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1.11 ユーリーの出生

 アルフは一人、ダイニングテーブルの席に座り、二人を待っていた。

 まず、シャワーを浴び終えたユーリーが部屋に入ってきた。改めて少女の姿を目にして、アルフの心臓は早鐘を打ち始めた。

 彼女の肌が白いのはわかっていたが、実際には陶器のように肌理の整った肌だった。室内灯に照らされ、その顔立ちも改めてはっきりとわかった。大きくつぶらな両の目に、すっと通った上品な鼻筋、その下にしっとりと濡れ光る小さな薄唇があった。まるで、愛らしいファレンス国製の人形のようだった。

 アルフは目の前の少女が、先刻までの血と埃を纏った人間とは別人のように感じた。

 少年は、なぜだか自身の心臓の鼓動が速いのを感じていたが、自分ではその理由がわからず、平静に映るように装った。

「それ、前と後ろ反対だよ」

 ユーリーはアルフが二、三年前に着ていたTシャツを着ていたが、フロントのプリントが背面に回っていた。

 アルフが指摘すると、ユーリーは無造作にシャツを脱いで、着直した。

(うわっ!)

 アルフは慌てて視線を逸らした。ユーリーは下着を着けておらず、服を着直す間に裸の上半身が露わになった。そこには、女性らしい胸の膨らみもあった。

 ユーリーは何事もなかったかのように、テーブル上の料理の配置を眺めて、アルフの隣の椅子に腰を下ろした。だが、アルフはしばらくの間、彼女を直視することができなかった。

「何かあったの?」

 アルフの不自然な挙動が気になったユーリーは、上目遣いに訊ねた。その距離は五十センチもない。

 顔が熱いのを感じながら、アルフは精一杯の平静さで「なんでもない」と答えた。


 そこにミナコが戻って来た。

「アルフ、どうしたの? 顔が赤いけど。暑いかしら?」

「なんでもないって」と、ユーリーがアルフに代わって答えた。

 ミナコは声を上げて笑った。

「まるで、可愛い妹ができたみたいね」

 私の方が遥かに歳上だけど、と少女は言った。


     ◇


「トゥルーバニランって本当?」

 ミナコがユーリーに訊ねると、少女は頷いた。

 夕食後、三人はリビングのローテーブルを囲むL字形のソファに腰掛けて、話していた。アルフとユーリーが並んで座り、ミナコが二人と斜めに向かい合った。

 主にアルフとミナコが、ユーリーから話を聞く形になった。少女は自身の出生や、ローマニラ国からヒノモト国にたどり着くまでの経緯について話した。それは、常識では考えられない、驚くべき内容だった。

「私が生まれたのは、あの悪夢のような戦争が始まったのと同じ年よ」

 『ローマニラの赤い薔薇期』のことだ。内戦が勃発したのは正史一七二九年なので、ユーリーの年齢は二九五歳ということになる。

「死んだのは、十三歳のとき。セビュー村とビストラ村は、そのときにはもう滅びてた。私が生まれたクルサナ村にも、ローマニラ国の軍隊が押し寄せようとしてた」

 トゥルーバニランたちは内戦が始まる前、その三つの村に分かれて暮らしていたそうだ。

「死んだ?」

 ミナコとアルフの声が重なった。

 ユーリーはこくりと頷いた。

「私の家族と村の人たちは、私を奴らに殺されたくなかった。だから、薬を使って死んだのと同じ状態にしたの。そして、棺に入れて埋葬したのよ」

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