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【三章】モブ令嬢の、幸せ推し活な学園生活 ~モブでしたが、女神として認められるよう皆と一緒にがんばります!~  作者: 廻り
第一章 『女神の再来』だと精霊に告げられましたが、それより推しに認知されたい
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04 モニカの環境2


『お父さまは、ぼくのことが嫌いなんだ……』


 厳しい特訓をそう捉えていたルカは、寂しさゆえに一人で泣いていたのだという。


 熱心に構ってもらえるだけ、良いじゃないか。


 忘れられがちなモニカは、その時そう思った。

 けれど彼には彼の気持ちがあるので、押し付けは良くない。

 モニカは、少しでも彼の気が紛れたらと思い、ルカにバケットサンドを分け与えた。


『これ、おいしいね』

『わたしが作ったのよ』

『おじょうさまなのに? キミもいじめられているの?』

『ちがうわ。みんな忘れっぽいだけなの。あなたのお父さまにも、理由があるかもしれないよ』

『うん……。そうだといいな……。キミのなまえは? また遊びにきてほしいな』




 昔を思い出したモニカは、ついつい顔が緩んでしまう。最愛の推しの幼少期に出会っていたのだ。

 やんちゃな彼も好きだし、大人びた彼もドキドキするが、幼少期の気弱で寂しがり屋なルカも愛おしい。さまざまな面がある推しは最高だ。


 モニカは改めて推しの素晴らしさを確認しつつ、多めにバケットサンドを作った。

 ルカはお腹が空いていなくても、必ずこのバケットサンドを食べたがる。お昼に差し入れたらきっと喜ぶはずだ。


 美味しそうに食べるルカの顔を思い出しつつ、バスケットにバケットサンドを詰めたモニカは「あら……?」と首を傾げる。


(このお弁当、イメージアップアイテムに似ているわ……)


 イメージアップアイテムとは、攻略対象の『信頼度』や『好感度』を上げるためのアイテムだ。

 基本的には、ストーリーを進めることでその二つを上げることができるが、選択肢を間違えて得られなかった分の補充用だったり、ストーリー内でも渡すよう指示される場面がある。


(ルカ様にこれを差し上げて、ストーリーに影響しないかしら……)


 ヒロインの邪魔をするつもりはない。モニカは心配になったが、すぐにゲームの仕様を思い出す。


 イメージアップアイテムにはゲーム内アイテムと、課金アイテムの二種類が存在する。

 課金アイテムはゲームを有利に進められる便利アイテムだが、ゲーム内アイテムはごく少量しか数値を上げられない。

 信頼度や好感度を上げるためではなく、受け取った攻略対象の反応を見て楽しむ要素が高いのがゲーム内アイテムだ。


(このバケットサンドも、ゲーム内アイテムだから大丈夫よね)




 朝食を終えて、邸宅の外へと出たモニカの目に留まったのは、馬車の準備を整えている御者の姿だった。

 彼は最後の仕上げとばかりに、御者台の前に『貴族学園』と書かれた木札を下げる。

 その様子をモニカに見られた初老の御者は、恥ずかしそうに頭を掻いた。


「おはようございますお嬢様。いやぁ。歳は取りたくないもんですね」


 彼は以前に一度、モニカを送迎していたことを忘れてしまい、出先から一人で帰ってしまったことがある。そのことが相当ショックだったようでそれ以来、忘れないようあのようにして木札に行き先を書いている。とても仕事熱心な御者だ。


(ごめんなさいっ。それはたぶん歳のせいではなくて、私がモブだからよ……)


「ごきげんよう。いつも安全に送り届けてくれて感謝しているわ。これからは毎日の送迎で大変だと思うけれど、よろしくお願いね」

「もったいないお言葉です……お嬢様。この老いぼれを見捨てず雇い続けてくださり、ありがとうございます」


 潤んだ瞳で感謝され、モニカは良心が痛む。今日の放課後は、一緒に美味しいものでも食べに行こう。そう決意しつつ馬車へと乗り込んだ。

 



 馬車に揺られながらモニカは、改めてゲームの設定を思い出していた。

 この乙女ゲームは、四人の守護者からの『信頼度』を得つつ、その中から結婚相手となる恋愛対象一人の『好感度』も得なければならない。

 恋愛対象ばかり攻略していると守護者を得られず、バッドエンドとなり。逆に守護者四人をずっと平等に扱っていても、恋愛対象の気持ちが離れてしまう。人間関係のバランスが難しいゲームだ。


