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四、永遠の別れ【12】



 ◆


「あ。どうしてかしら? 姿が元に戻ったわ」

 床に座り込んだまま、エミリアは人間へと戻った自分の手をマジマジと見つめていた。

 その隣で、

「魔女が死んだからという理由だったらいいけどな」

 同じようにクレイシスも、人間へと戻った自分の手を見つめていた。

 ふと、二人は顔を合わす。


(まずいっ!)


 クレイシスは反射的に片手で顔を隠した。人間の時の正体はすでにバレてしまっている。

 案の定、エミリアが驚いたような顔で言ってくる。

「あなたは確か、あたしを助けてくれたクレイシス侯――」

「人違いだ。お、オレは偶然ココを通りかかっただけの、た、ただの料理人だ」

「嘘」

「ほ、本当だ」

 クレイシスは明らかに動揺していた。

 急にエミリアがにこりと笑って、がしりとクレイシスの肩にしがみつく。

「ねぇねぇねぇねぇ」

「はいはいはいはい」

「あ。その口調、黒猫ちゃんね」

 ニヤリと笑うエミリア。

 クレイシスの口端が引きつる。

「だ、だったらなんだ?」

 そうとわかればとばかりに、エミリアは余計にクレイシスにしがみついてきた。興味津々にクレイシスの肩を激しく揺すりながら、

「ねぇねぇ、よく考えてみたんだけど、小鳥があたしであって、黒猫ちゃんの正体があなたであって、そうなると今までの事を紐解いていって――」

「解くな。絡めたままにしてろ」

 何の妄想を働かせてか、エミリアはそっと口元に手を当てると同情の眼差しで、

「クレイシス侯爵って、実は猫の妖精だったりして……」

「悪かった。オレがお前のその無駄に絡まった思考回路を紐解いてやるから、今ここで確実にその妄想を消してくれ」

 変な風評が広がりそうだったので、クレイシスは仕方なく正体を明かすことにした。

「たしかにオレはヴァンキュリア・E・クレイシスだ。この格好をするはめになったのも警察がこの屋敷に来ていたからだったんだ。捜索されている身だったし、まだ保護されるわけにもいかなかったからな」

「だって通報したの、あたしだし」

「――って、お前だったのかよっ!」

「うん。だって名前だけでパパとお母様を卒倒させちゃったのよ? こりゃ通報しなきゃ大変だぁ、てね」

「『てね』じゃないだろ! お前のせいでどんだけ苦労したと思って――」

「助けてくれてありがとう」

「……え?」

 思わぬ言葉に、クレイシスは呆然とした。

「あたしとお姉ちゃんを魔女から救いに来てくれたんでしょ? あの時あなたがいなかったら、あたし絶対死んでいたわ。まさか本当に魔女が来るなんて思わなかったから」

 クレイシスはその言葉に顔をしかめた。確認するようにもう一度、問い返してみる。

「魔女が来た(・・)だと?」

「うん、そう。ある【おまじない】を唱えると、魔女が来て、願い事を叶えてくれるの」

 クレイシスは真剣にエミリアと向き合う。

「その話、詳しく聞かせてくれないか?」

「えぇいいわよ。今お茶会で流行ってる『元気になる【おまじない】』なの」

「流行り? オレは聞いたことないぞ?」

「うん。だってお茶会の時に遊びでやるんだもん。これを唱えたら魔女が来てくれて、何でも願いを叶えてくれるらしいの。

 でも実際、何にも起きないから『子供騙しね』ってみんな馬鹿にしていたわ。けど、あたしは……」

 思い詰めたように顔を伏せるエミリア。

「…………」

 クレイシスはエミリアの言葉を真剣に待った。

 顔を上げてエミリアは続ける。

「――お姉ちゃんとあたしは『魔女はいる』って、ちょっと信じてた」

 クレイシスは鼻で笑い飛ばし、手を振った。

「何を言うかと思えば馬鹿馬鹿しい。オレの姉さんも魔女を信じて殺されたというのか?」

 多少自嘲するようにそう言って、クレイシスは床に置いていた短剣を拾い上げた。

 エミリアがその短剣を見つめて露骨に嫌な顔をし、

「うわ~、やっぱりクレイシス侯爵って――」

「『やっぱり』ってどういう意味だ? 魔女から身を守るにはこの短剣しかないんだ」

「…………」

 途端にエミリアの頬が紅潮する。

 その様子にクレイシスは慌てて言い換えた。

「ご、誤解するな。自分の身を守る為だ」

「でもあの時――」

「あれは偶然だ。いいか、偶然だからな」

「――と、言っといて実は」

「うっとうしい奴だな、お前」



「二人とも、無事か?」



 そんな時ふいに廊下の向こうから姿を見せたのは、黒衣姿のクルドだった。





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