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四、永遠の別れ【4】


※ 前書きに失礼いたします。

 お礼を言いに顔を出しました。

 新たにお気に入り登録してくださった二名の方、本当にありがとうございます。

 当初の予想を裏切るまさかのお気に入り登録二桁。これからも更新頑張れそうです。

 皆さま最後までお付き合いくだれば嬉しく思います。







 ◆


 ――カタカタと。

 棚に並んだ酒瓶が微動に震えて音を鳴らす。

 少しの間、小さな縦揺れが酒場を襲った。

「……地震?」

 ラウルが天井を見上げてそう呟く。

 天井から小麦粉のような細かな粒が降り注いでくる。

 落ち着いた様子で皿を磨きながら、ロンが口を開く。

「どうやら始まったようだな。魔女との戦いが……」

 感嘆の声を漏らすラウル。

「呪いだけが取り柄だと思っていたが、暗黒魔術も馬鹿にはできないんだな」

 ロンは皿を磨く手を止めた。

「Sクラスともなると暗黒魔術は脅威となる。生きて帰ってくれることを願うしかない」

「それじゃ、なぜ止めなかったんだ?」

「なにをだ?」

 ラウルは誰もいないカウンターを指で示して、

「クレイシスだ。アイツはクルドの後を追ったんだぞ?」

 肩を竦めてロン。

「狸寝入りで全てを聞いていたクレイシス君に、他に何と言って引き止めれば良かったと?」

「睡眠薬入りの飲み物を騙して飲ませるとか、他に方法はあったはずだろう?」

「ラウル君」

 静かに、ロンは磨いていた皿を置いた。

「クレイシス君はちゃんと自分の道を選んで歩いている。最後までやりたいようにやらせてあげなさい」

「だがもし、魔女に殺されでもしたら――」

「未熟な弟子にこの仕事を譲った覚えはないな。それに本気でクレイシス君をここに置いておくつもりなら、最初からシェルーなんて飲ませてないさ」

 ロンは別の皿を手に取り、平然とした顔で磨き始めた。

 ラウルが気の抜けたように背凭れに身を預け、ため息を吐く。

「そこまで想定しての魔女狩りか。やっぱり俺様は裁判者に向いていなかったようだ。ロン爺の目は正しかったってことだな」

 肩を竦めてロン。

「勘違いしないでもらいたいな。お前達は二人で一人前だ。魔術はクルドが長けていた。ただそれだけだ」

 ラウルはふてくされたようにロンに向け、べーっと舌を出し、

「どうせ俺様は魔術オンチですよぉーだ」

 ロンはくすくすと笑うと、磨いていた皿を置いた。そして、カウンターにコップを二つ並べ置き、足元に隠していたウィスキーボトルをちょいと掲げてみせる。

「さて。ワシらはここでスコッチでも飲んで吉報を待っているとしよう」

 相変わらず緊張感のないロンに、ラウルは顔を綻ばせて笑った。コップを手に取り、

「気が利くじゃねぇか」





 ◆



 月夜の闇より現れし一つの人影が、フレスノール家の屋根に降り立つ。

 白く滑らかな生地のローブに身を包んだ一人の若い女性。美を司る彫像のような顔立ちと、成熟した女性のメリハリとした妖艶な体は、まるで絵画の中から抜け出した女神のように美しかった。

 フードから漏れ出る穏やかな波のある朱紺色の長い髪を夜風になびかせ、仄かな桃色の唇をそっと緩ませる。

「あの攻撃をよく防げたものね。大魔女様がおっしゃっていた通り、どうやら嘗めてかかれる相手ではなさそう……」

 ぺろりと上唇を舐めて、女性は赤い蛇眼を鋭くさせる。

「殺し甲斐がありそうだわ」

 女性は屋根から飛び降りると、そのまま虚空に姿を消した。





 ◆



「お姉ちゃん、ねぇ起きて起きて! 地震よ地震!」

 ぱたぱたと、寝ているシンシアの周りを小鳥が忙しく飛び回る。

 だがシンシアは目を覚まそうとしない。

 やがて小鳥は疲れてベッドの上に舞い降りた。

「どうしよう。なんで目を覚まさないんだろう?」

 不安にきょろきょろと辺りを見回す。

 先ほどの振動で、シンシアの部屋は置物が倒れたり壊れたりして散乱していた。

「パパとお母様は大丈夫かしら……?」

 心配に呟いて、小鳥は再びベッドから飛び立った。そのままドアへと向かう。

 すると、ドアノブが独りでに回った。

 軋む音を立てて、ドアが少しだけ開く。

「誰?」

 小鳥はその隙間から顔を覗かせた。

 廊下には誰もいない。

「もしかして、さっきの地震で開いちゃった……とか?」

 小鳥は不安を抱きながらも廊下へと出る。

 廊下に出て、周囲を見回しながらしばらく飛んで。

 ふと心配になる姉のこと。

 小鳥が振り返ったその時、

「――あ、ちょっと!」

 ドアが勝手に閉まっていく。

 一瞬見えた、部屋の中の怪しげな黒い人影。

 気になるところでドアはぱたんと閉まり、小鳥は慌てた。

「今の誰? 今の誰? 今の誰なの?」

 誰にでもなく口早にまくし立てながら心配に右往左往する小鳥。

「どうしよう、どうしよう、お姉ちゃんが危ないのにどうしたらいいの?」

 小鳥はドアの前で激しく右往左往を繰り返す。

「どうしよう。どうしたらドアが開けられるかしら?」

 あ。と急に、小鳥は何かに閃いた。

「そうだわ。誰かを呼んでくればいいんだわ」

 閃いたままに、小鳥は今ある自分の姿も忘れて、人を呼びに部屋の前から飛び去った。





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