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氷の花
「氷の花」
あらしのような人生に
ふった光をおぼえている
きらめきちった夏みたいにぱらぱら
そんなまぶしさがかつてあった
きらめきちって
記憶のなかだけにしまいこまれている
氷の花みたいに
きらきらしている
触れることはできないけれど
確かにあったと
伝説のように知らしめる
「ある教師いはく」
「幸せな時間は短い。そうじゃない時間のほうが、人生ではずっと長い」
ふうん?
これは珍しく、綺麗ごとを言わぬ教師だと思ったものだ
厳しい真理を告げている
大人の言うことのダミーかそうでないかくらい
子供にだってわかるのだ
彼は好ましく愚かな大人であった
あのようなままで今も生きているだろうか
戦いにくたびれて打ちひしがれ倒れていはしまいか
それはそれで止むを得まいと思う
好ましい大人が生き長らえるとは限らない
正しい人間はたくさん死ぬ
正しいほうが死にやすい
かの教師は今どうしているだろうと考えると
前向きな想像は働かないのだが
だからと言って感傷もない
その理由は自分でもわからない
自然淘汰であれば悲しまないなどということはないのだが
特に思うところもないのは
遠すぎる記憶の住人だからだろうか




