58 ルカの成長4
お昼休み。
モニカは、いつもどおりに時計塔へと向かった。もうここへは来ないと宣言したばかりなのに、完全にルカには敗北した気分だ。
「モニカ、会いたかった」
時計塔のルカはいつもと同じ挨拶をする。けれど、その表情は完全に勝者のものだ。
「ルカ様……」
「どうだ。大人な解決法だっただろう?」
正面からぶつかるタイプのルカが、幼馴染との時間を確保するため精一杯に考えた方法が、婚約してミランダの公認を得ること。
この方法が正解だったのかはさておき、公爵家の将来を考えつつも、自らの願いも叶える見事な妙案だった。
「……大切なプロポーズを、私の言葉で済まさないでくださいよ」
幼馴染を大切にしてくれる気持ちは嬉しいが、婚約者を蔑ろにするような人にはなってほしくない。
そんなモニカの言葉に対してルカは、少し寂しそうな顔を浮かべる。
「俺もモニカに言われて嬉しかったから、あいつも喜ぶかと思ったんだよ。……叶わない気持ちは同じだしな」
「叶わない……ですか?」
「大人にはいろいろとあんだよ。モニカも婚約者を決められたらわかるさ」
(政略結婚への、いきどおりみたいなものかしら……?)
婚約者を好きに選べないのは、モニカも同じだ。
いずれは家門のために、父親が決めた相手と結婚させられる。
良い相手ならば儲けもの。そうでなければ粛々と夫人の役目を全うするだけだ。
(その前に私は、お相手との関係を維持したまま、結婚までいけるかが問題だけれど……)
それに完全モブ期間の影響で、モニカの父親は婚約者探しを忘れているはず。今から思い出して探したとして、一体いつになるだろうか。
「それより、今度はミランダ嬢もこちらに誘いましょうね」
そんな遠い未来よりも、今はルカやリアナの推し活のほうが重要だ。
「あいつはこんな所で食わねーよ」
「それなら、私たちが食堂へ行きましょう」
「おう……。いつかな……」
「約束ですよ、ルカ様」
こうしてルカがゲームの設定に戻り、大人な考えも持つようになったということは、リアナの攻略は進んでいる証拠。
モニカが感じた、皆がばらばらだという違和感は、気のせいだったのかもしれない。
その頃。王家専用の休憩室では、リアナとブラウリオが二人きりで食事をしていた。
「ねえ、リアナ。ルカが今日、おかしなことを言っていたんだよ」
二人きりの時は、他人の話をしたがらないブラウリオにしては、珍しい話題だ。リアナは嬉しく思いながら返した。
「どんな?」
「モニカ嬢との幼馴染関係が、愛や結婚よりも上のような口ぶりでね」
「ふふ。ルカは、モニカちゃんが大好きだものね」
「その友情は素晴らしいけれど、俺なら好きな子は絶対に離さないよ」
ブラウリオに手を握られたリアナは、頬を赤く染めながらも、困ったように顔をうつむかせる。
「あのっ……。でも、ブラウリオには婚約者が……」
平民だったリアナは知らなかったが、ブラウリオには隣国の王女という婚約者がいる。
それを知ったのは、すっかりブラウリオの虜になった後だった。
身を引こうと思ったこともあったが、ブラウリオが許してくれずにずるずると関係が深まっている。
復帰したモニカに相談したかったが、その機会すらブラウリオに阻止されてきた。
「心配しないで。父上も、俺とリアナの結婚には乗り気でね。今、王女との婚約破棄に向けて調整中なんだ」
「本当に私、ブラウリオと結婚できるの……?」
「もちろん。今、言っただろう? 好きな子は絶対に離さないって」
「うん……」
聖女となり、不安や心細さを感じているリアナに、いつも寄り添ってきたのはブラウリオだ。
時には神殿との揉め事にも関与し、必ずリアナを助けてくれる。リアナにとっては、貴族社会でもっとも頼りになる人だ。
そんな彼が自分を求めてくれるなら、期待に応えたい。
「だからリアナも、約束してほしいんだ。俺以外の男に惑わされたりしないって」
「絶対に惑わされたりしないわ」
「嬉しいな。それじゃ約束して。守護者は俺だけにすると」
これは一年生の終わり頃に、ブラウリオがリアナの正式な守護者となってから、たびたびお願いされてきたことだ。
「でも……。神殿が許してくれるかしら……?」
神殿からは、四属性の守護者をそれぞれ得るように教えられた。
先代聖女にも四人の守護者がいる。きっと必要なことなのだろう。それを、個人の一存で決めてもよいのだろうか。
お願いされるだひにリアナは困ってきた。
「リアナが他の男と一緒にいると、胸が張り裂けそうなほど悲しくなるんた。必ず俺が四人分の役目を果たすから……」
ブラウリオは、今にも泣き出してしまいそうなほど、辛そうに顔を歪めながらリアナを見つめる。
彼はその言葉を実行するために毎日、夜遅くまで精霊魔法の訓練をしているという。
リアナと結婚するため、リアナの守護者としての力を強化するため、ブラウリオはずっと努力し続けている。
そんな彼に対して、自分はなにも報いていないのではないか。ブラウリオの辛そうな顔をを見ながら、リアナは気付かされた。
「ブラウリオを信じるわ。だから悲しまないで……」
「本当に? これからもずっと俺だけのリアナでいてくれる?」
「ブラウリオが望むならそうするわ。守護者はずっとあなた一人だけよ」
その夜。モニカは、厨房で作ったミニチュアサイズのお菓子を、せっせとテーブルの上に並べていた。
並べているそのテーブルもミニチュア。お菓子を乗せるお皿もミニチュアだ。
「わあ! これぜんぶ、おいらが食べていいの?」
「おかわりもあるからたくさん食べてね」
「ありがとうモニカ! おいら感激!」
ミニチュアな椅子に座り、ミニチュアフォークを握りしめているルーは、嬉しそうにモニカのお手製お菓子を頬張り始めた。
(ふふ。いつ見ても可愛い)
このような遊びは何度もしているが、ルーは毎度のように初めて食べるかのごとく感動して喜んでくれる。そんなルーが可愛くて、モニカはついミニチュアお茶会セットまで用意してしまった。
ちなみにこのお茶会セットを購入した際は、まだモニカが完全モブだった頃。
そのため、お店でお会計ができないモニカのために、カリストが出動することになったが。
「娘さんへのプレゼントですか?」と店員に間違えられ、困った様子でラッピングを頼むカリストの姿は、今思い出しても可愛かった。
そんなエピソードつきお茶会セットでルーをもてなしながら、モニカはミランダと話した際に、彼女が教えてくれた情報を思い出していた。





