表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/17

1.4 密航者

 海外の教育事業者が開発した先進コンピューター・システムをいち早く取り入れたトキワガオカ高校では、実技を除く半数以上の講義はコンピューターによるインタラクティブ・ビデオ方式に置き換わっていた。一方で、従来型のホームルーム制度は健在だった。

 このトキワガオカ高校のコンピューター・システムは、元の製品名から<トールシステム>と呼ばれていた。


 アルフとサクラは3−Aの教室に入ると、空いていた隣同士の席に座った。自分の席という概念は、この高校にはない。どの席にもシンクライアントの端末が付属しており、指先をタッチパッドに添えるだけで、<トールシステム>内の自分専用のユーザー環境にログインすることができる。

 ホームルームの開始までは、もう少し時間があった。二人はそれぞれ端末にログインすると、メールボックスや校内ニュースのチェックを行った。


「アルフ、これ……」


 サクラが小声で話し掛けてきた。

 システム内に作られた3−Aクラスのチャットルームで、ある時事ニュースが話題になっていた。その記事の見出しはこうだった。


『三年前の旅客機に華国からの密航者』


 <グローブネット>と呼ばれる公共のネットワーク上にアップロードされた記事だった。

 元の記事は<トールシステム>からはアクセスできないサイトのものだったが、校内の誰かが記事データを<トールシステム>にコピーしたらしい。


 華国は、ヒノモト国と海を隔てた東側の大陸に位置する大国で、古くから交流が盛んに行われている、縁の深い国である。


「三年も前のことが、なんで今頃……?」

 アルフがつぶやいたが、サクラにもわかるはずがないことだった。


 華国からヒノモト国への不法入国者が捕らえられるというニュースは、ときどき報じられることがあった。不法入国者たちは、その度に華国へ送還されている。

 しかし、三年も前の事件が今頃になって発覚するというのは、異例中の異例である。しかも、その密航者はまだ発見されておらず、今もヒノモト国内のどこかにいるらしい。


「なんか、まだ他にも見つかってない密航者とかいそうな気がしてくるよね」

 サクラの言葉はもっともだったが、アルフには「そうかもね」としか言えなかった。


 そのニュースが掲載されたサイトは、どちらかといえばアンダーグラウンド寄りのニュースを多く扱うサイトだったので、まだ鵜呑みにはできなかった。ただし、航空会社や便名まで特定されており、それらが実在のものなので、信憑性があるように思われた。

 事実だとしたら、航空会社は数日以内に公式な発表を出すことになるだろう。記者会見もあるかもしれない。


「――少し、いいかい?」


 声は、唐突にした。

 アルフの席の前に、同じ3−Aクラス内の男子が立っていた。

 細身の男子だ。背はアルフよりも少し高いぐらい。


 アルフもサクラも、これまで彼とは、ほとんど会話さえしたことがなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