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1.2 登校バスにて

「――何か、あったの?」


 マンションの最寄りのバス停で。

 アルフは今朝も、サクラ=ミズチに会った。彼女は高校の同級生であり、幼馴染でもある。アルフが「近しい」と感じる人たちの中の一人だ。

 いつものように「おはよう」と、互いに挨拶を交わした後、彼女はアルフにそう訊ねた。


 昔からそうだった。

 サクラはアルフに何か変化があると、すぐに気づいた。

 ただし、アルフがその意味に気づくのは、もう少し先の話である。


「覚えてないんだ。いつもの『夢』だよ」


 と、アルフは正直に答えた。

 「そう」とサクラは少し沈んだ声で言った。


「イマールさんは元気?」

 自動運転バスの中で、サクラはやや唐突に話題を切り出した。

 アルフの父、イマール=クナイは半年ほど前から、単身赴任でファレンス国に出張していた。ファレンス国はイマールの母の故郷でもある。ここヒノモト国からは、公共の定期航空便を利用しても、辿り着くまでに半日以上は掛かる。

「ああ、昨夜もビデオレターが届いたよ」

 聞かれて、アルフは苦笑した。イマールからのビデオレターには、彼が親戚のホームパーティーに招かれた際の珍事が収められていた。菓子作りが趣味の父は、キッチンを借りて親戚の子どもそっくりのケーキを作り上げていた。親戚一同、食べ辛くて困っていた。

「おじさんらしいね」と、サクラも笑った。

 その後、イマールは責任を持ってケーキを切り分ける役目を引き受けていた。


「父さんがどうかしたの?」

 アルフは問い返した。

 バスは緩いカーブに差し掛かった頃だった。アルフたちが通う高校まで、あと約十分の距離だ。

「あ、大したことじゃないんだけど」

と、サクラは前置きして、話しだした。

「昨日の世界史の講義でちょうど『ローマニラの赤い薔薇期』が出てきたから、なんとなく思い出して」

「ああ、そういうこと」

 『ローマニラの赤い薔薇期』は、ローマニラ国の忌まわしい歴史の一時代を指す通称である。アルフの父方の祖先は、そう称される歴史に少なからぬ因縁を持っていた。

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