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浪返歌
優しい君
あなたの過去を存じません
あなたの傷を存じません
いたいけでおられる理由もわからない
けれど
砕け散る波濤は美しかった
あなたの見せる色彩に魅せられました
わたしの傷にうめいたあなたは
まだ血を流しておられるのでしょうか
あなたの傷に滲む血を
わずかながら見た気がしました
悲しかった
優しい君
艶めく蛤の貝に入った塗り薬を届けたい
わたしに穏やかな朝の訪れを祈ってくれたように
あなたにも穏やかな朝が訪れてくれればと
玉虫色に虹色に薔薇色に
明るく輝く色彩を祈ります
やわらかな
若草の色でもいい
春の香りする
いつか草原で背中合わせに座る時があれば
そっと耳打ちしてください
誰も知らぬ物語
優しい君
珠玉の君に捧げる返歌。




