53A列車 アイス
列車は長万部を出発した。函館本線をここまで北上してきた「スーパー北斗15号」はここから室蘭本線に入る。内浦湾を半周するように東室蘭まで走って行く。
長万部からは函館本線がニセコ・小樽方面へと伸びている。しかし、ニセコ・小樽を経由していくよりも距離は長くなるが、室蘭本線と千歳線を経由して札幌に行く方が早く着く。最近、貨物列車の脱線事故が起こったとき函館~札幌間をニセコ経由で運行された列車は13時56分に函館を出発し、札幌に到着するのは19時27分。一方、今乗っている「スーパー北斗15号」はニセコ経由よりも1時間遅い14時56分に出発するが、札幌には46分早い18時41分に到着できる。
「ピーッ。」
列車は汽笛を鳴らして、トンネルへと入る。前から3両目の5号車には汽笛の音が届いてくる。
「旅のお供に冷たいアイスクリームはいかがですか。」
と言う声が耳に届いてきた。
「あのぉ。」
そう声をかけると。
「はい。」
「バニラアイスお願いします。」
「はい、おいくつですか。」
「ちょ・・・アイス食べるの。」
「萌は食べないの。」
「・・・食べたいよ。」
「じゃあ、二つで。」
「二つで。お会計580円になります。」
お金を払って、テーブルの上に置かれたアイスを見る。ああ。また勝ってしまった。と言ってもこのアイスは本当においしいんだよなぁ・・・。さて、全部溶けちゃわないうちに早く食べよう。
その間にも「スーパー北斗」は車体を傾けながら、俊足を生かして走って行く。アイスを食べ終わったときはちょうどカーブの上におり、車体が大きく右に傾いているのを肌で感じることが出来る。右の傾きがだんだんを緩くなっていったら、今度は左にカーブを切り始める。そうなると今度は左に大きく傾き始める。
ふと道路標識を見ると「礼文」という文字が見えた。んっ・・・。まさか・・・。
「あれ、小幌ってもう通過した・・・。」
「えっ。今どこ走ってる。」
「礼文ってさっき書いてあったけど。確か、小幌って礼文までの間に会ったと思ったけどなぁ・・・。」
そんなことを言っていると駅をちょうど通過した。その文字をしっかり見ようとする。すると「礼文」の文字が見えた。隣駅の文字も見ることが出来、進行方向の逆に「小幌」と書いてあった。もう小幌は通過したのだ。
小幌と言えば、鉄道でしか行くことが出来ない究極の秘境駅と言うことで名を連ねている。もちろん、乗降人員は最近のJR北海道の駅廃止措置を見れば、即刻廃止になってもおかしくはないが、今年のダイヤ改正もなんとか生き残っている。なお、小幌駅は大自然のど真ん中にぽつんとあるような駅なので、列車が来なければ物静かな場所である。しかも、ほとんどは小幌駅を通過する特急と貨物列車が通るため、もし小幌に行くことがあったら、細心の注意を払って訪れる必要がある。
「通過しちゃってたかぁ・・・。」
「ああ、見逃したのかぁ・・・。帰りはしっかり見ようね。」
「うん、そうしようか。」
この後もキハ281系の振り子に振られながら、洞爺、伊達紋別、東室蘭と停車していく。終点札幌到着前に朝貰った切符の有効区間が分かれる白石駅を通過。札幌には時間通り18時41分に到着した。