますので」
「私も楽しみです、飛ばされて良かったと感じているほどです。あ、夢、あそこのお店入りましょうよ！」
メルカは胸を張り、グランシアは...ウキウキしてる!?
あの敬語毒舌無愛想幼女がメルカみたいなキラキラした目で楽しんでいらっしゃるー!
でもなんだろう、やっぱりというか、
両手に花というよりは子供のお守りを任された休日のお父さんみたいだと思う。
これはこれで楽しいし
何よりグランシアやメルカに対して親心が芽生えてきた
「グランシア、お前がそんな顔で笑えるようになって父さん嬉しいよ」
「いつ生んだんですか、姫との子供ですか私は、こんな可愛い孫が出来て、さぞお父様も喜ばれましたでしょうね!」
バザール効果かいつもより毒が弱めだが
「やっぱり子供扱いはNGですか」
「あたりまえです」
休日のお父さん気分はあっけなく散った
このバザールには世界中からキャラバンも王都への旅の中継地として集まるため、
様々なものが買えるとメルカが言うので、それならばと
今日は装備品等いろいろ買いそろえるつもりだ。
現状、姉さんも俺もまったくの私服に申し訳程度のアーマーしか装備していないので、
クエストに行ってもかっこうのエサになりかけてしまう。が、それも今日で終わり。
今度からはゴブリンの群れにルンルン気分で入ってスキップしながら討伐できる
それはそうと
「メルカ、あのゴツゴツしたでかい獣は何だ？」
「あれはトルンチャです」
「トルンチャ？」
「はい、力が強く、温厚な性格で人懐っこいのでキャラバンなどが砂漠や湿原を通る時に荷物を運んでもらうために商業ギルドから借りる獣です。」
「へぇー、ってグランシアどうした？」
グランシアがトルンチャに近づく
「可愛いですね、神である私が撫でてあげましょう」
グランシアとトルンチャのサイズ差がすごい。
グランシアがトルンチャを撫でようとした時
「ふっ...」
「こ、このトルンチャ私のこと鼻で笑ってきたんですけど、こんな獣にばかにされたんですけど!?」
めちゃくちゃ人間っぽいトルンチャだ。
「いつか必ず倒します。神として売られた喧嘩は買いますから、こいつだけでなくこいつの家族恋人まで見つけ次第どんな方法ででも痛い目見せてやります...」
「グランシア！それぐらいにしとけって、今色んな意味でグランシアが痛いぞ！」
「何ですか？よく聞こえないですけど、絶対失礼なこへぶっ」
「グランシアああああああ」
「グランシア様ああああああああああ」
グランシアがトルンチャに潰された。
「ひぐっ...うぅ......」
トルンチャに踏まれたグランシアをなんとか救出したが、服がボロボロになってしまった。
「なぁ、メルカこのへんで服屋ってない？早くグランシアに服買ってやらないと」
「確かすぐそこに...あ、あれですよ！あそこです！」
「いらっしゃいませ！」
暖かい雰囲気の木目調のお洒落な服屋には合わない野太い男らしい声が聞こえた。
「トール！！」
そこに居たのはリリアを紹介してくれた巨人族の男だ。もう1人の相方、ヒュージはいないらしい。
「おぉぉ！おめえかあ！」
「こんなお洒落なお店でお前なにしてんだ？」
「お洒落な店とはありがてえなあ！ここは俺の店だぜ！巨人の服屋だ」
「夢さん、ここは老若男女問わず冒険者に人気のある巨人の服屋ですよ！このお店目当てに国外からのお客さんも多いんですよ」
メルカの言葉通り、周りには様々な種族の老若男女が服を買っている。
「トール。この娘の服も買えるか？」
「当たり前よ！お嬢ちゃんみたいな子のは確かそっちの右奥の方にあるぜ！ガッハッハ！！巨人族用の服だけじゃないぜガッハッハッハ！！！巨人の服屋なのにな！ガッハッハッハッハ！！！」
「グランシア様これとか似合うのではないですか！」
