58A列車 離れる時
17時。僕らは稚内駅に戻ってきた。さて、ここからは復路だ。乗る列車は「宗谷」札幌行き。今回のダイヤ改正で1往復残された札幌行きの特急である。
「これから乗るの全部グリーンにして正解だったかもね。」
萌はそう言った。これは前に北海道に来たときに提案したことである。北海道新幹線が開業した直後に北海道に来たときは復路の「北斗12号」も「はやぶさ30号」も普通車指定席だった。そして、東海道新幹線は普通車自由席に座っていた。復路では体力の限界というものを感じたのである。
一方、今回乗る「宗谷」、「スーパー北斗6号」、「はやぶさ22号」、「のぞみ55号」はすべてグリーン車だ。まぁ、これでもかなり疲れるたびになるだろうが・・・。
17時21分。旭川からやってきた「サロベツ1号」が稚内に入線する。来た車両はキハ261系。ここに来る途中の士別で交換した車両であろう。ラッセルの遅れで一時はどうなることかと思ったが、「サロベツ1号」は時刻通り稚内への到着となったから、札幌に到着するのが遅れるというのは他の外的要因がなければ大丈夫だろう。
35分になると稚内に到着したキハ261系から主婦とも思える人が大きなビニール袋を抱えて降りた。それを見た駅員さんは「来た」と声を上げる。
「お待たせいたしました。ただいまより、札幌行き特別急行「宗谷」の改札を行います。お乗りのお客様、稚内からの切符と「宗谷号」の特急券をご提示ください。」
そのアナウンスが流れると僕らも稚内から京都市内の切符と「宗谷」のグリーン券を見せて、稚内駅に入った。
キハ261系をつぶさに見ていると朝乗ってきたのと少し違う点がある。先頭に書いてあるロゴだ。
「帰りはHET261なのね。朝はTilt261だったし・・・。」
これらの違いは車体傾斜装置の有無だろうか。今は使用すらしていないから、あまりその意味は無いと思うが・・・。HET261のロゴ下にある黄色ラインには「Hokkaido Express Train」と書いてあり、HETはその略である。一方朝のTilt261の黄色ラインには「Active Air Suspension System」と書いてある。キハ261系の車体傾斜装置は空気バネの伸縮によって車体を傾ける機構であるため、その意味が表されているのだ。
「乗ろうか。」
そう言い、僕らは改札口から最も近いドアから車内に乗り込んだ。車内の扉が開くと9席あるグリーン車が姿を現した。
「ああ、やっぱり狭い。」
「半室」グリーン車だからなぁ・・・。後半分は普通車指定席がある。
「でも席は広いよ。」
それはグリーン車の共通事項だ。革張りの席、手すりは木、Reserved Seatの文字の入ったリネンをかぶっている枕、そしてフットレスト。さすがグリーン車と言った感じだ。座ってみるとよく分かる。
「ああ、いいなぁ・・・。」
「いいねぇ・・・。やっぱり・・・。」
「うん、正解・・・。」
「宗谷」出発までの間に9席あるグリーン車は僕らも含めて5席埋まった。決していい数字ではないだろうなぁ・・・。
17時46分。
「フィ、フュー。」
稚内出発。すぐに隣の南稚内に停車。南稚内のわずかな停車時間で出発する。沈みゆく太陽の光を受ける利尻富士の影を見ながら、キハ261系は走る。
「失礼いたします。ただいまより乗車券と特急券の拝見をさせていただきます。」
車掌が入ってきてそう言ったが・・・。車掌は僕の顔を見るなり、
「お客様は・・・。」
さっきの人だ。「宗谷」で巻き込まれた一件以来の出会いだ。この運用でどっかまで戻るんだなぁ・・・。
「どうも。」
「「サロベツ」で帰ったとばかり思っていました。」
「いや、「サロベツ」で帰るつもりは最初から無かったんです。」
「そうなんですね。」
「またよろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
だんだんと闇が覆っていく雪原の中をキハ261系は走る。ただひたすら雪原の中を・・・。




