表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/17

1.5 ジェームズ=ハズウェル

「――ジェームズ、何か用?」


 アルフは、何ら警戒することもなく、訊いた。

 ジェームズ=ハズウェルというのが彼の名だ。彼は訊かれて、屈託のない笑顔を見せた。

「覚えていてくれたのかい。自己紹介が必要かと思ったよ」

 だが、サクラはなぜか、その笑顔を薄気味悪く感じた。

 そして、その予感はある意味で当たっていた。


 ジェームズは言った。

「アルフレッド。聞くところによると、君はあのアグロス=ナベルの血筋を引いているそうじゃないか」

 その言葉に、ざわざわとしていた周囲の喧騒が、ふっと止んだ。

 なんだって。ナベル家? あの『ローマニラの薔薇期』の?

 ひそひそと、そんな声が聞こえてくる。

 サクラを含め、クラスの半分ほどの生徒が世界史の授業を受けたその翌日だった。そのため、「アグロス=ナベル」という歴史上の人物の名は、より大きな影響力を持っていた。


 いったい、誰が。サクラは思った。

 クラスメートとはいえ、ジェームズとアルフに大した接点はなかった。誰がジェームズに話したというのか。

「――誰から聞いたの?」

 サクラの内心の疑問を、アルフがあまりに自然に訊ねるので、彼女は少々、驚いた。

 そうだった。この自然体こそが、サクラのよく知る幼馴染の少年の強みだった。


「ニケから聞いたんだよ。なあ、ニケ」

 ジェームズは悠々とした態度で、少し前の方の席に座っていた男子を振り返った。

「あ、あぁ……」

 ニケと呼ばれた少年は、ばつが悪そうな顔で答えた。


 そうか、ニケか。サクラは若干の落胆を感じつつ、納得もした。

 彼は、アルフやサクラとは小学校からの付き合いで、確かアルフの祖母カロリーナの葬儀にも参列していた。であれば、知っていても不思議はない。

「ニケ、なんで言うのよ」

 サクラはわざと恨めしそうな声を出して、言った。

「いやぁ、別に……」

 ニケは困ったような顔をして、頭をぼりぼりと掻いた。まったく、気が利かない困ったやつだ。と、サクラは内心で思った。


「――で、それがどうかしたの?」

 アルフの声は明瞭に響いた。周囲はすっかり静まり返り、四人のやりとりに注目していた。

 多くのクラスメートは、アルフの表情からその真意を読み取ることはできなかっただろう。ジェームズも少し困惑しているような気がした。が、サクラはなんとなく、アルフは単純に思った疑問を口にしているだけだろうな、と思った。


「気を悪くしたようだったらすまない」

と、ジェームズは前置きした。

「なに、単純に興味があってね。アグロス=ナベルは不可思議な能力を以って、『トゥルーバニラン』たちを殲滅したという。だとしたら、その子孫である君にも不思議な力があるのかな、と」

 ジェームズの言葉に、静まり返っていた周りのクラスメートたちが再びざわざわと話し始めた。

 アルフは少し考えて、答えようとした。

「僕は――」


 チャイムが鳴った。

 ホームルーム開始の合図だ。

 絶妙なタイミングだった。


「悪い。続きはまた後で聞こうか」

 ジェームズは不敵に笑って、席に戻った。


 折よく、担任教師が3−Aの教室に入ってきた。その後、いつも通りのホームルームが行われた。


 ジェームズがその日、話の続きをしに来ることはなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