導入
正史天文三年 都からそう遠くない、濃尾平野を抱える豊かな尾張の地に、戦国の乱世を終焉に導く三英傑の一人、織田吉法師、後に日本全国にその名を知れ渡らせる織田信長が生まれた。
そして、どのような運命の巡り会わせか、はたまた神の悪戯か。
時を同じくして東の都、若しくは武士の都ともいうべき鎌倉からそう遠くない、関東平野を抱える豊かな常陸の地に、古来より続く名門、常陸の三英傑の一人、小田小太郎。後の世に、関東全土へその悪名を轟かせる小田氏治が生まれた。
織田信長の素姓から半生はもはや言わずもがな。されど、この小田氏治なるものを知るものは多くはないだろう。
後に讃岐守を称し、法名を天庵と号す。
関東にこの名を知らぬ者無し。と諸将に言わしめる、氏治なる人物は何者であろうか。
後世の人々はその人となりを評してこう呼んだ。
戦国のフェニックス――
常陸の不死鳥――
戦国のアイドル――
そう、この者こそが、三百七十年の家名を継ぐ名門ながら、かつての権威権力が否定され、かつての長者が没落落伍していく乱世の荒波に、強固に抵抗を続けた関東の反骨の魂を備えた鎌倉武者、小田氏治である。