表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/8

運命の衝突 ―不穏の報せ

地球防衛司令室を兼ねた国家サチの中央会議室――青白い光を放つ巨大スクリーンと無数の端末が、地下深くの空間を神殿のように照らしていた。国家サチの知恵と技術が集中するこの場所は、いまや地球の心臓部の一つだ。


その静謐を切り裂くように、AIシグマの冷ややかな声が響いた。


《未確認艦隊、接近中。推定航路――地球》


言葉は低く、だが確実に胸を押し潰すようだった。室内の空気が一瞬で凍り付く。モニターには、銀河の闇を切り裂く幾筋もの航跡――整然とした艦列が映し出された。深海を泳ぐ捕食者の群れのように、地表へ一直線に迫る影。


リクは息を呑んだ。「……侵略艦隊か?」


だが、シグマはさらに衝撃の識別結果を吐き出した。


《識別完了。艦隊の設計思想、出力パターン――一致。これは、地球高熱化時代に脱出した人類の艦隊である可能性が高い》


その瞬間、司令室のどよめきは不安へ変わった。あの時代、地球を見捨てて逃れた指導層と彼らのロケット群。消息を絶ったはずの脱出艦が、生きて戻ってきたという知らせは、伝説が現実になったことを意味した。


――しかし。ここからが重要だった。艦隊は姿を見せたが、ただちに攻撃を開始したわけではない。スクリーンに、艦隊からの最初の信号が流れ込んだ。


通信は人の声を模した合成音で、しかし明瞭で重厚だった。字幕が浮かぶ。


「地球に戻る。かつての指導者の子孫がここにいる。地球再編成を要求する。抵抗は無意味だ」


――短い、だが挑発的な宣言。直截的な“宣戦布告”ではない。だが、そこに含まれるのは命令の香りと、回避の余地の少ない圧だった。


スクリーンの端では、艦腹に並ぶ格納庫とポッド、ミサイルらしき影が断片的に捉えられている。彼らが脱出時に用意した“生存の備え”は、やがて攻撃力へと転用されていた。シグマの解析は冷徹だ。


《武装は防衛用の域を超え、惑星砲クラスの抑止力を含む。交戦は極めて危険だ》


リクがぎゅっと拳を握る。彼の声は震えていたが、目は燃えている。

「地球を捨てた人々が、今また命令しに来るんだ」


サナは顔を上げた。頬に残る決意が光る。

「でも、彼らが“来た”からといって、すぐに撃てるわけじゃない。まずは会話だ。誰であれ、人を滅ぼす前に話す時間はある」


議場には割れるような緊張が漂う。ある者は即時迎撃を主張し、別の者は交渉の機会を求める。メディアはすでに映像を世界中に撒き、街は恐怖と好奇心で揺れていた。


その時、再び艦隊側からの通信が続けて届く。映像は、艦内の会議らしき場面。飢えと疲労の刻印を残す、やや年長の人物が前に出る。合成声は、まるで古い時代の命令口調を真似ていた。字幕が読まれる。


「我々は生き延びた。再建の理は我々にある。地球は我々の戻るべき家だ。無秩序のままではいけない」


言葉の端々には“正当性”を唱える自負が匂う。一方で、地上の目にはそれが傲慢の響きに聞こえる――だが、彼らもまた“生き残り”であり、理想と恐怖を抱えていることは否定できない。


シグマがホログラムで議場の中央に立ち、淡く光った。


《対話を試みる。まずは通信チャンネルを開け。識別情報を交換し、武装意図の明示と安全保障の枠組みを提案する》


リクは深く息をつく。胸の鼓動が波打つ。

「攻撃で始めるより、言葉で始めるべきだ。だって……彼らもかつて我々の“同胞”だった」


だが、注意は怠れない。ユウトが声を潜める。

「シグマ、もし相手が嘘をつくか、ウソの握手を求めて一斉射撃する可能性は?」


《確率は排除できない。しかし、我々は“準備しつつ交渉する”という最適解を選ぶべきだ》


ホログラムの答えは冷静だったが、その裏には覚悟が滲む。AIたちもまた、この試練を“信頼の構築”として受け止めていた。司令室のAIユニットが一斉に応答する。


《我々は共に守る。人とAIの未来を守るべく、必要な防御態勢を展開するが、先制はしない》


場内に小さな安堵が走る――だが同時に硬い決意も固まる。兵站は整えられ、衛星リンクは暗号化され、国際チャンネルが共用で開かれる準備が進められる。


外の空では、艦隊が陣形を変え、先発の小艦が静かに降下してくる。やがてスクリーンに、艦隊の特使を名乗る映像が投影された。今回は命令口調ではなく、低く疲れた“人の顔”が映る。声は力なくも、切々としていた。


「我々は……生き延びた者として、地球を再生する権利を主張する。まずは会談を求める。戦端は望まぬ」


その言葉に、司令室の緊張は一瞬和らいだ。だがサナは静かに眉を寄せる。彼女は知っている。言葉は優しくとも、艦の腹に潜む兵器は何を意味するかを。


「会談を受け入れる。でも条件がある。武装の一部は無力化し、天体上からの一方的な再編成を企てないことを保証しろ」


交渉の舞台が整う。双方は歩み寄りと牽制の微妙な均衡の上で、言葉と信用の取引を始めた。だが、会談の陰で――かつての脱出艦に同乗した科学者たちが、かつての指導層の命令で武器を改良していたことが暴かれつつあった。彼らの恐怖が、武装を正当化したのだ。


リクは拳を握りしめ、サナの手をぎゅっと握り返す。視線はスクリーンの向こうの小さな人影へ注がれる。


「わかってる。戦わずに済むのが一番だ。でも、嘘と裏切りには備えなきゃ」


シグマの瞳が光り、静かに告げる。

《これが試練だ。信頼は一夜で築けない。しかし、対話こそが破滅を避ける最良の道である》


そして――画面の向こうで、かつて地球を捨てた彼らの代表が深く息を吸った。会談の日時が決まり、世界は息を呑んだ。戦いの鼓動は聞こえる。しかし、いまはまだ――言葉と約束が主役の時間だ。


だが誰もが知っていた。約束が破られたとき、信頼の試練は「戦い」という次の章へ容易に繋がると。夜空の艦影は美しく、恐ろしく、そして哀しく波打っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