第1話 初めに。
アーダの所属するアグネスメイド派遣協会は、所属人数20名。もちろんその道のプロが育て上げられている。主にメイドの産休や急に使用人が大量にやめてしまった場合のつなぎ、当主の入れ替わりで一時的に使用人が大量に必要な場合などに先方からの依頼によって派遣される。派遣先の選定や派遣する人材の選定はやり手ババア、アグネス統括部長が行う。オーナーの名は伏せられている。
「専攻科終了おめでとう。早速、仕事が入ってるわ。」
呼ばれたのはお掃除メイドのアーダ。こげ茶のおかっぱ眼鏡。瞳は緑。
この協会は、入ると徹底して教育される。主として貴族邸に派遣されるので、礼儀作法はもちろん、一般教養、言葉使いの矯正、化粧の仕方から、身だしなみ、護身術に至るまで。机上の勉強ももちろんだが、実習も厳しい。全ての仕事を教え込まれるが、その中でその子の適正に合ったコース、例えば、キッチンメイド専門、になる。
基礎教育科で2年。これは必須。
その中でアグネス統括部長が選抜した子が、専攻科に進む。
ここでは薬学、外国語、経理、社交、より進んだ護身術…などを学ぶ。
その辺の侍女より、高度な教育を受けることになる。通常、実習込みで2年間。
アーダは最短一年で終了した。
「今回の派遣先は、モーリッツ公爵家です。ご子息の専属メイドになります。期間は何もかも綺麗になるまで。」
「・・・・・」
「アーダ?」
返事が遅れたアーダを、アグネスが書類から目を離して眼鏡の上から眺める。この方の髪はいつ見ても綺麗な白髪だ。
「はい。」
「この協会の基本理念は?」
「はい。生きて無事に帰ってくること。たんまり稼いでくること。です。」
「はい。良く出来ました。では、よろしく。」