90 モニカの婚約者1
夏の長期休暇も終わり、秋に差し掛かった今日。ロベルトの誕生日がやってきた。
この日のために熱心に準備を整えたのは、婚約者であるビアンカだ。彼女は休暇中も、騎士になる訓練の合間を縫っては、スエロ侯爵家を訪れて準備に励んでした。
モニカも暇を見つけては、リアナやミランダと一緒に、ビアンカの手伝いをした。
剣にばかり夢中になっていたお嬢様は、こういったことにめっぽう疎い。ビアンカが相談したいことは山ほどあり、侯爵家を訪れるたびに四人で熱心に案を出し合った。
その姿を、侯爵家の使用人を始め、ロベルトの両親である侯爵夫妻もたびたび目にしていた。
そのかいあってか、今日のスエロ侯爵はとても上機嫌だ。
「皆、ビアンカ嬢の準備を熱心に手伝ってくれて感謝するよ。ビアンカ嬢にとってあなた方は、かけがえのない友人のようだ」
モニカたちにそう感謝したスエロ侯爵は、しんみりと考え込むように続けた。
「私は……考えを変えなければいけないな。全ての守護者が、家庭を壊すわけではないと。そして守護者の妻が、不幸になるわけではないと。君たちは良い仲間だ」
ビアンカは女性的な活動については、モニカたちに相談しなければ不安でいっぱいな子だ。熱心にパーティーの相談する姿を見て、スエロ侯爵はビアンカにとって聖女はかけがえのない親友だと感じたようだ。
「父上。それでは……」
驚きを隠せない様子で尋ねるロベルトに、スエロ侯爵は負けたと言いたげに微笑んだ。
「私はもう反対しない。お前の好きなようにしなさい」
侯爵はぽんっと息子の肩に手を載せてからこの場を去った。
「ロベルトやったな!」
抱きついてくるビアンカを、ロベルトは感極まっているような表情を浮かべながら受け止めた。
「はい。ありがとうございますビアンカ。あなたが一生懸命に、このような素敵な誕生日パーティーを開いてくださったおかげです」
普段は淡泊そうに見えるこのカップルが、熱い抱擁を交わしていることに、周りにいる招待客も少し驚いた様子で遠巻きに見ている。
ロベルトは、父親から認めてもらうと同時に、彼がいつも悩んでいる自らの印象についても、少しは変えることができたようだ。
(ふふ。良かったわねロベルト様)
人との関係が希薄という面で同じ悩みを抱えていたモニカとしては、自分のことのように嬉しい。
今回の誕生日パーティーを提案したのはモニカだ。
これはゲームのミッションにも存在するもの。本当は、婚約者との関係が冷え切って寂しい思いをしているロベルトのために、ヒロインがパーティーを提案することになる。
ヒロインも一度はビアンカに対して、パーティーを主催してみないかと提案するも、サバサバとした性格を突き通していたビアンカは「遊びごとよりも訓練に専念したい。ロベルトとはそういう契約だ」と拒否する。仕方なくヒロインは、自らパーティーを主催することに。
その様子を見ていたスエロ侯爵は、聖女は息子を本当に大切にしているのだと気づかされ、愛のない政略結婚だけの人生よりも、夢を叶えさせようと考え直すのだ。
モニカはそれを、皆で助け合いながらパーティーを成功させることで、この八人の結束力をスエロ侯爵に見てもらい、認めてもらおうと考えた。
その思惑どおり、こうしてスエロ侯爵から認めてもらうことができた。
これで侯爵も、ロベルトが守護者になる相手が本当はモニカだと後で知ったとしても、猛反対はされないはずだ。
「お前、なに泣いてんだよ~」
ルカに茶化されて、ロベルトはやっと二人きりの世界から出てきた。
「泣いてはいません。――モニカ嬢、それに皆様も。本当に感謝します。僕とビアンカだけでは、父の説得に長い時間がかかったはずです」
「少しでもお役に立てられて良かったです」
モニカがにこりと微笑むと、ブラウリオが感心したようにモニカに視線を向けてくる。
「それにしても、モニカ嬢の慧眼には恐れ入ったよ。あの気難しい宰相が、パーティーくらいで考えを変えるとはね」
皆がモニカの守護者になると決意した後から、ロベルトは父をどう説得するべきかずっと悩んでいた。
それでモニカはこのパーティーを提案したわけだが、初めは皆、これくらいでスエロ侯爵の考えが変わるとは思っていなかったようだ。
ただモニカとビアンカがすごく積極的だったので、皆もこころよく手伝った。それだけだった。
モニカは明確な目的があったが、ここが乙女ゲームの世界であることは秘密のままだ。
「ロベルト様からお話を聞く分には、侯爵様はロベルト様の未来をご心配されているようでしたので、私たちの絆が強いとお見せするのが一番だと思いまして」
実際にモニカの思惑を伝えなくても、皆は純粋にロベルトの誕生日を祝おうと準備した。ゲームでは得られなかったこの絆を見れば、きっと侯爵は考えを変えると思っていた。侯爵はなによりも、息子の未来の家庭を心配していたから。
「ブラウリオお前、ヴィーナスモニカなめんなよ」
「ル……ルカ様……!」
ぼちぼち再会したいと思いますのでよろしくお願いします!
ラストのほうで思い悩んでいるので、今回から不定期更新にさせてください。
そして、あと一章で終わるとお伝えしておりましたが、終わるかな……?
思い悩んでいた間に気晴らしで書いた作品も連載始めましたのでよろしければ!
『悪役人生から逃れたいのに、ヒーローからの愛に阻まれています』
https://ncode.syosetu.com/n9984jo/





