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1.14 「おめでとう」

 ――「おめでとう」ってどういう意味?

 誰かがそれを訊ねるより早く、テレビジョン・モニタの中のイマールが話しだした。


『ゴールはまだだけど、あなたは目的通り、アグロス=ナベルの末裔にたどり着いた。きっとゴールも近いよ』

 イマールの言葉に、ミナコも頷いていた。

「……」

 ミナコはアルフが浮かない顔をしていることに気づいた。

「アルフ、どうしたの?」

「いや……」

 ミナコが訊ねると、アルフはユーリーの顔をちらっと見て、口ごもった。彼にしては珍しい、曖昧な態度だった。

 アルフはユーリーに訊ねた。

「『滅びの魔法』が見つかったら、君は死んじゃうんでしょう」

「そう願ってる」

 ユーリーはにべもなく答えた。

「そう、だよね……」

 アルフは、その後に続く言葉を飲み込んだ。

 しかし、ミナコには、アルフが飲み込んだ言葉に察しがついた。彼女は自然に笑顔になった。

 そんなアルフとミナコの態度をカメラ越しに見て、イマールもなんとなくその場の雰囲気を察した。


『楽しんだらいい。アルフ、ユーリーに色々案内してあげなさい。きっと、セイキョウ都で見たことがない場所も多いでしょう』

 イマールがそう言うと、ユーリーは不機嫌そうな顔つきになった。

「ごめんなさい。私は……」

『すまん、息子は出不精でね。こういう機会でもないとなかなか出歩かないんだ。「滅びの魔法」についてはこちらでしっかりと調べてみるから、一つ、頼まれてくれないかな?』

 アルフは、きょとんとした顔つきで二人のやりとりを見ていた。父さんは何を言ってるんだろう。

「そこまで言うなら……」

 ユーリーは渋々といった様子で頷いた。イマールは『ありがとう』と礼を言った。

『アルフ』

 イマールがもう一度、アルフに声を掛けた。

『これは人生の先輩としてのアドバイスだが、もし好きな女の子が出来たら、その子の好みなんかをよく見て、把握するようにした方がいいぞ』

 アルフは素直に頷いた。

「わかった。覚えておくよ」

 我が子ながら面白くない反応だな、とファレンス国からイマールは思った。

 一方のミナコは、こみ上げてくる笑いをこらえるのに必死だった。


『一つだけ、いいかな?』

 話の最後に、イマールがユーリーに質問した。

『あなたのフルネームを聞かせてくれるかい?』

 ユーリーは大きく息を吸い込んで、答えた。


「ユーレディカ=ラーズ・クルサナ」


     ◇


 時は、三時間ほど前に遡る。


 もう下校時刻を過ぎていたが、サクラ=ミズチは体育館に残り、バスケットボールのシュート練習を続けていた。

 夏季公式戦、トキワガオカ高校女子バスケットボール部は、都大会予選の決勝で惜敗した。最後の試合の記憶は、サクラにとって新しい。人一倍練習していたサクラは、その晩、悔しさで眠れなかった。

 それが引退試合となったサクラは、もう今後、部活動で試合に出ることはない。だが、昼間の件でむしゃくしゃしていたこともあって、サクラは今日、思いっきり体を動かしたい気分だった。


 がんっと、放った何十本目かのスリーポイントシュートがリングに弾かれたとき、見回りに来た体育教師が大声を発した。

「おい、早く帰れ!」

 気づくと、広い体育館にはサクラ一人しか残っていなかった。無心になってシュートを放っている内に、みんな下校してしまったらしい。

 サクラは仕方なく、帰り支度を始めた。


(……やばっ。もうこんな時間)

 着替えを終えて体育館の外に出ると、サクラが思っていたよりも遅い時刻になっていた。急がなければ、高校前発のバスが終わってしまう。

 サクラはバス停に向かって走った。

ようやくアルフとユーリーの「出会い」の部分は一段落、というところですね。一章はもう、残りそんなに長くない、はず。。

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