52A列車 一つの理由
新函館北斗駅に「はやぶさ13号」は入る。14時37分。定刻通りの到着である。次に乗る列車は「スーパー北斗15号」札幌行き。この列車はキハ281系で運行される特急列車だ。
北海道新幹線の開業以来「スーパー北斗」には2種類の車両が使われている。一つは「スーパー北斗15号」に使われるキハ281系。もう一つは帰りに乗る「スーパー北斗6号」に使われる非振り子車のキハ261系だ。
「まもなく列車が到着します。まもなく列車が到着します。」
そのアナウンスが2番線に響いた。函館方面からは青色に塗装された、のっぺらぼうのような車両が走ってきた。高い位置に運転台があり、そのしたには窓の着いた貫通扉がある。貫通扉の上では白いヘッドライトが2つ輝く。
車体はビードの入ったステンレス車体。鋼鉄製の国鉄形気動車に比べればはるかに軽い印象とそれから感じさせるスピード感。JRを代表する俊足ぶりを発揮していた時代は終わったが、それは製造後20年以上が経とうとする現在でさえ衰えを見せない。後輩のキハ261系とは明らかに違う。
この車両キハ281系は「スーパー北斗」用に製造された振り子式特急形気動車。札幌~函館間を最速2時間59分で走った記録を持つ車両である。キハ183系から上がったエンジンのパワーと振り子によって上がった曲線通過速度の恩恵をフルに発揮していたのだ。しかし、JR北海道の一連の不祥事もあり、「スーパー北斗」は最高速度130キロの俊足を120キロへと押さえられることとなった。また停車駅の増加もあり、今はだいたい3時間30分ほどで結んでいる(現在の最速は「スーパー北斗2号」の3時間27分)。
15時15分。キハ281系は新函館北斗駅を出発した。僕たちが乗った5号車はかなりの乗車がある。ふと切符を見てみると函館から札幌まで乗っている旅客もいる。だが、そういう旅客はあまり多くはない。
「.ギュイィィィィィィィ。」
エンジンがうなりを上げ、キハ281系は大沼へと走って行く。そして、すぐにキハ281系は本領を発揮し始める。カーブにさしかかると車体が一気にカーブの内側へと傾けられる。これがキハ281系の俊足を支える一要因だ。
列車は次の停車駅である大沼公園に停車。大沼公園の近辺は雪がしんしんと降り積もっている。大粒の雪がキハ281系の車体に着いた。そして、停車したかと思ったらすぐに発車だ。だが、
「あんまり早くないね。」
萌が言う。
「確かに。北海道気動車の鬼加速じゃないね。」
僕はそれに答える。これは想像であるが、キハ281系は振り子と高速走行に比重の置かれた車両なのだろう。つまり、高速で走行できる時間を長くした車両であって、加速を速くして高速で走行する時間を延ばした車両ではないと言うことだ。エンジンのパワーもそれまで「北斗」として走っていたキハ183系と比べれば格段に上がっているのは確かだろうが、それはあくまで130キロの高速走行を維持するためのパワーなのだろう。まぁ、そもそも停車駅の少ない特急形なのだから、加速があまり重視されないのは仕方の無いことなのかもしれない。
(ていうか、キハ261系が変態加速過ぎるんだよな。ディーゼルの中じゃ・・・。)
心の中でそう思っている間もキハ281系はカーブにさしかかるたびに車体を内側へと傾けながら、走る。車体は一気に傾いていくので、その瞬間は分かりやすい。
大沼公園を出発してしばらく走ると「スーパー北斗」は停車した。
「列車交換をいたします。反対列車到着までしばらくお待ちください。」
のアナウンスが流れた。
少し立つと列車は再び動き出し、今到着したであろうキハ183系で運行する「北斗12号」とすれ違った。「北斗12号」は前回北海道新幹線開業時に札幌まで来た袋で乗った「北斗」だ。あのときの袋はいろいろとヤバかったなぁ・・・。
さて、列車交換が終わるとキハ281系は調子を取り戻すかのように走る。車窓には雪景色が広がる。時折その中に廃止された駅の遺構が見える。駅はそのほとんどが雪に埋まっており、駅の設備は駅名標や遮断棒以外ほとんどそのままの状態で残されている。JR北海道としてアレは撤去したいのだろうが、利用者の少ない駅を撤去する余力も無いという現れなのかもしれない。
「スーパー北斗」は駒ヶ岳を右に見ながら、森へと下っていく。
「まもなく森、森です。停車時間はわずかです。お降りのお客様はお忘れ物の内容お早めに支度の上デッキにてお待ちください。」
アナウンスはこの後英語、中国語で流され、森に停車。ほんの少しの時間盛り近辺に飛んでいるかもめも群れを見ているとプスーという音がしてドアが閉まる。本当に停車時間はわずかなのだ。
「ピーッ。」
汽笛一声森を早我が汽車は離れたり、内浦湾に舞い踊るかもめを旅路の友として。