51A列車 偶然の遭遇
「はやぶさ13号」は「こまち」とともに、東北の地を駆け抜けてゆく。走行速度は最高320キロ。新幹線最速スプリンターの名は伊達では無い。列車は仙台を超え、水沢江刺を通過した後だ。風景には雪が見え始める。だが、巻き上げるにはあまりにも少ない。320キロの雪中走行を車内から体験できないのは残念だ。
北上、新花巻と東北を北上する。その間にたくさんの雪が降っているところはあったが、320キロで走る真紅と常磐の矢は小さい雪雲を通り抜けてしまっている。盛岡に到着する手前でも雪はちらついたが、盛岡駅近辺は晴れている。
「ドアが開きます。」
「盛岡、盛岡です。」
僕たちは盛岡駅に降り立った。もちろん、ホームに出ただけで列車から降りるわけじゃない。盛岡駅は皆さんご存じ、新幹線の連結解放が行われる駅だ。ここで「はやぶさ」の前に連結されていた「こまち」は7両編成になった上で秋田を目指して走って行くのだ。
「ご乗車ありがとうございます。到着いたしました列車は「はやぶさ13号」新函館北斗行きと「こまち13号」秋田行きです。列車前より11号車から17号車「こまち号」秋田行きです。「こまち号」が先に発車いたします。お乗り遅れの内容ご注意ください。」
アナウンスでは「こまち」が先に発車するので、注意してくださいと広報している。
「私、解放は初めて見るなぁ。」
と萌が言う。確かに、解放は初めて見るなぁ・・・。前に乗った「はやぶさ11号」は東京~新函館北斗を最速で走る列車で時間のかかる「こまち」の解放を行わない列車だった。帰りに乗った「はやぶさ30号」は「こまち」を伴うが、乗っていた車両が4号車で遠かったことと疲労から「こまち」の連結を見ていないのだ。
「14番線、「こまち13号」秋田行きが発車いたします。次は雫石に止まります。」
「14番線「こまち13号」秋田行き発車です。ドアが閉まります。ご注意ください。」
「ピーッ。」
E6系のドアが閉まる。走り出すと連結が外れ、今までE5系とくっついていた連結器は長い鼻の先端に収納される。スマホで「こまち」が離れていくところを狙った。写真を後で確認するとちょうど鼻が閉まる途中を納めることが出来た。
「ナガシィ。どうだった。」
「うまく取れたよ。」
「・・・ほう。それ後でおくって、LINEで。」
「いいよ。」
「まもなく「はやぶさ13号」新函館北斗行きが発車いたします。」
「やばい、まず戻ろう。」
僕たちは走って「はやぶさ」の車内に戻った。そうそう。10号車と9号車にもドアは着いているが、それらはグランクラス旅客とグリーン旅客のためのドアとなるので、普通車指定席に座っている人たちは最低でも8号車から車内に入るよう僕たちからもお願いしておこう。
「はやぶさ13号」は新青森を超え、北海道新幹線へと入る。奥津軽いまべつの手前で「はやぶさ22号」と売れ違う。「はやぶさ22号」は帰りに乗る列車だ。さてさて、来る車両はいったい何なのか今から楽しみではある。
奥津軽いまべつを発車すると何個かトンネルを越えて青函トンネルへと入る。青函トンネルに入ると窓が曇った。それだけ青函トンネルの中の湿度が高いのだ。湿度が通年90%以上というところは多くはないだろう。13時50分に青函トンネルに入った「はやぶさ13号」は14時16分に北海道へと入った。
「まもなく、木古内です。道南いさりび鉄道線はお乗り換えです。木古内を出ますと次は終点新函館北斗に止まります。」
男声の自動放送が流れ、「はやぶさ」は減速を始める。そのときだ。
「あっ。」
僕はその声とともに思わず隣に座っている萌の肩をたたいた。
「痛っ・・・。」
萌の声ととてもいい音があたりに届く。ただ、すぐには怒られなかった。多分萌にも一瞬ではあるが今通り過ぎたものが見えたのだろう。
「えっ。まさかEast i。」
「そうだよ。East iだよ。
East iは東海道・山陽新幹線の「ドクターイエロー」だ。ただEast iは1編成しかないため、合うにはかなりの運が必要になるのではないか。それとも、「ドクターイエロー」と同じようにインターネットで調べれば、どうにでもなるのだろうか。
どちらにしても、まさかこんなところでEast iに会うとは思わなかった。
「ところでナガシィ。さっきはよくもやってくれたわね。」
「あっ、ごめん。」