96 モニカの婚約者7
後日の休日。計画どおりモニカはイサークを誘い、カリストと共に会うことになった。
会う場所は、イサークが手紙で場所を指定してきたレストラン。
(ここって……!)
カリストにエスコートされて馬車から降りたモニカは、レストランの外観を見て瞳を輝かせた。
白い神殿を思わせるような外観のそこは、ゲームでは攻略対象とのデート場所に選べる場所のひとつ。この世界でも、デートスポットとして有名な高級レストランだ。
「モニカはこういった場所が好きなのか?」
そう問いかけられてカリストを見ると、彼はなんだか不機嫌そうだ。カリストと一緒に出掛ける際に利用するレストランとは、雰囲気が違うせいだろうか。高級志向だと思われても困る。
「あのっ、違うんです。こちらはその、ゲームに登場する場所でして」
こそっと耳打ちすると、カリストはさらに表情が曇る。
「ルカ・フエゴと何度も、逢引きしていた場所だな」
「せっ先生……!」
(今日に限ってなぜこんなに不機嫌なのかしら……)
イサークが関わると、なぜかカリストの様子がとげとげしくなる。いつもはモニカの推し活に対して、寛容であり、本の感想でも聞いてるかのようようなのに。
(これだとまるで先生が、イサークに嫉妬しているみたいよね)
そう思ったモニカは、まさかと思いながら改めてカリストを見た。
(先生、本当に嫉妬しているの……?)
もしそうなら嬉しい。モニカはにこりと微笑んだ。
「先生と一緒に聖地巡礼できて嬉しいです」
「それなら、イサーク・リアマに感謝しなければな」
少し機嫌が直った様子のカリストは、モニカに手を差し出す。二人は店の者に案内されて店へと足を踏み入れた。
このレストランは楽園がテーマとなっており、室内にも関わらず小川が流れていたり、植物がふんだんに植えられている。
席はすべて個室となっており、込み入った話をするにはちょうどよい場所だ。
「ここはモニカに相応しい場所だな」
カリストは天界でも想像したのだろうか。辺りに目をやりながらそう呟いた。
「私が相応しいなら、先生も相応しいですね。先生は――」
モニカの守護者になる予定なのだから。
案内人がいる手前、全ては言わなかったがカリストには伝わったようだ。
「そうだな。楽園を維持するために侵入者を排除するのも、俺の役目だ」
カリストは案内された個室をじっと見つめてから、室内へと足を踏み入れた。
「お二人とも、ようこそおいでくださいました」
個室へ入ると、イサークが爽やかに微笑みながら二人を迎え入れた。
今回のデートにカリストも誘いたいと手紙で伝えてはいたが、特に気分を害している様子はなさそう。
彼はもともとマイペースで、嫌味も通じない人。これくらいは気にするほどのことではないのかもしれない。
「素敵なレストランへご招待くださり、ありがとうございます」
「気に入っていただけましたか?」
「はい。リアマ卿がお選びになる場所としては、意外でしたが」
これまで彼は、デートらしい場所へモニカを連れてきたことがなかった。これが二人きりのデートだったら困っていたかもしれない。
「たまにはモニカ嬢の乙女心を、くすぐってみようかと思いまして」
無垢な笑みを浮かべられて、モニカは思わず顔をしかめた。前回はモニカを脅しておいて、よくもこんな態度が取れるものだ。
怒り、よりは呆れが強い。なぜ彼はいつも、人を困らせておきながら、楽しそうにできるのか。
「モニカ。あいつの策略にハマりすぎじゃないか」
カリストに耳打ちされて、モニカは顔が赤くなる。
「ちがっ……!」
違うのだ。うっかり、ここへ来られたことに喜んでしまったが、それは決して乙女心ではない。聖地巡礼が嬉しい、推し活心。
万が一にも、イサークが素敵な場所へ招待してくれたことへの、ドキドキではない。
そんな言い訳を、カリストにこそこそ耳打ちしている姿を、イサークがぽかんとした顔で見ているとは、モニカは気づきもしなかった。
「モニカ嬢は……。先生の前では、そのような表情もなさるのですね……」
「え?」
問われた意味がわからず、モニカはイサークへと視線を向けた。彼はなぜか寂しそうな笑みを浮かべている。
「いいえ。――さあ、お二人ともおかけください。まずは食事にいたしましょう」
今日が楽しい食事会が目的ではないことは、イサークも理解しているだろうに。彼はモニカたちを手厚くもてなした。
カリストを敵視することもなく。アカデミー時代の思い出話などもしながら、表向きは楽しい食事会。
と言うよりも、この楽しい空間を壊したくない。イサークはそんな雰囲気を漂わせながら、話題を振り続ける。
モニカはふと、イサークとの関係を終わらせようとした際のことを思い出した。
彼は「返事は急ぎません」と、モニカを繫ぎとめようとした。それは彼の目的が、崩れそうになったからなのだろう。
けれど、今の彼を見ていると、それだけではなかったのではと思えてくる。
いつまでも友達と遊んでいたい子どものような。家に帰れば寂しい生活が待っている人のようだ。
(リアマ卿って実は、人恋しいのかも……)
モブ体質のせいで、人に認知されにくく寂しい思いをしてきたモニカとしては、寂しい思いをしている人間はつい気になってしまう。
「そうだ。よければ、来週も三人でどこかへ遊びに行きませんか? モニカ嬢もそのほうが気が楽でしょう?」
デザートを食べ終えるころになって、イサークはそんな提案をしてきた。
今日はイサークの弱みを握るためにここへ来た身としては、彼の純粋な提案に心が痛む。
困りながらカリストを見ると、彼は何の迷いもない様子でモニカへと軽くうなずいた。
どうやら作戦を始めるようだ。
「悪いが、それはできない。俺は今日、イサーク・リアマに話があってここへ来たんだ」
イサークに本題を切り出すカリストを合図に、モニカも与えられた役割を実行することに。
さりげなくルカにもらったピアスに触れながら、心の中でルーに呼びかけた。





