第3話
王の執務室で被害状況、事後報告を聞いた限り、目立った被害はなかった。
それは勇者襲撃を事前に知っていたので、勇者が通るだろうルートにいた人を引かせていたからである。
だから勇者は城で騎士と戦わずになんなく玉座に到達出来たのだ。
仲間も捕まり、王を討つ事が出来なかった勇者は観念し、抵抗の意思がないと解ると少女も側に付いている事からと拘束を解かれ、その事実を聞いた。
「情報が…筒抜けだったのか。どうりで騎士と戦わず玉座までなんなく来れた訳だ」
「無駄な血を流す訳にはいかぬのでな。それに、そうしなくとも騎士は玉座の近くにはいれなかった訳だが」
「…何故だ?」
「我には魔力が人の10倍はあるのでな。故に我自身が抑えない限り放出され、我の周囲が魔力で充満される。我より魔力がない者は近寄れん」
王が言うことが本当ならばこの世界に王より魔力がある人はいないのだろう。
「いや待て、可笑しいぞ。その状態だったら俺もその子も側に行けないんじゃないか」
「いいや、例外がある。それは異界から呼ばれし者達」
「…彼女も俺と同じ異界の人間ということか」
「そう。そして、そなたらは魔力そのものがない故、魔力など意味をなさん。故に我の命を狙う者は異界召喚をし、勇者として我を倒させようとするのだ」
「…成る程。つまり、俺は元からその為に呼ばれたのか。邪魔な国の王を始末するための道具として」
勇者は牢にいる間聞かされた真実を思い出していた。
彼が召喚した東の国は己が行いにより国は腐敗しており、彼が見てきた惨状は西の大国のせいではなく自らの国がしたことだった。
故に東の国は西の大国が持つ資源を欲し、何度も小競り合いを仕掛けていたが、敵わないと理解したので最後の切り札を出してきたのだ。
一国で異界の者を呼べるのは一回きり。
東の国は運よく扱いやすい勇者を手に入れ、嘘を吹き込み異界の者には無防備になる西の大国の王を狙おうとしたのだ。
まあ、それも全て王には筒抜けだった訳だが…。
「…さて、ここまで腐敗し民を省みない東の王には仕置きが必要だな」
「……」
「勇者よ。民を想う気持ちが本物であるなら、我に力を貸さぬか」
「…俺はあんたに剣を向けた男だぞ。信用していいのか」
「協力せんでも我は構わぬが、悔しくはないのか?お前の正義感を利用した者を」
「…わかった。協力しよう」
「よし。では皆にその旨を伝えようぞ。…して、そなたはいつまでそこで寝ておる。起きぬか」
いつの間に寝ていたのか、ソファに身を預けながらあどけない寝顔をさらしスヤスヤと眠る少女。
「ふぇ?…あ、話やっと終わったんだ。待ちくたびれたよ」
「…全くそなたという娘は…」
(本当に、主従関係なのか?この二人は…)
その後、腐敗しきった東の国は西の大国に滅ぼされ、西の大国に管理され新たな王が立つ。
それにより東の国はみるみる人の住みやすい地となっていった。
そして西の大国は歴史に残る程の繁栄を迎えるのだった。
その繁栄を築く王の側には異界の者であり優秀な騎士、影が常に仕えていたという。