四、永遠の別れ【10】
※ この10話は残酷な描写が入っています。
苦手な方は……って、恐らく序章の時点で すでに帰られているかもしれませんが、一応警告表示いたします。読まれる方はご注意下さい。
「人間の分際で生意気な! 覚悟おしっ!」
魔女はクルドへ向け右手をかざした。
出現する緑色の魔法陣。
予測通りの行動に、クルドは笑う。
「覚悟するのはてめぇの方だ」
懐から酒瓶を取り出し、魔女に投げつけた。
魔女はすぐに呪を紡ぐ。それより早く、
「爆砕!」
クルドの言葉とともに、酒瓶が魔女の目前で粉砕する。
――瞬間、バックドラフトのような爆発が魔女を襲った。
爆発を正面から受けた魔女は黒く煤焦げ白眼をむく。
クルドは短剣を大鎌に変えて振りかぶった。だがそれは振られることなく、闇夜を切り裂き生まれ出た蒼白い雷光がクルドを直撃する。
声を上げる間もなく、クルドは屋根を打ち破り屋敷の中へと落ちていった。
ともに、魔女も力尽きたかのように浮力を失い、落下していった。
地面に激しくその身を叩きつける。
倒れた魔女を中心にみるみる広がっていく赤黒い血。
しばらくして。
ぴくりと、魔女の指先が微かに動いた。時間が巻き戻るかのように、広がる血の海が魔女の体へと逆流していく。全ての血を傷口から体に取り込んで、傷口が完全に治癒される。
魔女は何事ない平然とした顔でゆっくりと身を起こした。肩を震わせてクククと笑う。
「そうこなくちゃ、こちらとしても戦い甲斐がないわ」
ぺろりと上唇を舐め、振り返りもせず淡々と背後に声を投げる。
「――私が気付いていないとでも思って? 裁判者」
その背後で大鎌を構えていたクルドがぴたりと動きを止めた。
魔女の背後に一瞬にして編み出される緑色の魔法陣。
クルドの顔が強張る。
「なにっ!」
陣から解き放たれた黒い烈風が、クルドを飲み込み壁へと圧し飛ばす。勢いに抵抗できず、屋敷の外壁に体をめり込ませるクルド。それを中心に、壁に蜘蛛の巣状の亀裂が走る。
体が壁から抜ける間もなく魔女がクルドの目前に転移し、素早く、右手でクルドの首を鷲掴んだ。力強く壁へと押し戻す。
「ぐっ……!」
クルドは大鎌を手放し、両手で魔女の右腕を掴んで引き離そうとした。しかしその腕はびくともしない。
くつくつと魔女が笑いをこぼす。
「裁判者といえど、首が折れても生きていられるかしら?」
へへ、と力なく笑い返すクルド。
「折られる前に抜け出すさ……ぐっ!」
さらなる力を込められ、クルドは苦鳴を上げた。
魔女は色っぽく瞼を落とすと、左手でクルドの頬を撫でながら、口付けるか付けないかの距離でクルドの口元に囁く。
「生意気な男は嫌いじゃないわ。あなたの魂もあの坊やと一緒に回収してあげる」
意識が遠退きそうになる中、クルドは無理に笑ってみせた。
「裁判者を嘗めんなよ、魔女アーチャ」
「――っ!」
言葉と同時に、魔女の背に突き立つ何か。
魔女は驚愕に大きく目を見開いた。
首を掴んだ魔女の手が緩む。
その隙を狙ってクルドは魔女の右腕を後ろに引き寄せ、前のめるように体を倒すと、魔女の鳩尾に膝蹴りを見舞った。
抵抗なく一撃を食らい、魔女は体を折り曲げて地面に倒れ込む。
魔女の背に刺さった銀製の矢をクルドは冷たく見下ろして、
「俺が仕掛け無しで勝てもしない真っ向勝負を挑むと思うか? 常に周囲を警戒しておくんだな」