プロローグ
突然だが、この物語の舞台である異世界に転移するまでの話をしよう。
その日も普通の日曜日だった。
普通に起きて、顔を洗って歯を磨いて
変わらず姉さんは弟の俺にベッタリで、
振りほどこうと
ジャーマンスープレックスをしたり…
普通に他愛もない会話をしてた。
明日の学校の事とか、やっていた刑事ドラマの犯人当てとか、
そんな普通の日曜日だった。
だったはずなのだ。
「んー...」
一人トイレの前で頭を抱える男がいる
この物語の主人公かつ、この物語の一番の被害者である
月織夢、ただのごくごく一般的な標準男子高校生だ。
普通の男子高校生
とはいいつつも、毎朝登校中に犬に吠えられるのは毎度のことで、
テストの日には風邪を引き、修学旅行では嵐になった。
と、他の人よりちょっぴり不幸なのは知っている。
「俺の不幸もここまで来たか、トイレを開けたら便座の代わりに何かのワープゲートがあるなんて、普通じゃない...」
とりあえず何かしらの情報をと、トイレットペーパーを千切って近づける
消えた。
手に持っていたトイレットペーパーは引っ張られるように吸い込まれた。
ワープゲート確定のお知らせ。
しかし両親は海外旅行中でこの家にはいない。
家にいるのは、
...。
ブラコン気味の姉だけ。
姉は好奇心旺盛で、頭は良いのにどこか頭のネジが4、5本抜けたような変人だ。
なお、この物語の題名通りの貧乳である
「あれだけには見せられない、確実に入ろうとするからな。絶対」
「夢ー?トイレ長いよ、お姉ちゃん限界何ですけどー」
あぁ、終わった。
姉さんがゲートに突っ込んで消滅する運命しか見えない
「...なにこれ?」
「ね、姉さんこれは家の新しいトイレだよ!水洗式でも無い新しい洗浄システムで、で、でもまだ設置途中らしくてさわらない方が身のためだってトイレ業者の人が言ってたよ!」
何で姉さんの好奇心を刺激したんだ俺、
新しい洗浄システムって何だよ...。
あれ?触らない?
「要するに便器何でしょ?わざわざ触らないよ!へー、でも確かに見たこと無いなーこんなの」
付かず離れずの距離感でまじまじとトイレ(仮)を見ている。
とりあえずは姉さんが消滅しなくてよかった。
「うーん、姉さん、これどうしようか?」
「どうしようかってトイレ業者の人が工事を終えてくれるの待つしかないでしょ?そんなことより私もう限界なんだけど...」
「そんなことって、姉さんトイレなら我慢して?俺だって行きたいんだから」
我が姉ながらいささか能天気すぎる。
いや、確かにワープゲートだとは言ってないし
あくまで姉さんの中では、これは施工中のトイレなんだもんな
それにしても尿意は限界だが、
どこに飛んでいくかもわからないワープゲートをトイレとしてつかうのは
リスクが高すぎる。
特に何もおきないならいいが、ここから変な化け物が出てきたりしないだろうな?
今なら確実に漏らす自信がある。
「姉さんここはひとまず...ん?」
ちょっとだけ引っ張られたように感じたが、
「姉さん、今引っ張られなかった?」
「夢も感じた?何だろう、トイレの故障?」
どうやら俺一人の勘違いではないらしい。
俺たち2人はゲートを凝視する。
...。
......。
「やっぱり勘違いだったのかな...」
そう思ってしまうほど何も起こらない
「でも確かにさっき...」
そういった時
「あ、あー。聞こえてますかぁ?うん、聞こえてますね。んんっ、あーもう遅い...遅すぎますよ...普通の異世界召喚ものならもっとすんなりスタートするのに!こっちは待ってるんですよ!まったく私がわざわざ作った転移ゲートをトイレ扱いとは酷いです、あんまりです。あーあ、優しくする気なくなりましたー、早く来てください!!」
「ッ!?」
ゲートの奥からの声への驚愕、
そして同時に再度体を引き寄せられる。さっきよりも確実に強く
「はぷっ」
俺はなんとか踏ん張ったが、姉さんは軽々とゲートに吸われた。
「ええええええええ!?姉さん!?」
しかしながら俺も尿意と筋肉の限界はすぐに来た。
