第2話
少女の登場により険悪な空気から一変し、和やかな空気がこの場を包む。
「痛い…。ちょっと、いきなり何するの」
「呼び出しに答えんそなたが悪い」
「急は嫌だっていつも言ってるのに。今日は友達と一緒で急いで離れて…」
「な…なっ!?」
「ん?」
地面に倒れた体を起こし王に向けて文句を言っていた少女は、別方向から聞こえてくる声に気がついた。
この空間で人がいるなどと考えていなかった少女は、驚きながら顔を赤くしながらこちらを指差す勇者を見る。
「…誰?」
「そ、それはこちらの台詞だ!そそ、それよりも、君は、なんて格好をしているんだっ!!」
「格好?……ああ」
少女は自身の格好を見て、勇者がどうしてあのように動揺しているのかを理解した。
ただの女子高生の制服で若干スカートが短くされているだけの格好であるが、ここではそうではいかないことを思い出した。
ここでは女は素肌、特に足を過度に晒すのを禁止されている。
時代だか宗教関係だったか忘れてしまっていた少女だったが、とりあえず若い女性の素足を見てしまい初にも顔を赤くしている慌てている勇者を見やる。
「ねえ、彼は私を知らないんだね。…この国の人間じゃないの?」
「ああ、そうだ」
「…ふーん。もしかして、今全解放してたり?」
「ああ。相変わらず察しがいいな、そなたは」
「おい!なんの話をしているんだ!!」
勇者は今の現状を思い出し、極力少女、特に過度に露出している足を見ないように王を睨み付け、そこで思い至る。
(そういえば、あの王は“茶番を終わらせる”といって何かの術によってあの少女を影から引き摺り出してきた。…もしや、あの少女は…)
勇者は王宮に入り込む前に仲間に言われたを思い出していた。
『ここだけの話だが、王には腕利きの影が存在するらしい。いつも王に付き従え、どんな災厄からも守る最強の影。王を倒すには、まずその影に注意することだ』
(この少女が…影?そうは見えないが…)
影とは常に主に付き従い守り、どんな命令でも主の命令となれば躊躇なく行動する心を持たない駒だ。
格好は目に余るものがあるが、どう見てもどこにでもいるような少女だ。
そんな少女が王の最強の駒であり、屈強な暗殺者達を退けてきたという者にはどうしても見えなかった。
「こんな状況で考え事なんて余裕だね」
「え…、…っ!!?」
深く考えていたことにより、王と共に視界に捕らえていた筈の少女がいない事を理解するより前に、背後からの強い衝撃により床に倒れ込む。
いつの間に勇者の背後に移動したのか、少女は倒れた勇者の背中に乗り上げ身動きを封じ、首筋に小型ナイフに似た刃物を突き付けていた。
「動かないでね。動いたらサクッとこの喉に突き刺しちゃうから」
「……くっ」
「よくやった。…さて、これでこの茶番も終わりだな」
王が剣を鞘に戻し玉座へと続く扉に目を向けてすぐに、待ってましたとばかりに赤を基調の鎧を纏った騎士が入ってきて勇者を取り囲んだ。
「陛下、ご無事で」
「うむ。して、そちらはどうだった?騎士団長」
「陛下の読み通りにございました。城下町の城に一番近い宿におり、捕縛、押収いたしました」
騎士団長が丸い玉を王に渡し、本物であることを確認してから騎士により取り抑えられた勇者を見やる。
「あの者は、どう致しますか?」
「…暫し牢に入れておけ。被害状況を確認後、我の元に連れて参れ。行くぞ」
「えー、まだ帰っちゃっ駄目なの?」
「…我はそなたの主だぞ」
「もう危機は去ったんだし、私要らないでしょ。それよりも友達になにも言わずに来たから心配してるから、そっちの方が大事」
「…はぁ、命令だ。我と来い」
「むー」
勇者は取り抑えられている状態で、まったく仕方がないなと上から目線で主についていく少女の様子を見ながら思った。
(なんだ…あの主従関係…)
周りがとやかく言わず寧ろ暖かい目をしながら見ている事から、これが日常的に行われている会話だと理解し、自分の目的が果たせなかった事などを後悔するより前に脱力する勇者だった。