(けれど前世の私は、たった一人だけに夢中だったのよね……)


 それは、今のモニカにとっては幼馴染である、ルカ・フエゴだ。

 騎士団長の息子として生まれた彼は、幼い頃から肉体的にも精神的にも厳しく育てられる。

 その厳しさが苦痛となり少々擦れた性格となるが、ヒロインの優しさに触れることで考えを改め、守護者として彼女を守ろうと成長する。


 やんちゃだったルカが包容力たっぷりのイケメンに変化する様に、前世のモニカはキュンとし夢中になった。

 ゲームを一度クリアした後は、ルカとのエピソードばかり繰り返しプレイしていたほど。


 そんな『推し』がいる世界へと転生したモニカは、実は生まれた瞬間から前世の記憶を維持していた。

 大好きな推しと出会えるかもしれない幸運を手にしたというのに、モニカは歓迎パーティーの日までそのことを、忘れていたのだ。


 モニカの存在を忘れがちなのは、周りの者だけではない。モニカ自身ですら自分のことを忘れてしまっていた。

 それがゲームの強制力によるものであると、階段から落ちた時にモニカは理解せざるを得なかった。


(モブなのは残念だけれど、これからは毎日のようにルカ様にお会いできるのね。それだけでも幸せだわ)


 モニカは割と、登場回数の多いモブだ。それはつまり、ストーリーを間近で見学できるということ。

 ヒロインが誰を攻略するかはまだ分からないが、いざとなれば全力で推しを応援するつもりだ。





 学園の門で馬車を降りたモニカは、門の奥にそびえ立つ校舎の時計塔を見上げた。


「わぁ! やっぱり、前世の記憶と同じだわ」



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◆人物紹介◆

モニカ・レナセール
伯爵令嬢。乙女ゲームのモブ

カリスト・ビエント
教師・男爵家の養子。乙女ゲームの攻略対象(初心者用)

ルカ・フエゴ
公爵令息・騎士。乙女ゲームの攻略対象

リアナ
聖女・平民。乙女ゲームのヒロイン

ブラウリオ・ アグア・プロテヘル
王太子。乙女ゲームの攻略対象

ロベルト・スエロ
侯爵令息・宰相の息子。乙女ゲームの攻略対象

ミランダ・セーロス
公爵令嬢。乙女ゲームのルカの婚約者

ビアンカ・ソルダー
辺境伯令嬢。乙女ゲームのロベルトの婚約者

イサーク・リアマ
男爵・ルカの従兄。乙女ゲームの悪役

ルー
火属性の精霊

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◆作者ページ◆

~短編~

契約婚が終了するので、報酬をください旦那様(にっこり)

溺愛?何それ美味しいの?と婚約者に聞いたところ、食べに連れて行ってもらえることになりました

~長編~

【完結済】「運命の番」探し中の狼皇帝がなぜか、男装中の私をそばに置きたがります(約8万文字)

【完結済】悪役人生から逃れたいのに、ヒーローからの愛に阻まれています(約11万文字)

【完結済】脇役聖女の元に、推しの子供(卵)が降ってきました!? ~追放されましたが、推しにストーカーされているようです~(約10万文字)

【完結済】訳あって年下幼馴染くんと偽装婚約しましたが、リアルすぎて偽装に見えません!(約8万文字)

【完結済】火あぶり回避したい魔女ヒロインですが、事情を知った当て馬役の義兄が本気になったようで(約28万文字)

【完結済】私を断罪予定の王太子が離婚に応じてくれないので、悪女役らしく追い込もうとしたのに、夫の反応がおかしい(約13万文字)

【完結済】婚約破棄されて精霊神に連れ去られましたが、元婚約者が諦めません(約22万文字)

【完結済】推しの妻に転生してしまったのですがお飾りの妻だったので、オタ活を継続したいと思います(13万文字)

【完結済】魔法学園のぼっち令嬢は、主人公王子に攻略されています?(約9万文字)

【完結済】身分差のせいで大好きな王子様とは結婚できそうにないので、せめて夢の中で彼と結ばれたいです(約8万文字)


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