三、彼女の妹【2】
エミリアは笑顔で人差し指を立てる。
「だって、おじさんと結婚したら共倒れしちゃうんでしょ?」
黒猫は投げやりに前足でシッシと払いながら、どうでもよく言葉のさじを投げる。
「あーもういいや。君と話しているとこっちまで頭がおかしくなりそうだ」
いきなり、エミリアがぽんと手を打つ。
「よし、飼おう」
「飼う!?」
さっきと全然方向違いの言葉に、黒猫は思わず悲鳴じみた声で問い返した。
「飼えば問題ないでしょ?」
「そうか、その手があったか!」
突然閃くクルド。ポンと手を打つ。
黒猫が怯えたように身を竦める。
「な、なんだよ急に……。どういう意味だ?」
クルドは座っていたベッドから立ち上がると、すたすたとエミリアへ歩み寄った。
握手する。
「あの黒猫、君に何日か預けるよ」
「いぃっ!」
悲鳴をあげる黒猫。
エミリアが手を叩いて喜ぶ。
「やったぁ! もらってもいいのね!」
「いや、預けるよ」
「ありがとうおじさん。あたし、大事に育てるね!」
「いや、預けるだけだから」
「あたしね、ずっと前から猫を飼ってみたいと思っていたの!」
黒猫がベッドの上で前足をわななかせ、涙ながらにクルドに訴える。
「お願い、もうやめてくれクルド……。頼むからそれ以上の会話をしないでくれ。オレの身が危険に晒されていることがわからないのか? 言葉が通じてないだろう?」
オレを飼うって言っているんだよ? と、潤んだ目で訴え続ける。
クルドは眉間に人差し指を当てた。
……しばらく考えを巡らせる。
やがてパッと顔を上げ、笑顔で黒猫へと振り返り、
「お前はここ担当な。俺は外を担当する」
「絶対嫌だ!」
即座に拒否し、黒猫は慌ててベッドから飛び降りた。口早に、
「もう一度考え直せクルド。奴隷の扱いを受けるなんてオレは死んでも嫌だからな。こんな屈辱――」
クルドは足元に近づいてきた黒猫を流れるような仕草で ひょいと首根っこを捕まえた。そして爽やかな笑顔でエミリアに差し出す。
「檻にでもぶち込んどけ」
「まかせといて!」
「覚えてろよ、クルド。この屈辱は一生忘れねぇからな……」
黒猫は力無く呻いた。