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三、彼女の妹【4】


※ 前書きに失礼します。

お気に入り登録をしてくださり、ありがとうございます。心からお礼申し上げます。





  ◆



「――へぇ。あの元気でピーチクうるさい娘にも、そんな意外な一面があったとはねぇ」

 真夜中のバルコニー。

 クルドは手すりに腰掛け、くわえ煙草をひょこひょこ動かしながら呟いた。服装も普段のものに着替えている。もし今見つかれば、クルドは間違いなく侵入罪で牢獄に入れられるだろう。――まぁ、騒ぎ立てがない限りはその心配も不要だが。

 明かりが消えた部屋内にはエミリアがベッドですやすやと静かに寝息を立てている。

 クルドの隣で黒猫が口を開く。

「貴族の世界は気品が勝負。貴族なら誰でも最初に当たる壁だ。それを乗り越えられるかどうかで未来が変わってくる」

 クルドはフッと煙を吐き捨てて笑った。口端を歪め、

「気品ねぇ……。金さえありゃぁ、他なんてどーでもいいと思うんだがなぁ」

 黒猫は呆れるようにクルドを見上げた。

「もしクルドが本当の貴族として社交の場にいたら、オレ、絶対目を合わせたりしない」

 クルドの口端が引きつる。苛立たしく舌打ちしてそっぽを向き、吐き捨てる。

「あーはいはい。どーせ俺は庶民暮らしがお似合いですよ」

 そんなクルドに黒猫は静かに目を伏せて微笑した。

「所詮庶民同様、貴族の世界も弱肉強食だ。相応の振る舞いができなければ社交の輪から外れて孤立し、やがては地位すらも認めてもらえなくなる。 まぁ、潰れるか、留まるか、上がれるかは主に後継者の力量だと言われているから、たとえ彼女がそういう付き合いが上手くできなかったとしてもカバーすることはいくらでもできる。できるんだが――」

「ふ~ん……」

 適当に相づちながら、クルドは黒猫を一瞥した。

 黒猫が顔をしかめる。

「な、何だよ……」

 そして流すようにして視線をエミリアへと向ける。

「じゃ、問題ないわけだな?」

「はぁ? 何が?」

 クルドはエミリアを顎先で示した。

「お前が結婚相手なら問題ないと思うぞ」

 んべっと舌を出して黒猫。

「断る。誰が下流貴族なんかと」

「エミリアはお前が磨いてやれば、きっと歴史に名を刻むようなイイ女になれる」

「なったから何だ? そんなことしてオレに何の利がある?」

「『プリンセス・シンデレラ』って話、知ってるか?」

 やれやれ。黒猫はお手上げして首を横に振り、ため息を落とした。

「どっちが子供なんだか。そんな恋愛で繁栄できたら神様なんていらないね。これだから無駄に歳食いぐっ――!」

 黒猫の首を絞め、クルドはさらりと話題を変えた。

「話を変えよう。魔女は明日の夜、ウェルタ家の社交パーティに姿を現す」

 首を絞められたまま、黒猫は眉をひそめて問う。

「なぜわかる?」

「わかるんじゃない、誘き寄せるんだ。社交パーティは魔女狩りにもってこいの場所だからな」

「どういうことだ?」

「弱点を突くのさ。魔女は人目を嫌う。理由は様々だが、まぁ大まかに言えば古い掟に従っているってとこだな」

 黒猫が半眼になって、

「……まさか今更になって社交パーティのマナーを教えろとか言わないよな?」

「その心配はない。俺も堂々と魔女狩りをするほど頭はイカれていないんでね」

 声を萎めて独り愚痴る。

「まぁ俺も俺で、人前であの格好はちっとばかし抵抗があるんだがな」

「あの格好?」

 どうやら聞こえてしまったようで、黒猫が問い返してくる。

 クルドはニッと意味ある笑みを浮かべて、

「当日のお楽しみだ」

「女装か?」

「――ンなわけねぇだろッ!」

 言葉と共に黒猫の頭を思いきり殴りつける。

 殴られた頭を擦りながら黒猫は涙目になって、

「冗談だよ……。で? オレはどうすればいい?」

「お前はパーティ会場にいろ」

「いるだけでいいのか?」

「いるだけでいい。何もするな。俺が魔女狩りしている時は絶対に外に出るんじゃない。きっと魔女はお前にも目をつけているはずだ。今度ばかりは命を取られる危険がある」





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