メルカが持ってきたのは青色に白の細かい刺繍と大きいリボンが付いた、可愛らしさの中に気品のある、グランシアに似合いそうな服だった。
「どうでしょうか？へんではないですか？」
試着させてもらい感想を貰おうとしているグランシアが可愛い。
「めちゃくちゃ可愛いです！」
鼻息が荒い気がするぞメルカ。
結局メルカが選んだ服に決めたようで、その服を買い、どこか満足気な2人と店を出る。
「あの...魔法書屋さんに行ってもいいでしょうか？欲しい本がありまして」
「別に構わないけど？」
メルカに付いてきて入った魔法書屋の中は新しい本の独特の香りと、古い本の湿っけや古い木の匂いが混ざりなんとも表現し難い空間だった。
メルカは欲しい本が決まってるようで、俺は俺でグランシアと魔法書屋を見ることにした。
「なんかこうやって手を繋いで歩いてると、周りからは恋人同士のように見られるのでしょうか？」
グランシアがぼそっと呟いた。
「どちらかと言うと親子のような気がするけどね」
ガンッ
「私は神ですよ？崇められることはあっても弄られるおぼえはありません。」
思いっきり足を踏まれた。
「い、痛い、痛い痛い」
この幼女の横暴さはどうにかならないものか...
何回も踏まれて、だんだん感覚が麻痺してきた。ふと視線を本棚に移すと、おどろおどろしい表紙の本があった。
「なんだこの本、題名は？なになに、大好きなあの子に気付かれずに大好きなあの子の大好きなあの子を呪う本」
「何ですかその本」
うん、俺もそう思う。
そこでちょうどメルカが帰ってきたので中身までは見れなかったが、見なくて良かったのかもしれない。
魔法書屋を出ると姉さんとリリアさんがいた。
「ねえ聞いて！？私達下着屋さんに行ったんだけどね、私に合うのありますか？って聞いたら、店員さんが悩んだ挙句、......サラシって...っ...サラシっていったの...うわああああああん」
「大体リリアちゃんだってこんな立派なのぶら下げて、酷いっ！」
「いや、ち、ちがう好きでこうなったわけじゃ...ちょっ...やめ、」
うわあ、えげつねえ...。
そして周りの視線がなぜか俺に集まっているのだが。
まあそれもそうか、幼女2人もあわせると女性4人に１人だけ男がいて
道のど真ん中で急にパーティーメンバーが乳揉み始めたんだもんな、
ああ、どこで間違えたんだろ人生。
「あ、あの姫さん？これ、」
「ん？ああ！前にお願いした本？ありがとうわざわざ買ってきてくれて！」
「いえ、私の買い物のついでですので」
「ううん、ありがとう！」
切り替え早すぎだよ姉さん。リリアさんが可哀想に思えてきた。
ん？ちょっと待てよ？
「姉さんその本って...」
「何？夢、この大好きなあの子に気付かれずに大好きなあの子の大好きなあの子を呪う本のこと？」
それ買うんかい！
またも周りの視線を集める。
「姉さんそれ何に使うの？...」
「何って呪術を覚えるためだよ？そんな想像してるであろう怖いことには使わないわよ！多分...」
多分...。
「そういえば、メルカとかが使う魔法とかどうやって覚えるの？」
「この世界にはレベルの概念があるのですが、モンスター討伐など様々な行為によってレベルが上がります。ギルドに行けば神官の方が調べてくれます。そこでレベルがわかり、さらに職業情報の更新をすると自分の最新の階級がわかります。魔法やその他スキルについては、さっき姫さんも言いましたが、魔法書などを読み、自分に見合った力があれば使えますよ」
「つまり、レベルを上げないとどんなにつよい魔法書を持ってたとしてもつかえないってことなので、夢様、姫様はまず神官にレベルを調べてもらった方がいいですね」
「なるほど」
