三、彼女の妹【6】
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黒猫はしくしくとクルドの胸の中で泣いていた。エミリアは食事に行っていて、今は部屋にいない。
「おーよしよし。それは怖かったな。さぞかし怖かっただろう。俺が悪かった。お前を一人にした俺が悪かった」
「下流貴族は怖いよぉ。あの女、絶対魔女だよぉ」
クルドは黒猫に心から同情した。優しく頭を撫でる。
「ごめんな、クレイシス」
その表情とは裏腹に全然違うことを口にする。
「魔女狩りが済むまで俺の分まで犠牲になったと思って、これからも一人で頑張ってくれよな」
ぴたりと泣き止む黒猫。
「……ちょい待て」
「お前はヴァンキュリア公家の後継者だろう?」
「関係ないだろ、それ」
「泣き言だけは毎日こうして聞いてやるからな」
「助けないのかよ」
「当然。腿に爪立てた仕返しだ」
「まだ根に持っていたのか?」
「ところで真面目な話をしよう」
肩を滑らせる黒猫。
「なんだよ、いきなり……」
「こっちの準備は全て整った。今夜、予定通りに魔女狩りを行う。
いいか、クレイシス。もう一度釘を刺して言っておくが、魔女狩りの最中は絶対に二階と外には行くな。必ず――」
「人が多い場所にいろ、だろう?」
クルドは笑った。乱雑に黒猫の頭を撫でる。
「わかっているじゃねぇか」
◆
街のすべてを見下ろす時計台が晩課の鐘を鳴らす。
西の空は陽が沈み、きれいな茜色に染まっている。
見上げた空は夕焼けと紺色とが混ざり合い仄暗く、いくつかの星が瞬いていた。
東には闇とともに迫る朱色の顔をした大きな満月が暗闇の世界の飾りになろうと姿を見せていた。
まるで、これから始まる不可思議な夜を、嘲笑いに来たかのように……。