そして軽々吸われた自分の姉を追いかけるように俺も足を滑らせゲートに吸われた。
「痛い...体の節々が痛い...誰だよあんな所にバナナの皮なんて置いたの」
当たりを見渡すが、そこには距離感が掴めないほどの綺麗な白の壁とバナナの皮がある。白と黄色のコントラストは美しい。じゃなくて、天井と言えるか分からないが上の方には、うちのトイレにあったゲートと同じようなものがある。多分そこから落ちたのだろう。
「あれ?姉さん?」
周りに姉らしき人影はない。
いるはずだと思うが、ここはもう転移先の異世界なのだろうか
「んーおかしいな姉さんの方が先に吸われたとおも...ん?」
頭上の気配に気づいた時には遅かった。
「まって、ちょ、やばいって、流石にそれは死ぬ」
「へ!?」
ズルッ。転けた、またバナナの皮だ。頭上に気を取られすぎて足元のバナナの皮に意識がいってなかった。
「「グギャッ」」
リアルな痛々しい鈍い音と、
胸から突っ込んできてるのに、相も変わらずあまり柔らかさを感じないこのドリームキラーな感じ
「いてて...夢!?ごめんね大丈夫?怪我してない?」
痛みと姉の胸の残念さに苦笑いしつつ
「大丈夫、怪我も無いみたい」
と言って立ち上がると
目の前にさっきは確実に無かったはずの椅子、中世の王国の貴族が座ってそうな細かい金色の装飾のある椅子があった。
「大きい、てか大きすぎるだろおおおお!」
あまりの大きさに意識が飛びそうになる。
高さは10階建てのビルほどだろうか。
そこに1人の女の子が座っている。白い肌に金髪とシアン色の瞳。
美しさに息が、詰まりそうになる。
「やっと姉弟揃ったんですか?遅すぎますよ、貧乳姉が吸われたのに追いかけようともせずに踏ん張るってどういうことですか?性根が腐ってるにも程があります、まったく...」
やけに口の悪い美少女、というより外見からして9歳ぐらいにしか見えない、ならむしろ美幼女なのか?
俺の心の中でも読んだのか「ようじょぉ?」とボヤきながら美幼女の眉間のしわが深くなる。
ふと横を見ると、何故か泣きそうな顔で姉に見られている。
「うわあ、神待たせた上に自分の姉泣かせるとか無いわあ、どうかと思いますよ?もういっそのこと異世界じゃなくて地獄に行かれます?」
また美幼女に罵られた。
そしてどうやらここはまだ異世界ではないらしい
「貧乳姉...貧乳...気にしてるのに...」
体育座りで地面に指で円を書きながら落ち込んでいる。
泣かせたの俺じゃねえじゃねえか!
「ね、姉さん?元気出して?」
「だって貧乳って...」
姉の顔が暗くなる。
「貧乳に貧乳って言われた、もう立ち直れない...」
「よく聞け貧乳姉、私の貧乳はステータスですよ?最近はロリ巨乳なる属性があるようですが、ロリに貧乳はいわば鬼に金棒!貧乳姉のそれはむしろ泣きっ面に蜂のようなもので...」
「お、俺は姉さんの貧乳のが好きかなあ…」
少し食い気味に美幼女の話が終わる前に声をかけたが、
確実にミスリード、
怒られても泣かれても仕方ない
そう腹をくくったが
「よしっ」
まさかの小さくガッツホーズ。
小さく聞こえた「夢は私が好き」という曲解は聞かなかったことにしよう。
長らくほったらかされた美幼女はほっぺを膨らませながら
「本題に入っていいでしょうか?こちらとしては別に説明などせずにさっさと異世界に落としてもいいんですけどね?上司がうるさいので、説明しますけど」
美幼女がキレ気味に聞いてきた。
上司ってなんだとか、ここはどこだとか聞きたいことは山ほどある。
だが、ここで長話をするにはあまりに尿意が強すぎた。
「ねぇ?ここにトイレってあったりしないかな」
「無いですがあります」
「え?」
言葉と同時に指を振り下げ
「転移魔法発動効果対象選択『トイレ』」
と小声で言うと、白い光が降ってきてトイレが召喚された。
「「まじか」」
声が揃った。それもそうだろ、
だってトイレが召喚されるとか聞いてない。ていうかさっきスルーしたけど、
この美幼女自分のこと神って言ってなかったか?じゃあここは天国?
