68 友人関係2
「お待ちくださいませっ。皆様にご相談したいことがあります!」
モニカの声に真っ先に反応したのは、ルカだ。彼はにこりと笑みをうかべながら振り返った。
「おう。なんだモニカ?」
(うっ。ルカ様の笑顔が眩しいっ……)
このような時にスチル級の笑みを浮かべないでほしい。もしかしたら瞬時にその笑みを消してしまう相談かもしれないのに。
しかしリアナの件は、見過ごすことは到底できない事態だ。モニカは心で泣きながら言葉を絞り出した。
「リアナちゃんとブラウリオ殿下のことなのですが……」
ルカの顔を見るのすら怖くて下を向いていると、ぽんっとモニカの肩を掴む者がいた。
「モニカ。話してみろ」
(先生……)
モニカの相談事が単なる友情によるものではないと、カリストは理解しているはず。せめて真剣に聞いてくれる者が、一人いるだけでも心が楽になる。モニカはもう一度、勇気を振り絞るようにカリストへとうなずいた。
「この前、お見舞いへ行った際に感じたのですが……。殿下は、リアナちゃんが醜聞に晒されないか心配なさっているようでした。ですが実際の学園内はそのようなことはなくて、皆様はお二人が登校されないことを心配し始めておりますよね?」
モニカの認識が間違いないことを確認するように問うと、ロベルトが返した。
「そうですね。リアナ嬢はまだ守護者を一人しか得ておりませんので、失敗は付き物でしょう。噂にはなりましたが醜聞というほどではないかと。それよりも、ずっと欠席しているほうが聖女の力に問題があるのではないかと、疑念を持たれかねませんね」
モニカは同意するようにこくりとうなずいた。
「ロベルト様のおっしゃるとおり、お二人は早く復学されたほうが良いと思います。……けれどお二人は長く休んだせいで、復学のきっかけを見失っているのではないかと心配なのです。ですから私たちで、復学しやすい雰囲気を作れたらと思いまして」
ロベルトは思案しているようすで腕を組み、ルカはミランダの様子をうかがうように視線を向けている。
そしてミランダは、開いていた扇子をぱちんっと手のひらへ押し付けるようにして閉じた。
「モニカ嬢のお気持ちは、理解させていただきましたわ。ですがそれは、お二人自身が、聖女と守護者として乗り越えるべきことでは?」
「そうなんですけど、きっかけくらいは必要かと思いまして……」
「モニカ嬢のお優しさのおかげで、私たちも婚約できたので感謝しております。ですが、一国を背負うことになる王太子殿下が醜聞程度で委縮し、モニカ嬢の助けがなければどうにもならないのは問題ですわ」
厳しい意見だが、ミランダの考えは間違ってはいない。ブラウリオはいずれ国王となる身であり、ミランダは二大公爵家の夫人となる予定。もっとも近くで支えなければならない家門としては、頼りないブラウリオでは困るのだろう。
けれどブラウリオは、攻略対象の中でもっともヒロインへの執着が激しい。ヒロインを守ろうとすればするほど、過剰な行動を取るようになる。
今まさに、リアナの状況がそれを物語っている。彼女は神殿でのお祈りを滞りなくおこなえるほど、体調は回復しているというのに、登校はできていない。
ゲームの設定を考えると、ブラウリオが過剰に保護しているからだ。
「ですが、考えてみてください。お二人がこのまま孤立してしまったら、きっと心も不安定になってしまいます。そうなれば聖女や守護者の力にも悪影響を及ぼし、結界の穴はますます増えるでしょう。地下から魔獣が湧き出し、結果的に困るのは私たち国民です。これほど重大なことなのに、お二人だけに負担をおかけするのは酷だと思いませんか?」
とにかく今は、ブラウリオのストレスを取り除かなければ、彼の執着はどんどん病んだ方向へと傾いてしまう。
それが続くとゲームではバッドエンドだ。ゲームならばまた初めからやり直せばよいが、ここは現実。バッドエンドの先も続くことになる。
魔獣がはびこり、人々の住める土地が徐々に浸食されていく。まさに、かつて女神が降臨した頃のような時代へと、突入してしまうかもしれない。
(もしかして私って、バッドエンドに備えて存在しているのかしら……)
モニカはふとそんな考えが浮かんだ。
自分の存在意義とはなにか。
前世の日本ではそのようなことを、いちいち考えて生きてはいなかったけれど、ここはゲームの世界。ヒロインや攻略対象の周りにいる人間は、何かしら意味があって存在する。
もしもモニカが、バッドエンド対策用のキャラだとしたら、不自然だった自分の存在が一気に納得できるものへと変わる。
(けれど、そんな対策のために存在していたなんて思いたくないわ。これならまるでリアナちゃんがバッドエンドになると、暗示しているみたいじゃない……)
「そうなれば俺も、魔獣討伐で勉強どころではなくなるだろうな」
「そんな! ルカ様が危険な目に遭われるのは嫌ですわ!」
ルカの言葉によって、ミランダはやっと自分のこととして認識したようだ。彼女らしからぬ余裕のない表情へと変化する。
この国では、聖女が四人の守護者を得るのは当然のことすぎて、モニカのような心配をするほうが珍しい。他人事として捉えるのも無理はない。
「……僕も、政略結婚の相手とはいえ、できることなら彼女を危険な目には遭わせたくないです」
今朝は婚約者に対して、冷めた感情を持っているように思えたロベルトだが、それでも婚約者を守りたいという感情はあるようだ。モニカはほっとした。
「わかりましたわ。モニカ嬢への御恩もお返ししたいですし、今回は協力させていただきます」
諦めたようにミランダがそう宣言すると、ルカとロベルトも同意するようにうなずいた。
(今回はお願いが通じたわ!)
嬉しくて思わずカリストに笑みを浮かべると、彼も優しく微笑み返してくれる。
いつからだろうか。喜びを分かち合いたいと思う相手が、カリストになっていることにモニカは気づかされた。
それからモニカは、皆へとぺこりと頭を下げた。
「皆様、ありがとうございます!」
「それで、モニカ嬢はどうなさりたいのですか?」





