感染者7
少女
足音が聞こえた悟はどうするかを決めかねながらも、なぜか足音が聞こえた方向へと進んでいた。
(無視したほうがいいはずだ。だけどあの足音って雰囲気的に子供か?子供の感染者だったらどうする?だけど感染者だとあそこまで軽快な足音はしないはずだよな。・・・だよな?)
少し迷いながらも今は静かなものの足音がした方向へ向かった悟の目に飛び込んできたのは、五人の感情なき目をもった感染者達であった。性別も年齢もバラバラの五人は仲間を増やすという統一された意思の元、感情のない目で悟を見つけると一斉に動き出す。
「こりゃあちとまずいってやつで・・・。」
元来た方へと悟は全力で走り出す。後ろから追ってくる感染者達はぎこちない動きで必死に身体を動かし、悟の身体を目当てに手を前に伸ばしながら足を動かすがそこまでの速度は出ていない。
迷いなく逃げの一択を選択した悟は感染者を引き離し雑居ビルの階段を二段飛ばしで下りながら出口を目指すが、上の階から聴こえる声に足を止めていた。
『ダメーッ!』
あと三段で一階に到着しようとしていた悟は手すりを掴み、強引に身体の勢いを止める。
「感染者は喋らねえよな。」
一階にボストンバッグを投げ置き、踵を返して階段を上がっていくと先程聞こえた小さな足音がパタパタと聞こえてくる。明らかに上の階から下りてくる複数の足音を感じた悟はその場で足を止め待ち構えると、すぐに小さな足音の正体が姿を現す。
汚れで艶のない長い髪をピンクのゴムで括り、意思の強そうな瞳に涙を浮かべながら110センチ程の体躯で必死に階段を一段づつ駆け降りてくる少女を見た時、悟の脳裏にその少女の姿を以前見た時の記憶がフラッシュバックしていた。
感染者だった悟が襲いかかり母親に抱かれながら悟の指先に噛み付いたその少女が目の前にいる。
逃げる先へ突然現れた大男に驚きながらもここまで何度も感染者と遭遇していた少女は、その大男が感染者か否かを一瞬で判断していた。
「たすけてっ!」
少女からの要請に悟は一瞬で決断する。
「了解っと。」
肩に少女を抱えた悟は上ってきた階段を一気に駆け下りていく。小柄な少女一人担いだくらいでは全くスピードの落ちない悟は、一階まで到着すると空いている方の肩にボストンバッグを担ぎ建物の外へと飛び出していく。
公園とは逆の方向へと走り出した悟と肩に乗せられた少女二人での、感染者に囲まれた奇妙な共同生活がここから始まっていくのであった。
とりあえず設定と結末だけしか決まってなく話しを進めているため、ここからしばらくどうなるかは作者にも謎なまま話は進みます。
気長にお付き合いいただければ幸いです。