獣娘こそ最強の正義
飛ばされた。異世界に。
口の悪い美幼女に飛ばされた。
ひとつだけ叫びたい。
「何も聞かされてないわあああああああああああ」
俺の魂の叫びはあの美幼女に届いただろうか
ふぅ、少しすっきりしたけど周りの視線が痛い。
やけに綺麗な目に睨まれていると思ったら俺達の周りを歩いているのはエルフとか獣人、リザードマン。冷静になってみるとやっぱり異世界に来たんだって実感して
「やばい、ちょっと緊張してきた...」
そんなことを考え始め肩に力が入って、足が震えてきたところに急に腰のあたりをツンツンされた。
「はひゅ」
突然の腰ツンに変な声が出たじゃないか。
「変な声出さないでよ、可愛かったけど...じゃなくて!ほんとに異世界に飛ばされたんだね」
「そう、みたいだね。姉さんこれからどうしよう、特に危機的状況感を感じないんだけど」
そう、さっきから周りを見渡しても、美幼女から聞いていた魔王の脅威による危機的状況は感じられない。
道路沿いには様々な屋台やら出店があり、むしろ活気づいていて楽しい街だとすら思うのだが。
「お腹すいたね、姉さん」
ぐぎゅるるる
「姉さん?」
顔を隠してうずくまっている姉がいる。
耳を赤く染めてるとこを見るとさっきのは姉さんのお腹の音だったのだろうか
「ねぇ、わわわ私お腹が...その...」
「うん、はっきりきこえたよ、しっかりと」
「じゃあ、忘れてもらおうか」
そう言いながら手をワキワキさせながら立ち上がる。
俺の後ろに回り込んだ姉さんは瞬く間に
スリーパーホールドをキメてきた
姉さんのせいで体力も使い、腹も減った。
そう言えば朝ご飯以来何も食べてないきがする。
「んー...でも、この世界の通貨、というかこの世界について何も知らないし...」
あの美幼女は俺達を送るだけ送って何も教えてくれなかった。
「自分たちでどーにかするしかないのか...」
レンガ造りの、それこそドラ○エの世界のような街並みのなか2人で立ち尽くしている。
石で作られた道は太陽や月のような模様が描かれ、西洋の雰囲気にエキゾチックさが混ざったなんとも言えない不思議な街だ。
ただそれよりも聞いていた危機的状況とやらの皆無さに不安を感じるが、
「どうしよ...ばふっ」
姉さんに、多分ハーフウルフであろう赤髪の小柄な女の子がぶつかる。
小柄な割には随分と大きいソレに目がいくが...って違う違う
あと一歩で変態ロリコンに成り下がるところだった
「いてて...すすすすすみません!!おおおおお怪我はありませんか?そそその、す、すすすすみません!!」
「痛いというか、柔らかかったというか、」
あまりの怒涛の謝罪に1歩後ずさる。
「すみません、前を見ていなくて...」
よく見ると片手に本を持っている。表紙には魔法陣のような模様がある、魔法書なのか?そう言えば杖を持ったりいろんな武器を持った人やらなんやらが周りにちらほらといる
「よろしければ、お詫びというか、そこの酒場でお食事を奢らせてくださりませんでしょうか…」
なんという疑わざるを得ない展開、だけど今は感謝しかない、願ったり叶ったりだ
「そんなに謝らなくて大丈夫よ、その、私達ここに召喚...げふんげふん、この街に来たばかりでお腹すいてて...ご好意に甘えてもいいかな?」
話を聞き終わる前に
「勿論です!ではれっつごーです!」
なんだろう、この娘絡みにくい...
そしてさっきから顔と言葉とは裏腹に、何故か殺意をハーフウルフの娘に向けてる気がするのですが、姉さん。
「おっぱい大きかった...」
まさかこの娘の隠れ巨乳に殺意を?さ、流石にそんなことはないといいと思った俺であった。
紆余曲折あって、
酒場に到着し注文を終えたところだ
この娘に案内された酒場にはヴァイキングを思わせるような大男やこの娘より遥かに大きい獣人が爆笑しながら豪快に酒を飲んでいる、
「賑やかでいいお店ね、雰囲気もお洒落で」
姉さんが言う通り賑やかだし、なかなか凝っていてな看板の龍の尻尾のような紋章が印象的なお店だ。
しかも店名は「龍の尾」、そのまますぎる。
「はい!私の行きつけのお店で店主さんが同じハーフウルフで仲良くさせてもらってるんです」
店の奥には強面のハーフウルフのおじさんがカウンターで客と話してる。
すごいシャカシャカしながらカクテルを作っているが
いっこうに出来上がる気配は無い
そんなこんなで料理が運ばれてきたが
「そ、その巨大ワニの尻尾肉のステーキも美味しそうですね」
ハーフウルフの娘がよだれを垂らしながら目をキラキラさせて姉さんを見てる。
「あなたのお金だし全然いいけど、私にもあなたの一口頂けない?」
「是非!」
この娘はハーフウルフのメルカと言うらしい。本人も自分の大食いと臆病さは自覚してて、直そうと努力しているらしいが正直直らないのではないかと半ば諦めている。
「夢もほら、あーん」
あーんさせてこようとする姉さんの手を払いメルカに尋ねる
「それで、もう魔王軍は壊滅、勇者の手で魔王も封印されているの?」
「そうです3ヶ月ほど前の事です。夢さん達のような別のとこから来た方のパーティが魔王軍を壊滅状態まで追い込み、この街の北東のエルシアの対魔王軍と協力し魔王を封印したというふうに聞いています」
俺達が聞いた話だともうこの世界は魔王による圧政も無く平和になったらしい
「...夢、この話が本当だとしたら...」
