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四、永遠の別れ【13】



 ◆


(……いったいどこに?)

 傷の癒えたクルドは、あれからすぐ大鎌を片手に屋敷の玄関から中へと入り、二人の姿を探していた。魔女は恐らくクレイシスとエミリア、どちらかに姿を変えているはずである。油断はできない。

 ホールを抜けて階段を登り、二階の廊下を抜け、三階の階段を登った。


(シンシアは先に現実世界へと戻したが、問題はエミリアだ。てっきりシンシアと一緒にいたと思ったんだが、どこへ……?)


 心配なのはエミリアだけではなくクレイシスの事も気掛かりだった。いくら短剣を持たせているからとはいえ、クレイシスは魔女裁判の修行を受けていない一般人だ。


(二人とも、無事だといいのだが……ん?)


 クルドは足を止めた。

 シンシアの部屋前――その廊下に、糸切れた人形のように項垂れて座り込んでいるエミリアがいた。

(――いや、魔女が変身しているのかもしれない)

 用心の為、クルドは声をかけてみる。

「エミリア……か?」

 びくり、と。エミリアは体を震わせた。蒼白な表情をゆっくりこちらに向けてくる。声を掛けられたことへの驚きではなく、声を聞いて怯えたような……そんな感じだった。

 エミリアは体を小刻みに震わせながら、クルドから逃げるように腰で這い、後退していく。

「お願い……来ないで……」

(俺を知っている?)

 影で、クルドは大鎌を握り締めた。歩き出す。

 エミリアの目から涙が零れ落ちる。

「あたし、そんなつもりじゃなかったの。ただ元気になりたくて……命と引き換えになるなんて、ほんと知らなかったの……」

 クルドは無言でエミリアとの距離を縮めていった。

 程よい距離を置いて足を止め、いつでも大鎌をなぎ払えるよう真横に構える。

 エミリアがきつく目を閉じて身を竦める。そして悲鳴を上げそうな勢いで叫んできた。

「ミスってんじゃねぇ! この無駄に年食い駄目オヤジ!」

 思わずクルドは間の抜けた表情で固まった。目を点にして問い返す。

「……はぁ?」

「クレイシス侯爵にそう言えって言われたの! アイツと同じ人がここに来たら、そう言えばわかるからって……!」

 クルドは自分に指を向けて尋ねた。

「『アイツと同じ人』って、もしかして俺のことか?」

 エミリアは恐る恐るといった感じに震える指先をクルドに向け、黙って小さく頷きを返した。

 クルドはようやく理解する。構えていた大鎌を下ろし、

「なるほどな。それで『言えばわかるから』か……」

 クルドは感心する。

(自分を(おとり)にし、彼女を守ったか)

 魔女の盲点をついた良い判断だった。

 クルドはエミリアにそれ以上近づかず、代わりに指を突きつける。

「エミリア、お前はここで大人しく待っていろ。いいな? 絶対にここを動くなよ」

 相手の返事を待たず、クルドは踵をかえしてその場を駆け出した。





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