表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

序話:『出会い』

しがない話を書き始めました。

しがない駄作者ですが、よろしくお願いします。


 冷たさが熱さに転換する。

 白雪が全身を覆って、熱いのに体温を奪っていった。

 このままでは死ぬ。それだけが現実として突きつけられていた。しかし、抗おうにももはやその力さえ失われていた。


 少年に積もる白雪が、じわりと赤く染まった。

 全身を苛む斬傷から血が滂沱のごとく流れ出す。

 ここで終わるのかと思えば、それもそれでいいような気がした。

 もう自分には、何も残っていないのだから。


 少年は意識を閉じようと、濁った氷のような目を瞑る。

 聞こえるはずのない雪が降りしきる音と、都会の地面に積もった雪を踏みしめる音だけが、耳に入ってくる。


 誰も自分を助けようとはしない。悲しいとは思わない。むしろ、情けをかけられるより随分とマシに思えた。


「おい」


 少年が潔くその命を散らそうとしたとき、無粋な声が脇から入った。

 閉じた目蓋を開き、ゆるゆると顔を上げる。


「反応が遅い」


 何が気に食わなかったのか、声の主は少年の頭を踏みつけ雪に埋もれさせた。

 普段ならば怒りに任せて殴りかかっていただろうが、今はその気力さえ沸かない。

 今度は声の主――おそらく少女――のお気に召すように、さっと顔を上げた。

 そこにいたのは、天使と見紛うばかりの美しい少女だった。年の頃は十二ほどか。

 清流のような金髪が雪とともに舞い、気位の高そうな緑瞳が少年をきっと睨みつける。


「私が声をかけた、迅速に反応するのが下賎な庶民であるお前の役目だ」


 随分と理不尽な注文だ。多分、いいところのお嬢様なのだろう。自分とは真逆の存在だ。

 そんないいところのお嬢様が、死に掛け冒険者の自分に、何の用があるというのか。


「お前、死ぬのか」


 わざわざ確認しなくても、見てくれれば分かるだろう。

 言いたかったが、喉が凍りつき言の葉は堰き止められた。仕方が無く首肯をもって答えとする。


「では、これからお前は私の召使いだ。おい! この男の子を馬車に乗せなさい!」


 少女の声に慌てて駆寄ってきた老齢な紳士が一礼した後、


「しかし、本日は姉上様方の誕生日を祝う」


「いいのよ別に、どうせ私がいなくても変わらないでしょう。さっさと馬車に運べ」


「承知しました」


 何が何だか分からない内に、全身を覆っていた雪は払い除けられ、冷たい地面から抱え上げられた。

 馬車の中に押し込められると、張り詰めていた意識が音も立てずに切れる。

 耳元で誰かが何かを言っているような気がしたが、少年の意識は遥か遠くへと旅立っていた。





     ◇◆◇◆◇





 意識が戻ると、全身を包み込むのは冷たい雪ではなく、暖かな羽毛布団だった。

 意識が徐々に覚醒していくとともに、身体の各所に焼き鏝を当てられたかのような痛みが襲ってきた。


 痛みに悶える少年に追い討ちをかけるかのように、顔面に塗れた布がぶつけられた。


「目が覚めたかしら?」


 当の本人はというと、腕を組んで偉そうに少年を見下ろしていた。


「今日からお前は私のもの。分かる?」


 首を横に振ると更にもう一枚塗れた布を顔面にぶつけられた。


「分かる?」


 どうやら、抵抗は出来ないらしい。冗談も通じそうにない。冗談を言えば今度は平手、いや拳骨が飛んでくる可能性すらある。

 首を縦に振ると、少女は前髪を横に流しながら満足そうに鼻を鳴らす。


「私の名前はロロ、お前は?」


「ロー、ド」


 どうやら喉がしわがれてしまっているらしい。三十は歳を取ったかのような掠れた声が自分の口から発せられた。

 平手でも飛んでくるかと思ったら、水を汲んだコップを差し出してくる。

 礼を言って、それを受け取ろうとしたが、あまりの激痛に腕を上げるのも億劫になった。


「仕方が無いわね」


 ロロと名乗った少女は水を口に含むと、ロードの唇に自身の唇を当てた。

 ――は?

 強引に水を喉の奥に流し込まれ、こくこくと喉を鳴らして飲み干すしかない。

 それはキスというにはあまりにも作業的で、甘美なものなどなかった。


 五秒ほどのそれは、瞬く間に終わり、ロロはロードの唇から顔を離した。


「君、は……」


「何を動揺しているの?」


 恥じらいの欠片もないロロの態度に、ロードの心も徐々に静まる。

 小耳に挟んだことだが、貴族社会で庶民はモノとして見なされ、従者などは情事の最中でも傍らに控えさせているとか何とか。後半はただの噂だが、前半はあながち嘘ではないらしい。


 呆れたように息を漏らすと、ロロは不満げに鼻を鳴らす。


「何か不満かしら?」


「いえ……」


 ロードは首を横に振る。

 そう、とロロは言うと、奇妙な沈黙が二人の間に落ちた。

 しかし、それも長くは続かない。

 十二歳ほどの少女はなるべく大人らしく振舞おうと無い胸を張り、ふんぞり返りながら沈黙を破った。


「これからお前は私のものだ。私のどんな無茶な要求も呑み、自らのことは全て私の二の次に、食事中も就寝中も湯浴みをしている時だって、お前は私のもの。いいわね?」


 一瞬だけ拒絶する感情が出た。しかし、それはすぐに霧散する。

 どうせ諦めた命、また別の生き方をするのもいいだろう。

 ――しかし、


「一つ、質問しても?」


「許可するわ」


「……紅い髪の少女を、見ませんでしたか?」


「見ていないわ。それだけかしら?」


「……はい」


 脳裏にちらつく紅い影が、この身に刻まれた痛みとともに去来する。

 憎悪なのか、憤怒なのか、悲哀なのか、それは分からない。

 もしかすると、一生あれとは合間見えることなどないのかもしれない。


 ――それも、いいだろう。


「俺……いえ、僕は、ロロ様にこの身を捧げる事を、ここに――」


 この身はすでに、目の前の小さな少女のもの。

 憎悪も、憤怒も、悲哀も、全て押し隠そう。

 全てを押し隠すための笑顔の仮面を被ろう。


「――誓います」






日本語がちょいちょいおかしいんですけど、自分ではいい表現が見つかりません。

ご感想ご批判など、多数のご意見をお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