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季節の歌
『祭りのあと』
祭りのあとは寂しい
花火が散った闇夜
子供らの帰ったしじま
畳まれる浴衣
少し欠けた下駄
大人のくゆらせた煙草の煙もわずか居残り
未練あるようで
赤い金魚は儚い命を
いつまで保ってくれるだろうか
ほら、猫が金色の目を光らせて
だめだよ、お前
これはあの人がくれた大切な魚なのだから
爪で捕らえて裂いてはいけない
私の心を裂いてはいけない
『あきおもい』
飛行機雲が果てない秋色蒼穹に色置かれ
白く柔い一筆線すうと
天高く天高く天高く 人の心を攫うのかよ
天上に心召して地を忘れさせ
また気紛れに穢土に帰す美空の酷
手を伸ばしても一筆線は掴めず 瞬けば溶け消えゆき
物悲しさが空気中に敷き詰められて身動きが取れない
息を吸えば金木犀が 甘やかにしめやかに肺を慰め
虚ろな目で笑わせてくれる
虫が命を歌っている まだ
天に心攫われもしない彼らを憐れめよ
物悲しいという心を知らぬ彼らを妬めよ