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1.15 最終バス

 一九時二〇分。トキワガオカ高校前のバス停から、自動運行バスの最終便が出発しようとしていた。

 サクラは疲れた体に鞭を打って走り、なんとかそのバスに間に合った。

 すると、その車両には意外な人物が乗っていた。

「ジェームズ! なんであんたも」

「サクラ=ミズチか。僕は、図書室で調べ物をしていてね」

 クラスメートのジェームズ=ハズウェルが、ただ一人で、バスの乗車口からすぐ目立つ席に座っていた。バスの中には、他に誰も乗っていなかった。

 運転士のいないバスは、サクラが乗り込むや否や、静かに発進した。


 サクラは無意識の内に、刺すような目線でジェームズを睨んでいた。体を動かしてすっきりしたところだったが、彼の顔を目にして、また腹の内から沸々と沸き上がってくるものがあった。

 彼女の大切な幼馴染であるアルフが今日、おかしな噂を立てられるようになったのは、目の前の男のせいである。丁度いい。このむしゃくしゃした気持ちをぶつけてやろう。サクラはそう思った。

「今朝は、すまなかったね」

 ジェームズは、サクラが話しだすよりも早く、謝罪の意を述べた。

「え――?」

 サクラが怒りの言葉をぶつけようとしていた矢先に、出鼻をくじかれてしまった形だ。ジェームズは続けた。

「いや、君やアルフレッドに悪かったよ。僕が軽率に話をしたせいで、どうもクラスで変な噂が立ってしまったようだ」

「ほんとよ」

 その通りだ。とサクラは思った。

「だいたい、あなた――」

 サクラの言葉を、ジェームズは遮った。

「明日、僕からみんなに頼もうと思うんだ。『アルフレッドは僕たちと何も変わらない人間だ。そっとしといてくれ』って。どうかな?」

「そ、それは……」

 悪くない考えに思えた。話題を発した本人がそう言うのが、最もみんなの心に響きそうな気さえした。

 だが、サクラはどことなく釈然としないものも感じた。いったい、この男子は何がしたかったというのか。まるで、自作自演のような。

「……悪くないかな、と思うけど」

「じゃあ、決まりだね」

 ジェームズは言い切って、正面に向き直った。この話はこれで終わり、とでも言うかのようだった。

「これ以上、変なことになったら承知しないから」

 サクラがそう念を押すと、彼はゆっくりと彼女に向き直った。

「君とアルフレッドは、恋人同士なのか?」

「な、な、何を言うのよ、いきなり」

 予想外の言葉に、サクラは慌てて、上擦った声を出した。

「幼なじみよ、ただの! よく言われるけどね」

「異性として意識したことはない?」

「!」

 ジェームズは核心を衝いてきた。

 サクラは髪をかき上げる仕草をしつつ、平然とした声で答えた。

「……別に。あったとしても、あんたに言うことじゃないし」

「なるほどね」

 ジェームズは、にやりと口角をゆがめた。

 サクラは、見透かされているような気がして、腹が立った。

(やっぱりこいつ、ムカつく……)

 二人を乗せたバスは、夜の街を静かに走って行った。


「じゃあね。さよなら」

 家から最寄りのバス停に着いて、サクラはバスを降りた。ジェームズは手を振って、彼女を見送った。

 マンションまでの家路を、満月が明るく照らしていた。サクラは、ざわざわとした胸騒ぎのようなものを感じていた。

 先ほどのジェームズの質問が、彼女の頭のなかで繰り返されていた。

「……あるわよ」

 サクラは、誰にも聞こえない声で、そっと呟いた。

 読んでいただき、ありがとうございます。

 二ヶ月半ぶりのジェームズ登場でした^^;

 次話はまた、場面が変わります。


 遅筆ですいませんが、気長に読んで楽しんでいただければ幸いです。

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