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1.6 ジェームズの真意

 ――ああ、もう。イライラするなぁ!


 その日の午後、サクラは数学の講義プログラムを受講しながら、全く集中できずにいた。

 今朝の一件以降、<トールシステム>内の3−Aクラスのチャットルームは度々、アルフレッドとナベル家、トゥルーバニランという話題について盛り上がっていた。そこでは、クラスメートたちの根も葉もない噂話や憶測が飛び交った。

『俺、聞いたことあるぜ。アグロス=ナベルは杖を振りかざして湖を真っ二つに割ったんだ。それから味方の軍を退却させた後、トゥルーバニランたちを水攻めにしたって』

『バカだな。それ子供向けの童話だろ』

『アグロス=ナベルって不死身の超人だったのよね。毒を盛られても死ななかったって』

『それ、トゥルーバニランの方じゃないの?』

『え。じゃあ、アルフレッドも不死身ってことか』

『すげー!!』

 当のアルフ本人は全く意に介していないようで、真面目に講義に集中していた。どうやら、チャットはあまり見ていないようだ。

 サクラは何度かチャットに書き込みそうになって、寸前で思い止まった。下手に鎮火しようとしても、ロクなことになる気がしなかった。

(私、駄目だ……。もう見るのやめよ)

 サクラは一度、チャットルームを退席することにした。後で、放課後にでも過去ログをチェックしよう。そう思った。


     ◇


「これでよかった?」

「あぁ、上出来だよ。流石だね、シモン」

 ジェームズが頷くと、シモン=リカという3−Aの女子生徒は口元に微かな笑みを浮かべた。彼女はジェームズの役に立てたことに満足を感じていた。

 二人は、校舎の二階の北端にある講義室にいた。そこは放課後になると、特に課外活動などで使用されることもなく、その場には二人の他に誰もいなかった。ジェームズは、端末を操作するシモンの背後に立ち、画面を覗き込むようにしていた。

 彼女は今朝のジェームズとアルフのやりとりの後、3−Aクラスのチャットルームに適当な「火種」となる話題を投下し、クラスメートたちの、アルフに関するチャットをヒートアップさせた。ほんの少し、感情を刺激するような材料を与えるだけで、彼彼女らは面白いように反応した。

 ごくごくさりげない誘導だったので、後で誰かがログを見返したとしても、シモンが煽っていると気づく者はいないだろう。

 ジェームズに頼まれてその役を買って出たシモンだったが、彼の真意については聞いていなかった。そこで、彼女はひとつの疑問を投げかけた。

「ジェームズ。アルフレッドに『魔法』が使えるなんて、本当に思ってるの?」

「まさか」

 ジェームズは噴き出した。

「この科学万能の時代に、そんなもの、あるわけないだろう」

 ジェームズはおかしくてたまらないというように、腹を抱えてクックッと笑った。

「じゃあ、なぜ――?」

 シモンは振り返り、ジェームズを見上げた。眼前に彼がいた。

 ジェームズは眼鏡を掛け直して、答えた。

「面白いじゃないか。アグロス=ナベルの末裔。彼はとてもユニークだよ」

 ジェームズは新しい玩具を見つけた子供のように、悪戯っぽい笑みを浮かべていた。

「ぜひ、仲良くなりたいね。でもその前に、サクラ=ミズチともっと親しくなっておいた方がいいかな」

「なっ――」

 ジェームズの口から出た思わぬ言葉に、シモンは焦った。が、立ち上がろうと椅子に手を掛けた瞬間、シモンは身動きが取れなくなった。

 彼女の唇が、ジェームズのそれで塞がれていた。


 シモンは目を閉じ、されるがままに任せた。

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