背番号7のエピソード
グランドがある河川敷の土手を隔てて駅へ向かう商店街の中ほどに居酒屋がある。そこは僕たちの草野球チームのたまり場だ。この日も試合後の反省会という名の宴会で盛り上がっている。そんな中、試合での場面を思い浮かべて愚痴を吐く。
「あの最後の打席は悔いが残るなあ」
「そうだよ! あそこで一本出ていれば逆転サヨナラだったのにな」
「5年ぶりの勝利が目の前だったんだぞ」
ふと口を突いて出た僕の言葉に周りからの総攻撃が始まった。祖手にしても5年ぶりの勝利か…。そう言えば、僕が入ってから勝った記憶がないなあ。
月に一度行われている同じ地元のライバルチームとの交流戦。相手チームは甲子園に出場したこともある元高校球児が二人居る強豪チームだ。それに比べてこちらは僕以外40歳以上のおじさんチーム。そんなチームが5年ぶりに勝てたかもしれない試合だった。
その5年前はおじさんたちもまだ若かったし、相手チームに元高校球児も居なかった。実力も伯仲していて、まさにライバルというのにふさわしい関係だったのだという。まあ、僕はそのころまだチームに入っていなかったから知らないのだけれど。
そもそもそんな僕がチームに入ったきっかけは、たまたま監督とこの店で知り合ったからだ。その時もこんな風に試合後の宴会が行われていた。そんな店内で僕がトイレの順番待ちをしていたのだけれど、先に入っていた人がなかなか出て来ない。我慢の限界を超えようかというときにようやく出てきたのが監督だった。
「悪いな。まだちびってないか?」
「はい! あ…」
まあ、そんな出会いではあったのだけれど、そのあとは席に合流させられて勘定を面倒見る代わりにチームに入れと、半ば強引に入部させられた。
点差は1点。スコアは9-10。最終回の1アウト満塁。一打逆転サヨナラの大チャンス。打席に向かう僕の背中をポンと押して監督は送り出してくれた。
「ヒデ、頼む! もう一本かましてやれ!」
僕はここまで4打数4安打。プレッシャーのかかる場面なのだけれど、打てる気しかしなかった。ところが、そんな慢心と油断が最悪の結果を招いてしまった。初球の絶好球を見逃した後、追い込まれてボール球に手を出して、内野ゴロでダブルプレー。ゲームセット。
先輩たちの口撃から逃げるようにジョッキを手に取りビールを一気に飲み干した。
「どうせ、彼女の事でも考えていたんだろう」
「まさか! 彼女なんて居ないし…」
そう、彼女はまだ居ない。ただ、気になっている女性が居るにはいるのだけれど…。最近、仕事の都合でいつもより早く家を出るのだけれど、その時、駅のホームで同じ女性を見かけるようになった。その女性のことがなぜかとても気になっていた。それ以来、仕事に関係なく彼女に会いたくて同じ時間に家を出るようになった。その甲斐あって彼女と言葉を交わすことが出来た。もっとも今のところはまだそれだけの関係なのだけれど。
「なんだ、そうなのか? じゃあ、いい子を紹介してやろうか?」
おせっかい好きの監督が口をはさむ。
「大丈夫です。自力で見付けますから」
話題が変わったことで、いつしか試合の事は誰も話さなくなった。そのあとも話題が二転三転してお開きとなった。明日、また彼女に会えることを願って僕も帰路についた。




