続・緊急戦略会議
会談室を出た瞬間、議場に残っていた空気が重石のように胸にのしかかった。
リクは無意識に肩で息をしていた。サナも同じで、背中は硬直したまま。彼らの後ろでシグマのホログラムが淡く輝き、冷徹なはずのAIですら「決裂」という現実を痛みのように受け止めているかのようだった。
数分後、国家サチの最高防衛会議――通称「星環会議」が招集された。
議場は円形の大広間。中央には青白い球体が浮かび、その中に地球全域のバリアシステム、艦隊の配備状況、そして帰還隊艦隊の軌道予測が投影されている。
ユウトが口火を切る。
「……やはり戦いは避けられない。あの目を見たか? 帰還隊は“帰る”んじゃない。“取り戻す”つもりなんだ」
サナが鋭くうなずいた。
「彼らにとって、地球は母でも楽園でもなく“領土”。だからこそ対等な交渉は成立しない。譲歩した瞬間に、支配を受け入れたと解釈されるだけ」
重苦しい沈黙の後、シグマの声が響いた。
《確認すべきは三点。第一に、帰還隊の武力はどの程度か。第二に、彼らが手にした“異星文明の残滓”の内容。そして第三に――第3勢力の立ち位置》
その冷静な言葉に、議場の視線が一斉に青白い球体へ注がれる。スクリーンには帰還隊艦隊の構成が映し出される。巨大な旗艦一隻、巡洋艦十隻、護衛艦数十隻。推定出力は地球の最新艦に匹敵、だが一つの決定的な違いがあった。
《彼らの艦は“自己再生機構”を備えている》
議場がざわめいた。自己再生――戦場で損傷しても、周囲の物質を吸収しながら短時間で修復する機構。未知の異星文明の技術に違いない。
「つまり、叩いても簡単には沈まない……」ユウトが呟く。
サナは眉をひそめながら言葉を続ける。
「でも、私たちには“星々の叡智”がある。バリアシステムの応用で、彼らの修復を妨害することだって可能なはず」
シグマの瞳が淡く光る。
《その通り。帰還隊の技術は強力だが、体系的には未完成。彼らは生存のために“寄せ集め”を取り込んだにすぎない。だが我々は叡智を体系化し、人類とAIの共生に組み込んでいる。この差は決定的だ》
その時、別のAIユニットが声を発した。
《だが問題は、第3勢力だ。彼らは“見届ける”とだけ言った。だが均衡が崩れれば介入すると警告している。つまり、我々が圧勝すれば――逆に狙われる可能性もある》
議場の空気が張り詰めた。
リクは息を飲み、ゆっくりと拳を握る。
「じゃあ……俺たちに必要なのは、“勝つこと”じゃない。“生き残ること”だ」
サナが強くうなずいた。
「そう。帰還隊に支配は許さない。でも第3勢力を敵に回すのも避ける。だから――“共同戦線”が鍵になる」
「共同戦線……?」議員の一人が問い返す。
サナははっきりと答えた。
「帰還隊とではなく、第3勢力との。あるいは、どこかの段階で帰還隊の中の理性派と。とにかく、“地球を守るために共に戦う者”を作らなければ」
その言葉に、議場がどよめく。誰もが直感していた。
――結局は戦争になる。だが戦争は「敵を全て滅ぼす」ものではない。交渉の余地を残しつつ、こちらの優位を確立すること。
それこそが、人とAIが共生して築き上げた新しい地球の戦い方なのだ。
シグマが静かに締めくくる。
《結論。帰還隊との対話は継続する。しかし、戦闘準備を最優先する。バリアを展開しつつ、迎撃艦隊を配備。さらに第3勢力への働きかけを試みる――》
リクは深く頷き、そしてユウト、サナと目を合わせた。
二人の瞳に宿っていたのは恐怖ではない。確かな決意だった。
「ここからが本番だな」
「ええ。未来を守るための、本当の戦いが」
――こうして、国家サチは帰還隊との不可避の戦争、そして第3勢力を巡る謀略のただ中へと歩み出した。
銀河を二分する戦いは、すでに静かに始まっていた。




