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56A列車 2回目の偶然

 宗谷(そうや)本線に入ったキハ261系は和寒(わっさむ)士別(しべつ)名寄(なよろ)と停車する。名寄(なよろ)からは少々スピードも落ち、さらに北を目指していく。

 あたりは雪に閉ざされ、葉のない樹木と凍り付いた川を眼下に走っている。

「・・・長いねぇ・・・。」

萌がぽつりと言った。昨日の「のぞみ」からずっと普通車に乗っているからなぁ・・・。さすがに体力の限界が来ているのだろうか・・・。それとも、稚内(わっかない)まで行くのが長いという意味だろうか・・・。

「まだ稚内(わっかない)じゃない。音威子府(おといねっぷ)は超えたけど、まだこの先長いんでしょ。」

「そうだねぇ。ながいよなぁ・・・。」

 「宗谷(そうや)」は札幌(さっぽろ)稚内(わっかない)間を5時間10分かけて走っている。これでもキハ261系が宗谷(そうや)本線にやってくる前の所要時間6時間からは大幅に短縮されている。だが、キハ261系が「スーパー宗谷(そうや)」としてデビューした当初の最速は4時間59分だったため、どれほどキハ261系の性能が高いのかが分かる。もちろん、そのタイムをただ来だしていたときは最高速度は今よりも高く、簡易車体傾斜装置を使用した上での時間であるが・・・。でも、最高速度が下がって簡易車体傾斜装置も使わないで歴代最速から11分遅いだけって言うのもすごいが・・・。

「あれっ・・・。止まる。」

萌がそう言うと「宗谷(そうや)」のスピードは見る見ると下がった。どうやら駅に停車するようである。だが、その駅は佐久(さく)。「宗谷(そうや)」の次の停車駅は佐久(さく)ではなく天塩中川(てしおなかがわ)であるため佐久(さく)への停車は運転停車というものである。列車交換や運転士の交代など運転に関わる停車で、旅客扱いつまり乗客の乗降は一切出来ない停車だ。

「排雪列車待ち合わせのため、停車いたします。」

車掌のアナウンスが流れる。

(んっ・・・。)

それに僕たちは反応した。車掌は反対列車とは言っていない。排雪列車と言った。

「ラッセルが来るのかぁ・・・。」

「排雪列車だもんねぇ。ラッセルで間違いないでしょ。」

だが、このラッセルはいつまで待っても、来ない、来ない、来ない。なぁんにも、来る気配がない。

 しばらく経つと、

「現在、排雪列車にトラブルが発生したため、雄信内(おのっぷない)駅で車両点検を行っております。この列車はその影響により佐久(さく)駅に停車しております。なお、列車の運行状況など新たな情報が入り次第、お客様にはお伝えいたします。お急ぎのところ大変ご迷惑をおかけいたしますことをお詫び申し上げます。」

「はい・・・。」

雄信内(おのっぷない)って天塩中川(てしおなかがわ)からもっと北だよね。」

僕は頭の中に地図を広げた。雄信内(おのっぷない)天塩中川(てしおなかがわ)から4駅北へ行ったところにある駅だ。そんなところでラッセルが止まっているって事は・・・。

「行けるかな・・・。稚内(わっかない)。」

「行けるよ。ああ。帰り「サロベツ4号」にしなくてよかった。「サロベツ4号」じゃ本当に行って帰ってくるだけだったからなぁ・・・。」

「それよりもこんなところで閉じ込められたらまずいよ。」

萌が言うのはまずいなぁ・・・。そんなことになったら帰れないから・・・。

「ちょっと車掌さんに聞いてみようかな。」

「聞いてくるの。」

「ちょっと排雪列車には興味あるしね。」

僕は萌にそう言い、隣の3号車に行った。キハ261系の車掌室は3号車にある。

 車掌室の中を覗くと車掌がいた。まぁ、当然か。

「ラッセルは動きそうですか。」

僕は仕事をしている車掌にそう聞いてみた。

「ちょっと分からないですね。今、ハイモが動くかどうかの連絡待ちなので。」

ハイモ・・・。JRの中じゃラッセルのことはそう言うのかな・・・。ただ、連絡待ちかぁ・・・。ラッセルって絶対にオレンジ色のアレだよなぁ・・・。いったい何のトラブルなのだろうか。

「ここから先は雪が深いんですか。」

「違います。どうも雄信内(おのっぷない)駅でブレーキの緩解が出来なくなったみたいで。」

待って、ブレーキ緩解できないってラッセルを一ミリも動かすことが出来なくなっているって事でしょ。んっ、でも待てよ。

「なるほどね。あっ、でも雄信内(おのっぷない)に交換設備はないんですか。」

僕は当然のことを聞いた。ここで入れ替えをする予定だったラッセルは来ない。だったらこっちが雄信内(おのっぷない)まで走って、雄信内(おのっぷない)で列車を入れ替える。そうすれば、遅れは最小限に抑えられる。

雄信内(おのっぷない)駅では交換できないんです。隣の天塩中川(てしおなかがわ)には交換設備があるので、そこまでハイモが来ないとこの列車を動かすことが出来ないんです。もうスジを引いてしまっているので。」

スジって言うのはおそらく列車ダイヤのこと・・・。今、それを変更できる状態ではないのだろう。

「ブー、ブッブ、ブー。」

「あっ、ちょっと失礼します。」

列車無線が入ったのだ。指令からのやりとりが終了すると、

「どうやら、ハイモは動いたそうです。しかし、ハイモは天塩中川(てしおなかがわ)に来るまで30分ぐらい時間がかかるそうです。」

どうやら稚内(わっかない)に行けないということはなさそうだ。

「30分遅れですか。」

僕の隣にいた女性が声を上げる。風貌からツアーコンダクターだろう。

「はい、この列車なら15分ぐらいで走れるんですが、ハイモは遅く走るので。」

「そうなると、旭川(あさひかわ)から乗る列車も変わってしまいますよね。」

「そうですね。この列車が稚内(わっかない)まで行って「サロベツ4号」となりますので、折り返しても旭川(あさひかわ)駅で「ライラック36号」には間に合いません。」

「となると札幌(さっぽろ)から「すずらん10号」にも乗れないことになりますね。」

このツアーは一体どういうのだろう。このまま稚内(わっかない)に行って「サロベツ4号」で戻ったら本当に行って帰るだけじゃないか。あまり人のことは言えないか・・・。

 とりあえず、ラッセルが動いたので僕は萌の隣に戻った。しばらく経つとようやっと佐久(さく)駅を離れた。


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