姉さんが耳打ちしてきた。泣く3秒前みたいな顔をしている。手を払われたのが心に刺さったらしい。悪いことをしてしまった
「うん、だよね」
あの美幼女のゲスい顔が思い浮かぶ。
いつか絶対ぶっ飛ばす
「ありがとうメルカさんこの恩はいつか必ず」
姉さんがお礼をしながら立とうとする。
「いえ、恩だなんてそれほどのものでは...」
「ううん、私達ほんとに感謝してるんだよ?」
メルカは何か思いついたようなキラキラした目で俺たちを見たと思ったら、急に指を絡めてもじもじしながら
「そ、そその...よかったらお友達になっては頂けないでしょうか、でも、そのどちらかと言うと仲間...みたいなもので」
そう言いながらだんだん熱が入ってきたようで
「私、冒険者をしているんですけど1人じゃいいクエスト受けられなくて、その...私臆病で他のパーティにも入れなくて...」
「採集系のクエストしか受けてなくて...生活も苦しくて...」
だんだん涙目になっていくメルカを見ていた姉さんはこの娘の隠れ巨乳なんて忘れて、
「夢!冒険者になろう、この子のためにも!」
もらい泣きした姉さんがメルカの手を握りながら訴える。
「今聞いたと思うけど俺達冒険者でもないし魔法も使えないし力になれないかもしれないよ?」
「そういうことなら大丈夫です!冒険者ギルドに行けば冒険者になれます!そこで神グランシアの恩恵を受けて冒険者に必要な力を受けられます!そこで初めて魔法などのスキルを使えるのです!」
やけに説明口調なメルカがいささか不審ではあるが、どうやら明日の生活のためにも働くしかないししょうがない
「これはもうなるしかないね!冒険者!」
善は急げと冒険者ギルドに加入した。
冒険者にも色んな職業があるようで種族によって得意不得意があるのだそう。
俺たちはもちろん人間だから、そもそも冒険者には向いていないらしいが。
ところでメルカはウィザードだという。
「メルカ、その冒険者免許の横に書いてあるB級てなに?」
「あぁ、説明しましょう!」
この世界の冒険者ギルドには
その職業で高位であるかという基準があるらしい。
SSからE級まであるらしいから中の下ぐらいらしい。
まあ、クエストを選ぶ時の一つの指針として
活用するらしい。
おっと、向こうではすでに姉さんが職業選択をしてる。
「月織姫さんはシャーマンに向いています。呪いや負の術、霊や精霊を使った術式を得意としてますよ。例えば呪術などがゆうめいですね」
「私が呪術師...」
運動能力が皆無だった姉さんはどうやらシャーマンが向いていると言われたらしい。まあ賢さが高いということらしいが
(俺的には性格が反映されたとしか思えないが)
かなり落ち込んでいる
「私が呪術師...呪術師?、わたしが?はははは...」
怖いよ姉さん!とは言えず、
もうすでに呪術師になりきっている姉さんと
少し姉さんを見て怯えてるメルカも置いといて、
自分の番を待った。
自分の番が来るまではウキウキしていたのだが…
「んー...これは...そー...ですね...基本のクラスならなんでも出来ますね、」
なんだろう、馬鹿にされているのだろうか。
いや、きっと馬鹿にされているにちがいない。
受付のギルド職員がちらちらこっちを見ながら話してるもの
周りの巨人族の男達の大きな笑い声が聞こえる
「あんたいいじゃあねえか、色々それなりにできる方がいいこともあるぜ?ガッハッハ!!」
勝手に人の診断結果を聞くなと言いたいが、
巨人族の男達に励まされ、前向きに捉えるとして、
とりあえず決めなければ行けないので少し落ち込みながらも職業リストを見た。こう見ていると、全部楽しそうで決められなくなってくる。
「では、アーチャーで登録させていただきます」
俺は悩みながらもアーチャーに決めた。
だって面白そうじゃん。
職業説明欄に
〇森を駆け、鷹の目で獲物を捉える姿は紛うことなき勇猛な狩人。君の放つ矢は龍さえ撃ち抜く自然の牙。さあ、開かん。アーチャーへの扉。
※望遠スキル、弓術スキルなどが使えます
とか、めっちゃかっこいい説明あったし
ちなみに手元の資料の呪術師の項目には
〇苦しめたい?苦しみたい?気になるあの子を狙い撃ち!強力な呪いは誰もが恐れおののく死毒の狂気。さあ、開かん。呪術師への扉。
※呪術スキル、毒スキル、魔力向上スキルなどが使えます
…怖いわ!、姉さんにはぴったりだけど。
でも、殺人鬼に凶器を渡してはいけないように、
姉さんに呪術の力を授けるのはいかがなものか…
とりあえず、今のパーティはウィザード、シャーマン、アーチャーという遠距離特化のバランスの悪すぎるパーティになってしまったわけで、
その上俺も姉さんも姉弟揃ってC級というこの平凡さ。
可もなく不可もなく?
しかもどちらかと言うと不可な感じだし
「夢さん、姫さん、パーティーになっておいて失礼ですが、流石にこのパーティじゃ討伐クエスト難しい気がするのですが」
「奇遇だね俺もそう思ってた」
「そうなの?実は私もなんだけど」
「ここでひとつ俺から提案が」
「私もです」
「私もあるの」
しばらくの沈黙
「これじゃまともに戦えねえから前衛職急募」
メルカと姉さんが大きく頷く。
そう簡単に上手くいかないのが異世界召喚。
魔王討伐という目標もなくとりあえず生きるために冒険者になったが、色んな疑問ばかりが頭の中にあるが
明日の生活のため
父さん母さん、
異世界で必死に生きて行きます…ッ