前へ目次 次へ 2/44 竜神 いにしへは 炎となりて 焦がれ落ち けふ手の上に 舞い遊ぶ蝶 白雪の あとに散りゆく 君一人 ただ言の葉は 溶けず残りて 悲しみに 君が泣く夜の 数あれど 陽の光差す 朝も訪れ さやらさや 夜風の揺する 笹の群れ 目には清かに 薫らるる風 竜神 冷涼が私の手に落ちて来た 私の熱でそれは溶けて雫が滞留した 甘露が滞留した 私は甘露を呑み込みはせず 手の平を下に向けて地に降らせた 厳寒にも生きる蟻たちがそこにはいた 私はその時無慈悲な竜神となった 蒼穹に捧げる物は何も持たない