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1.10 その名はユーレディカ

 トゥルーバニラン。少女は確かにそう言った。

 それは、正史一七四二年に終結した『ローマニラの赤い薔薇期』と呼ばれる内戦によって、絶滅させられたはずの民族の名だ。


 ユーレディカ、と少女は名乗った。

「ユーリーでいいわ」と彼女は言った。アルフも彼女に名乗った。「アルフでいい」と。

 アルフは初め、ユーリーの先祖がどうにかしてあの戦争を生き残り、長い年月を掛けてヒノモト国に渡って来たのかと思った。だが、話を聞いているとどうも違うらしい。まるで、彼女自身が三百年近くの歳月を生きてきたかのような口ぶりだ。

 アルフは詳しく話を聞きたかったし、少女も説明したい様子だったが、もう日が完全に沈みつつあった。廃ビルの中にも夜の闇が侵入してきていた。

 ユーリーは最近、ここで寝泊まりしていたらしい。

 アルフは、自分の家に行こう、と提案した。

「ええ、そうしましょう」

 ユーリーもそれに賛成した。

 ただ、一つ問題があった。一連のやりとりの間中、絶えず腐臭を放っていた死骸の存在だ。ユーリーはそれを指差し、一言訊ねた。

「……アレ、食べてからでもいい?」

 アルフはただでさえ胃がむかつくのを我慢していたが、その言葉を聞いて本当に吐きそうになった。

 元々、轢死していた猫を彼女が自分の夕食にと持ち帰ったそうだ。

「口に合わないかもしれないけど……できれば、僕の家で一緒に夕食を食べない?」

「ああ、それはありがたいわ」

 人間離れした少女だったが、普通の食事でも問題ないようだ。ユーリーの同意を得て、アルフはほっとした。

 でも、せめて土に還しましょう。とユーリーは言って、再びその亡骸を抱き抱えた。

 帰宅したら、夕食の前にシャワーを浴びてもらった方がよさそうだ、とアルフは思った。


     ◇


「お帰りなさい。遅かったのね。……あら、お友達?」

 結局、帰宅したのは十九時半頃だった。

 ミナコの問いに、アルフは「さっき知り合ったんだ。名前はユーリー」とだけ答えた。

「ユーリーにシャワーを浴びてもらいたいんだけど、着替えを用意してもらってもいい?」

 ミナコはわずかな間の後に「ええ、いいわよ」と頷き、ユーリーを案内した。その間にアルフは一度、自室に戻った。

 マンションのバス・システムは比較的新しいタイプのものだ。ミナコはシャワーの使い方をユーリーに簡単に説明し、「何かあったら呼んで」と言い置いた。ユーリーがシャワーを浴びている間に、ミナコは彼女のための着替えを用意した。


 約二十分後、先にリビングダイニングに入ったアルフは、一人テーブルの席に座り、二人を待つ形になった。

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