でも今はそんなことより膀胱が危ない。
「イカないんですか?失礼、いかないんですか」
「なんで今言い直した?」
「いえ、なんでもないです。」
若干の不信感はあるものの、限界だったため召喚されしトイレを使わせてもらった。
中は普通に綺麗な洋式便所だった
「いいですか?今度こそ本題です。今、とある世界の、まぁいわゆる異世界のある国が危機的状況です。そこで私の管轄している日本から1組選び、その人たちに解決してもらおう!という、ラノベ的展開ってやつです、協力していただけますか?」
美幼女の問いに少しだけ安堵する。
「じゃあ、俺たち死んで死後の世界に来ているとかじゃないのか?」
「えぇそうですが。何でそんなに落ち着いていられるのですか?あまりの衝撃に頭のネジでも抜けました?」
「何でそうなるのよ、私達多少の事じゃ驚かないよ?」
だって元からネジ抜けてるもんな、姉さん。
でも、ついさっきトイレ召喚の時、口開いたままだったじゃん。というのは置いといて
「で、俺らはその国を助ければいいんだな」
「はい、そうです。飲み込みが早くて助かります。ていうか、その国を助けないと日本へは帰れません」
「んー...それは困るな、未開封のゲームが幾つか有るのに」
「安心してください、あなた達がこちら側、または今から飛ばす異世界にいる間は地球全体の時は止まってます...そのはずです」
「問題視してるのはそこじゃないんだけど...」
「あ、ちなみに拒否権はありません。これは私の慈悲で異世界に飛ばすのですから」
「慈悲?」
「いえ、簡単な話です。あなた達は明日死ぬ予定だったのですから。姉弟揃って」
「「まじか」」
また揃った。本日2回目。
「やーい驚いたー、驚かないって言ってたのに。嘘つくのは人としてどうかと思いますよ?もっと私みたいに自分に素直になったらどうです?」
なんだこの幼女、
時々毒づいてくるというかなんというか
平たく言えばイラッとくる、うん。
「お前は自分に素直すぎだ」
「何故、自分を抑える必要があるのです?神なのに!!」
「ま、眩しくて目が開けられない...だと...ッ」
美幼女から後光がッ...
「な、何でそんなにドヤ顔でそんな事が言えるの..さ、流石神とでも言うべきなのかな...」
「まぁ、さきほどの明日死ぬって言うのはあくまでも予定です。少し驚かせようとしただけなので、私達神の中にはもちろん死神も含まれるので、その死神の死の宣告リストに載っていた内の一組というだけです」
「いや、全然安心できないし、したくてもできないし」
結局、死神の死の宣告リストとやらに載っているなら
多かれ少なかれ死ぬ確率は十分あるじゃないか、
というか多分死ぬやつだ。
「んー、そもそも何で私達が死ぬの?」
「そ、そんなこと知りません!!私に聞かれても困ります!トラックに轢かれたり、隕石が直撃したり、ブラックホールに吸い込まれたりするんじゃないですか?知りません、知らなくて当然です」
そっぽを向いてほっぺを膨らましている。
なんだろうやっぱり神様の威厳の様なものを感じない。
神智を超越した美しさにも慣れてきた。ちょうど暗いところで物が段々と見えてくるように
「もう話すこともないので飛ばしますね」
「唐突すぎじゃない!?」
「異世界の説明とか話すことあるって言ってたじゃん!」
「ごたくはいいです!美しさになれたって何ですか...ッ、転移魔法発動!!効果対象選択!」
やばい、心読めるの忘れてた。
白い光が俺達を包み始める。
「死んだらここから身体蘇生魔法かけてあげますから何回でも死んで大丈夫ですから」
「それ絶対ルピがザオ〇ルだろおおおおおおおおお」
急な上昇感に吐きそうになる。というか姉は限界のようだ。
「夢!こっち見ないでえええええええ」
「ぎゃあああああああ姉さんがあっち向いてええええええええ」
美幼女によって異世界転移された。
こんな理不尽にあったんだから
あの幼女の上司とやらにはしっかりと説教をしてもらうとして、
異世界転移がトイレからなんて最悪だが、
行った先の異世界もそれなりに最悪なわけで、
でもそれはまた今度話そう。
それはそうと
9割苦労話
1割もっと苦労した話の異世界転移物語はこうして
不幸にも始まりを告げた。
「...うーん、あの二人で本当に大丈夫だったのでしょうか?...そうですか?それならいいですけど、まああの姉の方はあっちでは相当な能力を開花させますね。あのふざけた仕様のせかいでは」
「でも、あれをコンプレックスと思ってるうちはダメだな...その辺頼んだよ」
美幼女の後ろにはスーツ姿の男が立っていた。