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1.12 悪夢のような

「仮死状態ってこと……?」

 アルフは呟いた。


 正史一七四二年、『ローマニラの赤い薔薇期』という内戦の終戦間際、ユーリーは共に暮らした家族とクルサナ村の人々の手により、仮死状態にさせられたらしい。

「卑劣なローマニラ軍の奴らも、さすがに墓を暴くような真似まではしなかったみたいね」

 ユーリーの語り口からは、ローマニラ国の人々への強い憎しみが感じられた。それは無理のない話だろう、とアルフは思った。彼女の話と史実を合わせれば、彼女の一族はローマニラ軍の手に掛かって、一人残らず殺されたということになるのだから。


 そして、話は十年前――正史二〇一五年まで進んだ。

「目が覚めた私は、バラダク町の外れにある共同墓地に埋葬されていたの」

 バラダク町はローマニラ国の西端付近、ラゼル湖に接する町だ。クルサナ村を含むトゥルーバニラ地方からは遠く離れている。仮死状態となっていた二七〇年の間に、どういうわけか一〇〇〇キロ近くの距離を移動したらしい。

「覚えてはいないけど、その前にも一度『生き返った』のかもしれない……」

 ユーリーは、歯切れの悪い口調でそう言った。

 バラダク町の外れにある墓地で、自らの棺から抜け出した直後、ユーリーはたまたま近くを通りかかった猟師に、銃で頭部を撃ち抜かれたという。しばらく意識を失ったそうだが、彼女が自らの不死性を自覚したのはそのときだった。

 それ以降、記憶の一部が欠落しているような気がする、と少女は語った。

「撃たれたときに、脳が傷ついたせい、なのかな……?」

と、アルフは考えられる仮説を口にした。

「なんだかファンタジーな話すぎて、よくわからないけど……。あり得るとしたら、そういうことかしらね」

 ミナコは釈然としない様子ながらも、同意を示した。

 その後、ユーリーはあるローマニラ人男性に保護されて、半年間ほど一緒に暮らしたそうだ。その間に、『ローマニラの赤い薔薇期』の結末や、トゥルーバニランが誰一人生き残っていないこと、アグロス=ナベルがローマニラ国民の歴史において英雄視されていることなどを知った。

 ユーリーは、トゥルーバニランという民族の滅亡を初めて知ったときの心情を吐露した。それは悲痛な叫びだった。

「まだ私は、眠ったままなんじゃないかって思いたかった! 目が覚めたら、家族も知り合いも誰もいない。一人きりで。みんな、歴史の中では残虐な異民族扱いされて!」

 ミナコやアルフには想像が及ばなかったが、それはきっと悪夢の中にいるような心境だったろう。少女の訴えに、アルフは胸が締めつけられるような思いになった。

「憎んでる? アグロス=ナベルのことを……」

 いたたまれない気持ちでアルフが訊ねると、ユーリーはやや頷きつつ、かぶりを振った。

「あの人だけに憎しみをぶつけるつもりはないわ。もうとっくに死んでるし。ただ、ちゃんと私も殺してほしかった。この世界に、私の居場所なんて何処にもない」

「…………」

 ミナコにもアルフにも、少女に掛けるべき言葉を見つけることはできなかった。

 ――だから、アグロス=ナベルの『滅びの魔法』によって、自らを完全に滅ぼしてほしい。

 それが、少女の最後の願いだった。

 相変わらずなかなか話が進まない本作です^^;

 今話を書くにあたって、ユーリーが復活してからの十年間の内容を詰める必要があって、書いた字数以上に苦労しました。

 なんだかサイドストーリーも書けそう。

 発表する機会があるかは、わかりませんが。。

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