91 モニカの婚約者2
「ブラウリオお前、ヴィーナスモニカなめんなよ」
「ル……ルカ様……!」
「そうですわ。ヴィーナスモニカ嬢はなんでもお見通しですのよ。何と言ってもヴィーナスモニカ様ですから」
「ミランダ嬢……あのっ……!」
「そうだったね。失礼いたしましたヴィーナスモニカ様」
「殿下まで……!」
モニカがわたわたしていると、リアナが抱きついてきた。
「ヴィーナスモニカちゃん可愛い!」
初めて女神とモブを調節する画面を見せた後からしばらく、モニカのあだ名はヴィーナスモニカとなってしまった。今では、女神の隠語のように使われている。
(でも皆、語呂が良いから使っているだけで、ヴィーナスがどのような女神か知らないのよね……)
モニカも言うつもりはない。さらにからかわれそうだから。
「モニカ。あれを確認しなくて良いのか?」
カリストのその言葉に、皆は一気に緊張した表情に変わる。
(先生。助けてくれたのかしら?)
「はい。皆様、こちらへ集まってくださいませ」
カリストに感謝しつつモニカは、皆を円陣を組むようにして集める。そしてその中央に両手を広げた。
「 ヴィーナスモニカセッティングオープン 」
さすがにもう、何度も皆に見せているので、呪文を唱えることへの恥ずかしさは消えた。モニカは淡々とした態度で設定画面を出した。
みんな揃って画面を確認してみると、女神とモブを調節するバーのつまみが、また女神側へと動いている。ルカが「よっしゃ!」と握りこぶしを天井へと向けて突き上げた。
皆でがんばってこのバーを動かそうと決意してから、誰かが何かを頑張ったあとは、いつもこうして皆で確認するようにしている。
大抵の場合は女神側に動いているので、達成感を味わうための良い材料となっていた。
皆が喜びあっているのを見ながら、モニカも嬉しく思いつつバーを見つめた。この調子で皆で頑張れば、三年生になるよりも早く女神マックスになれそうだ。モニカを特別だと認識させるには、それより前でも良いかもしれない。
このバーだけではなく、最近はモニカ自身も効果をひしひしを感じている。今も、あちらこちらで、モニカの噂話をしている声が微かに聞こえてくる。
「ほらあちらのご令嬢よ。ロベルト様とビアンカ嬢の関係が改善されたのはモニカ嬢のおかげだそうですわ」
「私は、モニカ嬢のおかげで、ルカ様とミランダ嬢がご婚約できたとお聞きしましたわ」
「最近、聖女様が社交的になられたのも、モニカ嬢の影響だとか」
「これから社交界をリードなさるのは、モニカ嬢かもしれないわ。今度、お茶会にお誘いしてみようかしら」
(社交界をリードするつもりはないのですが……)
モニカはそれらを聞きながら、飲み物を取りに向かおうとした。その時、ふと視線を感じて振り返ってみると、視線の先にはイサークの姿が。
(また……)
ルカとミランダの婚約式で話して以来、パーティーなどへ参加するたびに視線を感じ、イサークと目が合ってしまう。
そして彼は、爽やかに微笑んでくるのだ。
モニカは嫌な感じがして、即座に視線をそらした。
(何が目的なのかしら……)
初めて彼と会話した際は忘れていたが、ミランダから以前に、イサークがモニカのことを調べていると聞いている。
モニカとの接触を始めたということは、調べる段階は終了し、実行に移しているのだろう。
「モニカ。険しい顔をしているが大丈夫か?」
カリストに顔を覗き込まれて、モニカは慌てて表情を元に戻した。
「あのっ……。大したことでは……」
「イサーク・リアマのことか?」
「先生も気がついていたのですか?」
「モニカのそばにいれば、嫌でも気がつくさ。そろそろ注意すべきか」
「私は大丈夫です。目が合っただけで注意していたら、先生のほうが言いがかりをつけているように思われますよ」
「あいつは、モニカのそばに俺がいるから近づけないだけさ。モニカに話しかけたくてうずうずしているんだろう」
「先生は、そのようなことまでわかるのですか?」
「ただの感だ」
カリストは、なぜか不機嫌そうにそう答えた。
精霊の目を通して、人とは違う視点から物事を見ているカリストが、ただの感で何かを決めつけるのは珍しいこと。
(もしかして、私のそばを離れないのは、それが理由だったのかしら)
イサークと話して以来、カリストはどのパーティーでもモニカを一人にすることはしなくなった。
(知らぬ間に守られていたのね)
「先生ありがとうございます」
モニカはカリストの腕に手を添えてにこりと微笑むと、カリストは「なにがだ?」と知らぬふりをしながら微笑み返してきた。
そのような仲睦まじい姿を、イサークが冷え切った目で見ていたいたとは、モニカは夢にも思っていなかった。