「でも職業ごとに使えるようになるスキルが違うので、夢さんは魔法使えませんよ？」
「おっとメルカさんまたまたぁー、そんなご冗談を」
「いえ、夢さん。アーチャーは全職業中唯一、一つも魔法を覚えられません、もし仮に魔法が使いたいなら、...ごめんなさい！そんなつもりじゃ」
「ぐすっ...大丈夫だよメルカ、その続きを話してくれるかな」
「は、はい！魔法が使いたいなら魔法使いなど別の職業についてから魔法を覚え、その後アーチャーに戻れば使えますよ！」
「夢、辛いけど、それがこの世界のルールなの...っぷ、ま、まさか唯一の職業につくなんて、さすが私の弟、っくく、くくく」
「姫、笑ってはダメですっふくくく、怒ったときの夢はとても強いのです、...魔法は怒っても使えませんがくくく....」
聞こえてるぞー、グランシア
この貧乳共人の不幸に笑ってしまうほどの極悪人だったか、まあ確かに俺がその立場でも笑うが、
ここは一つ、
「...姉さん、お覚悟ッ」
「ひゃっ！ご、ごめんね夢、私の夢にもこんなことがっ、ふふっ、んくくく、起きるとは、くくく、ダメ！ツボはいった!んくくく!」
日頃のストレスとともに姉さんには飛んでもらおう
「するのと、」
「されるのは、」
「んぇ？浮いて、」
「ちがあああああああああああああああ」
「きゃあああああああああああああああ」
遥か彼方に姉さんは飛んでいき、あの空の一番星になった。
そしてこの物語は幕を....
閉じるわけもなく
数十メートルほど先に飛ばされた姉さんはトルンチャに当たり気絶した
「夢死んだかと思った」
姉さんを一番星にして気絶させたことは反省してる
メルカたちが俺と姉さんの装備を選んでくれると言うので、二人でベンチに座って待ってることにした
姉さんは白目剥いて気絶しているため膝枕の形になった俺はメルカたちが帰ってくるまで動けない
一時間ぐらい経った頃
「じゃーん!買ってきましたよー！早速着て下さいよー」
「着たいけど、どこで」
「夢様、あっちの方にトイレがあったのでそちらで」
「なんで赤くなってんの？」
「トイレがありますからそちらで」
「なに妄想した？リリアさん？」
どうしても口を割らないので、渋々折れて着替えてくることにした。
ちなみにリリアさんがさっきの魔法の一件で姉さんの影に隠れて吹き出していたのを、俺は知っている。
「ど、どう？」
こう改めて皆にまじまじと見られるのは恥ずかしい
姉さんもいつの間に目覚めてるし
「...夢さんって、やっぱりそれなりにイケメンですよね」
「なのになんでかモテなそうと言うかなんと言うか」
「好きにはならないかっこよさです」
「それでいいの！恋のライバルは多くなくていいわ」
好き勝手言いやがって、なにが残念イケメンだ、雰囲気イケメンだ、一生童貞だ
...ダメだ、自分で考えて泣けてきた
肝心の装備は肘や膝の部分が厚手になっている以外は革の動き安そうな服と。
それと腰に巻くタイプのこれまた革の鎧、アーチャーらしい長めのブーツ
うん、かっこいい。とてもスタイリッシュで狩人っぽくていい
ゴブリンの群れに突っ込んでスキップ出来るかはわからないが、新調した装備に愛着は沸いた。
「とりあえずもう遅いし、ご飯食べて帰りましょ」
「じゃあ酒場ですか？」
「いや、俺まだお酒飲む気になれない...」
「すみません、私もまだ...」
「私1人酒ですかぁ」
「ごめんなメルカ...」
「大丈夫です！今日は飲みません、禁酒です！」
「メルカ...お前何歳だよ...」
「ほんとよ...」
「レディに年齢を聞くのはどうかと思います！」
「すぴー...すぴー...」
グランシアは色々あって疲れたのか俺におんぶされて寝ている。この騒がしさの中で寝れるなんてよっぽど疲れてたんだなって。
